第3話ISMCからの手紙
ガラッ。
勢い良くドアが開く。
入ってきたのは予想通り、けんたろだった。
「落ち着いて聞けよ。ISMCから緊急の手紙だ」
″ISMC″。国際特殊能力医療センターの略称だ。
ISMCはその名の通り、超能力専門の医療センターのことで、茉莉の掛かり付けの病院でもある。セキュリティはしっかりしているし、警備専門の能力者もいる。
そこから、″緊急の手紙″というのは、大変なことだ。ISMCには予知の能力を持つ、能力者もいるため、大抵のことは事前に知らせてくれる。
「何てかいてあるんだ?」
俺は緊張した面持ちで聞く。
「ああ。これがその手紙だ」
けんたろがスラックスのポケットから出したのは白い便箋。表にも裏にも何も書かれていない。
開けて中の手紙を出し、開いて読む。
『やあ、元気かい?茉莉に涼。
今日は大事な話がある。涼、お前の能力ででもいいし、健太郎君?の能力でもいいからシールドをはってくれるかな?』
博士はこの状況が分かっているかのように、手紙を書いていた。
博士。本名、津山よみ。彼女は17才の時からその能力と頭の良さを買われ、ISMCのラボで働いている、れっきとした博士だ。能力は
けんたろがシールドをはったのを感じ、俺達はまた、手紙を読み出す。
『さて。ここからが本題だ。
今日、ラボに悪行集団
話は以上だ。
2人のあまぁーい時間を無駄にして悪かったな。』
「…っな!」
博士の最後の一言に茉莉が顔を真っ赤にして抗議の声をあげるが、なんせ手紙だ。博士が聞いている訳がない。
手紙を閉じ、俺達は深刻な顔で話し出す。
「最悪だな。兄貴を呼ばないとな」
「ああ、京さんな」
けんたろは俺の言葉に同意した。
そう、兄貴は別に髪に色を染めるのが能力ではない。それが能力の1つというだけだ。
実際は
「別に、京君を呼ばなくても良いんじゃないの?」
茉莉は呑気にこんなことを言い出す。
「いや、呼んだ方がバレずに済む」
「いや、だって、私が願えば良いんじゃないの?」
それはそうだ。茉莉が願えば、大抵の事は叶うのだから。
「それは止めといた方が良いと思うぞ」
けんたろは、茉莉の言葉を否定する。
「俺もけんたろに賛成だ」
「なんでよ?」
「もし茉莉が願えば、その反動で一晩は起きられなくなる」
そう。茉莉の願いは強い。が、それゆえの危険が伴う。願いが大きくなればなるほど、その反動は大きい。
「大丈夫だよ、一晩くらい」
「いや、危険は犯さない方が良い」
「そうだな、やめた方が良い。やっぱり、京さんを呼ぼうぜ」
「そっかぁ。じゃ、京君にお願いしようかな」
「その方が俺も安心だしな」
「うん!涼はストック出来るもんね」
俺の能力は、2つ。っていっても、能力2つ持ちは少なくない。1000人に1人の確率でいる。
1つ目は
2つ目は
この能力を使い、兄貴を呼ばなくても良いんだが、俺と兄貴の能力の相性は決して良くはないためストックしていない。だから、兄貴を呼んだ方が確実なのだ。今、俺のストックには、3つの能力がある。1つ目は、
そして、これに弱点は雷以外ないと言える。なかなか使えるのだ。
「じゃ、早速京さんに電話するわ」
けんたろが事情を伝えてくれるらしい。そろそろ、シールドが切れるかもしれない。俺はけんたろのシールドの上にコピーしたシールドをはる。電話中でも周りには聞こえないようにするためだ。
『はいはーい。京でーす。けんたろくーん?どしたのー?』
やけに間延びした声が耳につく。
「京さん、すぐに学校に来てもらえますか?」
『なに?重大?』
「はい」
『おっけー!じゃ、
奈緒ちんこと
瞼を閉じて開いたら、そこには兄貴と兄嫁の姿があった。
「いいのかよ、妊婦連れてきて」
「だいじょーぶ!安定期に入りましたからぁー!」
心配の声をあげれば、呑気な兄貴に跳ね返された。大丈夫らしい。
「こら、京ちゃん!駄目でしょ、パパになるんだから。しゃきっとして!ごめんね、涼君」
兄嫁の奈緒さんは素晴らしい人だ。こんな兄貴を尻に敷き、操縦している。女ったらしだった兄貴をここまで変えてくれたし、頭が上がらない。
