Episode 08
「よしっと、これであの2人を…ふふふ」
「柊香はなに書いたんだ?」
「うわぁぁぁ!!!花梨ちゃん、いきなり話しかけないでよ…」
「あぁ、ごめん」
HRの真っ最中、みんなで体育祭の借り物競走の「借りるもの候補」をアンケート方式で集計しているところだ。
「で、なに書いたの?」
「秘密!」
「えぇ、いいじゃん教えてよー」
「やーだーよー、ボクの口は堅いんだ」
「この間誰にも言うなって釘を刺したのに私の秘密速攻で楓に漏らしたのはどこの誰だっけ?」
「あー、そんなこともあったねー(棒)」
「はぁ…」
柊香はどうにか話を逸らそうと、横に座っていた蓮に目を向ける。
「蓮君は何書いたの?」
「僕?えーっとね、『円周率100万桁表』だよ!」
「…」
「…」
「…?」
蓮がキョトンと首をかしげる横で、柊香と花梨は深くため息をつく。
「それ持ってる人たぶんこの学校にはいないと思うよ?」
「借り物競走って借りなきゃいけないものをなかなか見つけられないから面白いんだよね!」
「もはやこれはある種の嫌がらせなのでは…」
花梨がブツブツ言いながら書いた案を提出しに行っている横で、柊香は自分のを見て軽く紙を握りしめる。
「やっぱりこれは自分で引かないとな…」
「ん?どうかした?」
「ううん!なんでもないよ!ほら、早く出しに行こ!」
「ほほう…」
そんな2人を見ていた蓮は、ちらっとだけ見えた柊香の紙を見て微笑んだ。
「なるほどねぇ…」
ー放課後・姫川家ー
「ただいま〜」
「おじゃましま〜す」
日が西に傾きだした頃、柊香が帰ってきた。そしてその後に花梨と蓮がゾロゾロ続く。ちょうど夕食の準備をしていた楓が3人を出迎えた。
「おー、お帰り。んで、後ろの2人はなぜ当たり前のように上がり込んでくるんだ…」
「まーまーいいじゃないの。みんな大事な友達でしょ?」
「適切な距離感って知ってる?」
「それにうちの家主は楓じゃないし」
「おい無視するな」
いつものやり取りを見ながら、蓮は優しく微笑む。
「そういえば、今日はHRで借り物競走の借りるもの候補を決めたんだろ?何書いたんだ?」
「僕は『円周率100万桁表』!」
蓮が手をピンと挙げて宣言した。
「ちょっとコイツが何言ってるかわかるか?」
「酷い!?」
「いつものことじゃないか。花梨は何書いたんだ?」
「私はね、3Bの芯が入ってるシャーペン」
「うわぁ…」
横で蓮がドン引きしていた。
「アンタにだけは引かれたくないわ!」
「ははは…、で、柊香は?」
「ふぇ!?」
「いやだから、借りるもの候補に何を選んだんだ?」
柊香は自分が書いた紙のことを思い出して、頰を少し染めた。
「柊香?」
「そ、そうだ!今日は私すごく機嫌がいいんだ!楓!今日はいっぱいギューってしてあげるからね!!!」
柊香はなんとか話題を逸らそうとして、楓に飛びつく。
「ちょ、危ない!今熱々のフライパン持ってるから!しかも花梨と蓮がニヤニヤしながら見てるから!!離れろォ!!!」
「嫌!もっと楓とギューするの!!!」
「おい2人とも!こいつを止めてくれぇ!!!」
助け舟を求めて花梨と蓮を見るが、
「邪魔しちゃ悪いし、今日は帰るか」
「そうだね、帰ろうか。邪魔しちゃ悪いし」
「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
なんとか話題をそらすことに成功したものの、その夜2人はお互い恥ずかしくて気まずい時を過ごしたとさ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます