2-2
「花鶏先輩! 勝負です!」
「いいだろう、受けて立つ!」
俺と鴇ちゃんは教室の真ん中で向き合って立ち、多くのギャラリーが見守る中、お互いに火花を散らして睨み合う。これから真剣勝負が始まるのだ。
鴇ちゃんと初めて出会った日から、彼女はちょくちょく昼休みに顔を出すようになった。
そして毎度のように、俺の姿を見かけるや否や勝負を吹っ掛けてくる。
「今日こそは地獄へ送ってやります……! 覚悟してくださいね」
鴇ちゃんは親指で首を斬る仕草をした後、その指先を床に向ける。
「返り討ちにしてくれるわ……!」
俺も額に手を当てて応じる。
これは俺が思い付く範囲の、精一杯の厨二っぽい仕草だ。
「いきます……!」
「いくぞ……!」
両者共に、構える。
数日前に出会ったばかりの俺と鴇ちゃんは。
「「最初はグー、ジャンケンポン! あっち向いてホイ! ジャンケンポン! あっち向いてホイ! ジャンケ――」」
普通に仲良くなっていた。
空手部のおバカ系後輩、一ノ瀬鴇。通称、鴇ちゃん。
彼女は意外と話の分かる奴で、話していてなかなか楽しいのだ。
そしてなにより。お互いに吉永さんの素晴らしい所を語り合える、唯一の同志だ。もちろんライバルでもあるのだが、切磋琢磨できる好敵手は良い刺激になる。
「あっち向いてホイ!」
「あっ……」
勝敗は決した。
俺の渾身のあっち向いてホイが見事に炸裂。鴇ちゃんに上を向かせることに成功した。
「また負けたぁ……」
「クハハハハハ! 俺に勝とうなど百年早いわ、出直して来い!」
「く、くやしい!」
腰に手を当てて高笑いする俺と、その場に崩れ落ちて地面に手を付く鴇ちゃん。
「でも、まだまだ勝負はこれからです!」
「ほう……。まだ立ち上がるか……!」
よしよし、お互いノッてきたぞ。
「次は毎度恒例の、『金糸雀先輩クイズ!』で勝負です!」
「望むところだ!」
外野からも歓声が上がる。主に男子だけど。
説明しよう。『金糸雀先輩クイズ!』とは、吉永さんについての問題を交互に出題し、相手に答えさせるというクイズ形式のバトルだ。
これの素晴らしいところは、クイズという大義名分の下に、俺と鴇ちゃんがお互いに吉永さんの新しい一面を知ることができるという点だ。
このゲームを最初に聞いたとき、俺は鴇ちゃんのことを本物の天才だと確信したね。
「じゃあ、俺から出題するぞ」
「どこからでもかかってこい、です」
「先週一週間の昼食時、吉永さんが飲んでいた飲み物。答えられるか!?」
「ふっふっふ。その程度ですか……」
「なにっ!?」
余裕綽々な態度の鴇ちゃんを見て、俺は激しく動揺する。
この問題は俺のとっておきだったんだが。
「答えられる……、というのか……」
「私を誰だと思ってるんですか? 金糸雀先輩の一の子分、一ノ瀬鴇ですよ?」
子分だったの!? 初耳だわ。
だけど、声に出してツッコミはしない。せっかく盛り上がってきているのに、この緊張感溢れる雰囲気をぶち壊すわけにはいかないからな。
「その私がこの程度の問題、答えられないわけないでしょう?」
「だったら、答えてもらおうか……。飲み物の種類をよぉ……」
「月木金はイチゴ牛乳。火曜は麦茶。水曜はオレンジジュース。です!」
俺に向かって、鴇ちゃんはビシッと人差し指を突き付けた。
「馬鹿な……」
今度は俺が崩れ落ちる番だった。床に拳を叩きこむ。
完全に一致してやがる。
くそ……。さすがストーカーだぜ。
吉永さんが口にしたものはほとんど把握できているってことか。
「では、次は私が出題する番です……!」
いや、焦るな。ここで答えられればまだ挽回できる筈だ。
「金糸雀先輩の身長と体重は――」
もらったぁぁぁああああッ!!
「身長、百六十七・四センチ! 体重、五十四・二キロ!」
勝ったな!
この前の身体測定のとき、うっかり記録カードを見てしまったのだ。うっかり、だから故意じゃないぞ。
だから周りの女子たち、汚物でも見るような眼で俺を見るんじゃない。
「――ですが!」
「なにぃ!?」
「金糸雀先輩のスリーサイズはいくつでしょうか? 上から順に答えてください」
クラス中がどよめく。特に男子生徒。
「く……。スリーサイズまではさすがに分からん……」
つーか、そこまで把握してたらもう完全に犯罪者の仲間入りだろ。
「ふっふっふ。これはとっておきですからね……!」
うーむ……。吉永さんのスリーサイズ、か。
知りたいっ!
「降参ですか?」
「く、悔しいが……。今回は俺の負けみたいだ」
もう負けでもなんでもいいから、さっさと吉永さんのスリーサイズ教えろ。
「残念でしたね! では、正解を発表しましょう!」
野次馬の男子生徒たちからも歓声が上がる。
わかるぞ。可愛い女の子のスリーサイズは知りたくなるもんだよな。それが吉永さんみたいに巨乳なら尚更だろう。
「上から……、あ――」
鴇ちゃんの表情がピシッと固まる。いつの間にか教室もしんと静まり返っていた。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。そこに居たのは。
「お前ら……、覚悟は出来てんだろうな?」
こちらを見下ろす、金髪の悪鬼の姿。
「何か言い残すことはあるか?」
「え、と……。意外と体重重いんだね!!」
俺の断末魔が校内に響き渡ったのは、その一瞬後のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます