隙間エピソード1
「うーん」
「さっきから唸ってどうしたの?」
「いや、ちょっと考え事」
「ふーん」
週明けの月曜日の放課後。珍しく楓と蓮が一緒に過ごしていた。夕陽が傾きだす時間帯。2人がいるこの公園も少しずつ静かになってきた。
「もしかして身体の問題?」
「君、最近勘が鋭いですねぇ…」
「それどこの刑事さん?」
「そこは突っ込まなくていいから」
「あはは…まあでも、確かに最近楓薄いよね」
「マジで!?」
「うん。今も楓の頭の向こうにダーツの矢が刺さったままの的が見えるよ」
蓮の何気ない一言に楓は目を見開く。柊香や花梨と違って、蓮には楓のことがはっきりと見えていたはずだが。それより、なんで公園にダーツの的があるのか。
「あ、濃くなった」
「え?」
「いやだから、身体が濃くなった」
「どういうことだ?薄くなったと思ったら突然濃くなって」
「ストレスとか疲労とかじゃない?最近忙しいみたいだし」
「魂にストレスなんて聞いたことないな」
「そりゃないでしょうよ…」
珍しく蓮の方が微妙な顔になる。
「近いうちに昇天したりして」
「やめろ、現実になったらどうしてくれる」
「どうしようもないね、それは」
「お前な…」
「まあ冗談は置いといて、たまには家事をやめてゆっくり休んだら?手伝うよ」
「お、じゃあ早速頼んじゃおうかな。牛丼くらいは作れるだろ?」
「お任せあれ。これでも一応上京の準備はしてるつもりだよ?」
「まだ高1でそれは早いんじゃねえの?」
「まあまあ、任せておきなさいな」
蓮は大げさに敬礼をすると、楓と一緒に帰路に着いた。
「ふぅ〜、久しぶりのお風呂は気持ちいいなあ〜」
楓が肩まで湯に浸ると、自然に頬が緩んだ。家事をやっているとゆっくり風呂に入る時間さえ取れないのだ。普段はシャワーだけで、湯に浸かるのは実に1ヶ月ぶりである。そもそも魂に入浴なんて必要ないのだが。
「楓ー、そろそろご飯できるから上がって」
「んー」
空返事をし、湯に深く浸かる。
(どうしたら安定した身体の維持ができるかなぁ…。いやまあ、もう死んでるのに身体の維持なんて言うのも変なんだけど…)
「楓ー?ご飯できたよ?」
「…」
「楓?」
柊香が恐る恐るバスルームのドアを開けると、湯に完全に沈んだまま考え事にハマった楓が目に飛び込んできた。
「楓!?ちょ、蓮くーん!なんか楓が溺れてるっぽいんだけど!」
「楓君、僕の作ったご飯を食べる前に昇天するのは許さないからね!」
「今重要なのはそれじゃないよね!?」
結局、楓はのぼせていただけだった…
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