Episode 10

「タオルは持ったか?」


「うん、持ったよ」


「水筒は持ったか?」


「持ったよ?」


「えーっと、他には…」


「もう!ボクもう高校生なんだからそんなに色々面倒見てくれなくてもいいの!」


「お、おう。わかった…」


「行ってきます!」


ちょっとご立腹な様子で柊香は家を出る。今日は学校行事のトップ3の1つ、体育会の日である。改めて確認すると、今回柊香が出場するのは200m走と借り物競走。走ること自体は花梨と特訓してある程度運動部の人間にも通用するまでにはなったが、借り物競走に関してはやってみないと分からないというのが正直なところである。なんていったって、柊香たちの通う高校の借り物競走は障害物競走も兼ねているのだ。というのを柊香は昨日知ったばかりで、始まる前から早くも億劫なのである。


「う〜、ボク元々運動苦手なんだけどなぁ…、どうしてこうなったんだろう…」


「よっ、せっかくの体育会なのになーんでそんなしけた面してんだ?」


「あ、花梨ちゃん…」


既に体操服に着替えて走る気満々な花梨が柊香に追いつく。柊香はこういう花梨を見て、なぜ帰宅部なのかつくづく疑問に思う。体育の授業で体力テストをやればブッチギリで学年1位になり、サッカーの練習で人数が足りなくて男子の助っ人に入った時はハットトリックを決めていた。『なぜ小宮花梨は運動部に入らないのか』という議論が運動部顧問たちの間で行われていたことすらある。


「柊香、準備はできてるか?私はいつでもいけるぜ」


「その前に1つ突っ込んでいい?」


「なんだよ?」


花梨が首をかしげる。


「なんで体操服に着替えて登校しようと思ったの?」


「いやだって、学校で着替えるのめんどくさいし」


「一緒に登校するボクのことも考えてよ。さっきからすごい視線感じるんだけど…」


「えっ…」


花梨はハッとして周りを見回す。通学中の学生や通勤中のサラリーマンが皆揃ってチラッチラッと視線を向けている。そうわかった途端に背中がゾクっとした。


「どうしよう…」


「あれ?2人ともどうしたの?」


人混みの中から運動する気など微塵にも感じさせない制服姿で蓮がやってきた。なにやら『正しい後悔の仕方』という本を持っている。


「いやー、ちょっとね…」


思わず適当に取り繕う。


「綺麗な生脚が見えたけど、それに関係あるの?」


「生脚言うな!!!」


蓮は満面の笑みで『えー、せっかく綺麗だったのに〜』と隣に並んで歩く。表裏の見えない彼のことだから、本意でかつ無意識に言っているのだろう。


「と、とにかく見るな!」


「今更恥ずかしがるなら制服でこればよかったのに…」


「考えたことも無かった」


「あそう」


「うぅ…どうすれば…」


「まあ、もう着くけどね」


「あ…」


花梨が恥ずかしがっている間に3人は学校に到着した。が、すぐに花梨はトイレに篭ってしまった。

「私が出る競技になるまで呼ぶなよ!絶対だからな!」


「わかったよ〜」


個室で顔を真っ赤にして丸まっている花梨を放置して、柊香と蓮は準備に向かった。






「いや〜、生脚綺麗だったね〜」


「それ本人の前でもう言わないほうがいいよ?」

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