第4話 2度目の襲撃

__夕方。

あれから、3時おやつを存分に頂いた俺達は、兄貴の連絡をした人達と会う時間までのんびりと過ごしていた。


「そろそろ時間だなぁ」

そう言って立ち上がった兄貴の後に続き、立ち上がる。

場所を移動するためだ。

ここは、兄貴の嫁の奈緒さんや茉莉、そして母さんがいる。こんなところでコピーはしない方が良いと言う判断だ。

「じゃ、中洲なかす公民館に行こう」

中洲公民館は俺の家から10分圏内にある公民館。あそこは防音や警備もしっかりしている。

俺達は、ダイニングルームから廊下に出て、少し広い玄関で靴を履いて外に出た。

外は夕方特有の夕日が辺りを照らしていたが、少しの肌寒さも感じた。

玄関から敷地内の駐車場に向かい、兄貴はスキニーのポケットから鍵を取り出し、車を開けた。

この車は親父のもので、今日は母さんが使っていたものだ。


人類は超能力というものを手に入れたが、それを日常生活にどれだけ役立てられているかと言ったら、あまり役立てられてはいない。

現に、スマートフォン、通称スマホの進化版のようなものがある。その名も、『シンプルフォン』、通称『シフォ』。シフォは、スマホをもっと小型に、もっと高機能にしたタイプである。例えば、形はその人が身に付けているものに取り付ける事が出来るほど小型化し、使うときに1ヶ所ボタンが付いているためそれを押すと掌サイズとなる。また、サイトを見る際もシフォから、それに組み込まれていたイアホンを伸ばし、耳につける。そうすると、耳に触れている部分から出る高周波で脳が考えていることを読み取り、自動で検索してくれる。これは何もサイト検索だけでなく、メールや電話をする場合でも使える。

そのため、電子機器は結構利用されている。


目の前の車も最新のものだ。母さんが好みそうな丸いフォルムに、白と黒の絵の具を飛ばしたような柄だ。そしてなんと言っても、その機能。タイヤはなく、地場を利用した微動だにしない車は自動操縦可能で、ガソリンの代わりに大気中にある気体を使い、車の中を循環させることで、大気中の水素や窒素、酸素、その他の気体を有効活用している。また、陸海空万能型でそれぞれ時速150キロメートルは出るものである。


俺達は車に素早く乗り込み、兄貴がエンジンをつけると同時に出発した。

外の景色が素早く動く。


(うっ、酔いそう)


兄貴の車の運転は上手い下手の前に荒く、スピードを出しまくっている。そんなものに乗れば、たちまち酔うに決まっている。

(よく、奈緒さんもこんな運転に我慢してるな)

等と失礼な事を考えながら、揺さぶられること約10分。

やっと目的地に着いた。

中洲公民館は、そのデザインを有名建築家がしており、目でも楽しめる。例えば、忍者屋敷のように入り口は1回転式で、壁と一体化している。ここらの住民は何かと公民館に集まるので、皆入り口を知っているから良いが、何も知らない人がいたら、中々中に入れないだろう。

「お、皆集まってるな」

先頭を歩く兄貴の声に、集まっていた人達が振り向いた。2人は知っている人だったが、残り1人は知らない人だった。

「お、京。やっと来たか!」

そういったのは、兄貴の友人の…確か、小立充こだちみつるさんだ。皆からはみっつと呼ばれていたはず。

「みっつの言う通りだぜ。いきなり、緊急事態だとかで呼びやがって…」

そう言って、あきれた顔をするのはもう1人、兄貴の友人の鈴川猛すずかわたけるさんだ。こちらはたけと呼ばれていた。

「僕もだよ。いきなりだったから驚いたよ」

そして、初めて見た人。パッと見、優男だ。

「いやぁ、悪いっ!」

「お前、悪いって顔してないじゃないかよ!」

猛さんに激しく同意する一同。

「ところで、もう皆は自己紹介すんだか?」

「いや、僕はまだなんだ。皆、2人の事は知ってるようだね」

驚いた。何故そんなことが分かったのだろうか?いや、そんなことは分かりきっている。能力だ。半径何メートルかは分からないがその範囲内にいる人の心を読めるらしい。″透心″テレパシー

