Episode 09

「ハァ、ハァ、ボクもう無理、これ以上動けないよ…」


「………」


「何言ってんだ。まだまだこれからじゃないか」


「………」


「そんなこと言っても、もう腰が抜けそうで…」


「………」


「とか言って身体はまだまだいけそうだけどな」


「えぇ…」






「………お前ら、仮にも思春期の男子の前で何やってんの?」


「?何って、柊香のための体育会の短距離走(200m走)の特訓だけど」


「さっきの文面からはとてもそうは見えなかったけどな!!!」


「もう楓ったら〜、発情しちゃって〜。キモいぞ?」


「いちいち腹たつな!」


柊香と花梨に引っ張られて、楓は家の近くの総合運動公園に来ていた。花梨は体を動かしたいときによく来るのだとか。


「花梨ちゃ〜ん、もう無理〜、限界…」


「仕方ないなあ、ちょっと休憩するか」


浅い呼吸で胸を上下させながら柊香は芝生に寝転ぶ。


「ゴクリ…」


「汗かいてちょっと色っぽい彼女の姿に興奮するとか、楓最低だな…」


「冤罪!!!」


「楓…流石のボクもちょっと引くよ…」


「理不尽!」


必死に抗議する楓を横目にケラケラ笑いながら、花梨も少し走る。


「花梨ちゃんほんと足速いよね。帰宅部なのに」


「お前50m走何秒?」


「え?6秒ちょいだけど」


「「………」」


「な、なんだよ…」


「なあ、花梨本当に帰宅部なんだよな?」


「そのはずだけど」


「2人して何なんだよ!」


2人から『ありえないわぁ…』という顔をされた花梨は、少しムキになった。


「もうお前が短距離走出ろよ」


「そうだよ。ボクあんまり運動得意じゃないし」


「私は長距離走も出るからなあ。体力は温存しときたいんだよ」


「なら仕方ないな。柊香、ファイト」


「楓の鬼ぃ!!!」


「ははは、まあ柊香は筋は良いから頑張れば結構いい線いけると思うけどな」


「花梨ちゃんって時々男っぽくて素敵だね!」


「あ〝?」


「ゴメン!わざとじゃないの!!!」


「追加でトラック4周」


「花梨ちゃんの鬼ぃぃぃ!!!!!」











ーーーーーーーーーーーーーーー





夕方、柊香は楓に支えられてなんとか帰宅した。


「あぁ〜、明日筋肉痛で歩けないかも…」


「どんだけ普段運動してないんだよ…」


「だって帰ってきたら基本的にダラダラ過ごしてるし」


「よくそれで太らないもんだな…」


「あ、楓!女の子に太るとか言っちゃダメ!」


「じゃあ、『よくそれで肥えないもんだな…』」


「なんか余計にバカにされてる気がする!!!」


「悪い、つい」


「ノリで意地悪しないでよ!!!」


「ゴメンって。ほら、お前が食べたがってたシュークリーム買ってきてやったぞ」


「おぉ!楓ナイス!」


(チョロいな…)


まるでリスのように小口ではむはむ食べる柊香を見て、楓の頰が緩む。なにこれ可愛い。


「なぁ、この前聞きそびれたんだけど、借り物競走の案何出し「またギュッとしてあげようか?」はい、すみません…」


柊香はジト目で楓を睨み、プイッとそっぽを向いてしまった。そして再びはむはむとシュークリームを食べ始める。楓はスマホを出すと、ある人物にメッセージを送った。


『柊香が出した案を絶対に柊香が引くようにできるか?』


『任せといて!』

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