「いえ、大丈夫です」
「茉莉ちゃん、久しぶり。元気?」
「はい、元気です。奈緒さんも元気そうで何よりです。赤ちゃんはどうですか?」
「ええ、順調よ。ところで、そちらはけんたろ君でしょ?いつも主人がお世話になっております。京の妻の奈緒です」
「あ、いえ、こちらこそ。涼の友達の剛力健太郎です」
「奈緒ちん、こっちみて」
兄貴は皆と話してる奈緒さんに嫉妬したのか、奈緒さんを離さない。
まあ、仲良くて何よりだ。
「で、本題に入ろうか。俺を呼んだって事はもう見つかったか?」
「ああ。今日、ラボに襲撃があったらしい」
「そうか。じゃ、奈緒の能力で帰ろう」
「いいのか?」
「問題ない。医者からもOKを貰っている」
「そうか」
話がまとまった所で、奈緒さんが口を開く。
「決まったね。じゃ、みんな準備は良い?」
「はい」
「じゃ、行くよ」
瞬きをして開くとそこは家だった。
やっぱり、すごい。奈緒さんは5人分もテレポーテーションを使ってしまった。
母さんはいきなり現れた俺らに驚いたのか、口をあんぐり開けている。
やっと、意識を戻し、
「おかえり」
と言った。
「お義母さん、ご無沙汰しております」
「あぁら、奈緒ちゃん!つわりは大丈夫なのー?」
「はい、やっと安定期に入りました」
母と奈緒さんの話は長引きそうだ。
茉莉は2人のところへ行き、台所の手伝いをするようだ。
「さて、今後どうする?」
ダイニングテーブルに兄貴、俺、俺の目の前にけんたろと座り、今後のことについて話し合う。
「なぁ、涼。先生に言ってくるの忘れてたけど、大丈夫か?」
「あ、やべっ。忘れてたわ。母さん!」
母さんの能力
「なぁにー?」
「先生に言ってくるの忘れてたから、早退したって伝えといて」
「全く。なにやってるのよ。分かったわ」
とりあえず、了承してくれたようだ。
「じゃ、本題に入ろうぜ」
「まずは、けんたろ君がシールドをはってくれるかな?」
「わかりました」
けんたろが頷き、集中し出す。
体を何かが駆けて行くのを感じながら、俺達は会話を進めた。
「兄貴、大体の説明はしたと思うけど、茉莉が危なくなった。今までの警護じゃ甘い」
「そうか。じゃ、警護 を増やそう。信頼できるやつをISMCから送ってもらった方が良いね」
兄貴は紅茶を飲もうとしたのか言いながら、席を立ち、戸棚からカップを3つと紅茶の葉が入った缶を取り出した。ティーポットに紅茶の葉を入れ、お湯を注ぎ、カップに注ぐと戻ってきた。
「ですよね。そうと決まれば、博士に連絡しないとですね」
けんたろが腕時計に手をやったのが見える。
俺はふと気がついた。
「いや、待てよ。博士は手紙では何も言ってなかった。俺達がこの結論に辿り着くことを知っていた筈だ。なのに何も言ってなかったのは、それができないからじゃないか?」
「そういえばそうだな」
兄貴がまたもや頷きながら答える。
「……ラボに襲撃があったのは、何故か?」
「え?何?」
けんたろは困惑した表情を隠せない。
「そうか、ラボに密告者がいる」
「その可能性が高いね」
俺の推理に兄貴が同感だと言う風に立てに首を振り頷く。
「それじゃあ、……」
「ああ、ラボは宛にならない」
「今すぐ信頼出来るやつを集めることは困難だね」
兄貴が神妙な顔で言う。
「仕方がない。俺の同級生を当たってみるよ」
「ああ、頼む」
「京さんの同級生に警護させるんですか?」
「いや、それはあまりににも危険が大きい。涼が相性の良い能力をストックしよう」
「確かに。その方がいいですね」
「そうと決まれば、連絡を取らないとな。少し時間が掛かるが大丈夫か?」
「まだ昼だし問題ない。何処に呼ぶんだ?」
「出来れば近くが良いな」
「じゃ、公民館で良くないか?」
「了解。夕方には有力な候補を公民館に呼んで、兄貴」
「おーけー!」
まとまった所で3時のおやつがでてきた。
一先ず、おやつにしよう。
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