「ふっ、流石だな。りん。彼は中藤燐なかとうりん。能力はテレパシー」

「中藤燐です。よろしく」

「こちらこそ。小立充です。みっつって呼んで。能力は″大風″ウィンド。風を操るよ」

「俺は鈴川猛。たけって呼ばれてる。能力は″土壁″バリア。ガードするときは最強だ」

「俺は河瀬涼。能力はコピーとストックの2つです」

「俺は剛力健太郎。能力はシールドです」

「よし、一通り終わったね。じゃ、燐とけんたろ君。能力の発動をお願い」

「わかった」

「わかりました」

「燐の能力で周囲に人が来たら分かるようになるから。そして、けんたろ君の能力で聞こえなくなる。よし、話を始めよう」

「ここからは俺から…。単刀直入に言います。俺に2人の能力をコピーさせて下さい。大切な人を守りたいんです」

「理由は言えないのか?」

「すみません」

「俺はいいよ」

ここでずっと傍観していたみっつさんが口を開き、許可をくれた。

「まぁ、別に無理と言いたい訳じゃない。ただ、どうしてコピーしたいのか気になっただけだから。俺もいいぞ」

猛さんにもだだ興味本位で聞いていただけだと許可してくれる。

「ありがとうございます」


コピーは大抵コピーしたい相手に意識を集中して行う。

現在、所持している3つは博士のISMCに所属している人から頂いたものだ。

そうこうしている間にコピーをし終わる。

「終わりました。ありがとうございました!」

俺は2人にお礼を言う。

「なぁに、京に頼まれたからな。京、後で嫁さん見せろよ」

「おう」


そこで俺達は別れた。兄貴達は後でまた会うらしい。

「けんたろ。今日はありがとな」

「いいって。お安いご用さ」

「けんたろ君、家に送っていくね」

「ありがとうございます、京さん。お願いします」

「けんたろ、明日からも頼む」

「わーってるよ」


けんたろを家に送っていき、俺達も帰路に着いた。

家に着くと、親父も帰ってきており、宴会状態だった。俺ら同様に格好いい見た目の親父は40歳には見えない。これは母さんも一緒だが。


「あら、2人ともおかえり。どうだった?」

気づいた母さんが声を掛けてくる。

「もうばっちし!」

「そう。良かったわね。奈緒さんは京の部屋に居るわよ。ちょっと疲れたらしくて休ませてるわ」

「まじで!?行く。ありがと、母さん」

母さんから奈緒さんの事を聞いた兄貴は2階に行く階段をかけ上がっていった。

「涼、茉莉ちゃんもあなたの部屋に居るわよ。行ってきなさい」

「ありがと、母さん。あ、これ鍵」

俺は母さんに兄貴から貰っていた鍵を差し出す。そして、2階に行く階段を上っていった。


2階に行くと茉莉が俺のベッドで寝ていた。

俺は茉莉を起こさず横抱きにして、家まで運ぼうと持ち上げた。そのまま階段を下り、母さんに茉莉を届ける旨を伝え、茉莉を家に運んだ。茉莉の家には父親の弘人ひろとさんがいた。そこそこ挨拶をして茉莉を部屋に運ぶ。

俺は茉莉の寝顔を見て思う。

こんな日々が続いていけばいいと。



__翌日。

けたたましい着信音を聞いて、そらは当分叶わないのだと気づく。


昨日よりも珍しい″電話″が博士からかかって来た。

『涼、緊急事態だ。


ラボがまた襲撃された。』


これで決定だ。ラボが2度も襲撃されることは無いに等しい。

ラボの中に___反逆者裏切り者がいる。


朝の眩しい位の日の光が俺の目を刺激した。

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