閑話その2

モゾモゾと近くで動く気配がした。

「…京ちゃん?」

「ん。奈緒ちん。こっち来て」

布団から頭を出した京ちゃんはまだ目が開けられないようで、目を閉じたまま、こちらへ手を伸ばした。

「あんまりくっつけないよ。京ちゃんがお腹叩くかも…ってそれはないか。京ちゃん、寝相良いもんね」

「ふふ…うん。だから、来て」

「甘えた京ちゃんなのー?」

「うん」

私は出来るだけ京ちゃんの方に寄った。

「温かい」

「それなら良かった。まだ、早いし寝よう」

「うん」

京ちゃんは時々甘えたになる。長男だから、甘えられなかったのかな、と思ったけど、あのしっかり者の涼君が弟ならそれも無いように思う。


始め、結婚当初は京ちゃんの実家で暮らすという案が出ていた。京ちゃんは長男だから、必然的にそうなのだと思っていたが、実家には涼君や梨沙ちゃんがいる。そう考えると京と2人で過ごした方が良い、とお義母さんが言ってくれた。本当に有難い。こんなに良いところめったに無いと思う。京ちゃんも私を救ってくれたし。


私と京ちゃんとの出会いは今から3年前。

私がバイト先で怒られていた時に仲立ちをしてくれた。始めは、チャラい男だと思った。でも、毎日バイト先に通ってくれて、今日は大丈夫か、と聞かれる度に嬉しい自分に気づいた。ああ、京ちゃんの事が好きなんだ、と自覚したが、告白をするつもりはなかった。家でもゴタゴタがあったから。

そんな日々を2ヵ月程過ぎた頃、京ちゃんが私に告白してくれた。付き合ってくれ、って言ってくれた。嬉しいが胸をいっぱいにしたけど、断った。京ちゃんは私と居るべきじゃないと思ったから。京ちゃんは諦めず、私に何度も告白してくれた。

その一途さにも惹かれ、気づけばOKサインを出してしまっていた。

胸の中でしまっておくには大きすぎる思いだった。


それからトントン拍子で進み、養父母とは良くもない、悪くもない関係を築きながら、ここまで来た。

赤ちゃんが出来たときは凄く焦ったが、京ちゃんはそれを望んでいたように思う。私も京ちゃんがいてくれるなら産んでもいいと思えた。


ちらりと時計をみると、朝方の6時。そろそろ朝食を作りに行こうと体を起こす。上に温かい服を着て、お義母さんが待つであろうキッチンに向かった。

「お義母さん、手伝いますよ」

「あら、まだ寝てて良かったのに。体は大丈夫?」

「大丈夫です」

「そう?じゃ、手伝ってもらうわ」


京と一緒なら、どんな道でも進める。

ありがとう、京ちゃん。いや、京。


7時になると京ちゃんはダイニングに起きてきた。私は京ちゃんの元に駆け寄り(はや歩き)、耳元に口を寄せて、呟いた。




「大好き」

真っ赤な顔の京ちゃんが目の前にいる。いつも飄々としているから凄く新鮮だ。

「俺も」

顔を隠しながら、言ってくれた。

「うん」

これからも京ちゃんと2人でこの子を守っていこう。


「ありがとう、旦那さん」

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