Episode 07
日曜日。だいたいの中高生は週末の休みをエンジョイしているのだろうが、柊香と楓は学校に来ていた。
「で、なんで俺は休みの日に学校にいるんだろうか…」
不機嫌な表情を隠そうともせず、楓は呟く。
「はい、ボクがこないだの実力試験の国語で0点を叩き出して、三者面談が行われることになったからです…ほんとごめんなさい…」
俯きながら柊香がポツリと答える。口調がいつもと違うあたり、本当に反省はしているのだろう
「いや、そこじゃない。なぜお義母さんではなくて俺が来なければいけないのかという事についてだ」
「お母さんは会社の新しい企画のプレゼンで大阪に」
「お義父さんは?」
「久しぶりの休みだからって、高校時代の友達と遊びに行った」
「なんでお前のとこの親は自分たちの子供が大変な時にこうもホイホイと…」
「全てはボクのせいです。本当にごめん…」
「まあいい、0点取ってしまったものは仕方ない。行くぞ」
担任の教員室のドアをノックする。余談だが、柊香の通う学校では、いわゆる職員室のようなものは無く、教員がそれぞれ教員室を持っている。
「どうぞー」
「失礼します」
ドアを開けると、担任の女性教員が楓を見て目を丸くした。
「あら、保護者はお父さんかお母さんじゃないのね」
「今日は2人ともいないので、恋人の俺が来ました…」
「えーっとですね、楓は訳あってうちに住んでるんです。家事なんかもうすごい上手で…」
困惑する先生に、柊香が必死で説明する。
「ま、俺のことはいいから、早く三者面談始めましょうよ」
「そ、そうね。では、これが今回の試験の総合結果になります」
差し出された用紙に書かれている数字を眺める。国語が0点で☆マークが付けられている以外は、平均レベルといったところだろうか。
「ご覧の通り、国語以外は必要な点は取れていますので、焦って対策を練るというほどではないのですが、今後の中間試験、期末試験で同じような点数を取ってしまうと、国語だけで留年が確定してしまうということだけ注意してください」
「はい」
「それでですね、こちらなんですが…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三者面談は約30分で終わり、2人は夕飯の食材を買うためにスーパーに寄っていた。
「お前の担任、意外と優しかったな。普通0点取ったやつなんて見放されるもんだと思ってたけど」
「まあそれなりにみんなからの人気もあるしね」
「じゃあその人気の先生の期待を裏切らないようにしないとな」
「うっ…」
柊香が気まずそうに顔をそらす。
「つ、次の定期試験まで時間もあることだし、今からしっかりやれば大丈夫だよ」
「その言葉が嘘にならないことを祈りたいな…」
「んもう」
楓の頭の中では、既に最悪のケースに対処するための対策マニュアルの作成が始まっていた。
「そういえば、体育祭って10月だっけ?」
「うん、10月1日」
「どの種目に出るんだ?」
「えーっとね、200mと借り物競走」
「借り物競走ね…まあ頑張れ」
「何その間!?」
「なんでもない。ほら、帰るぞ」
楓が買い物袋を持ち上げて歩き出そうとした時、袋が手をすり抜けてスルッと落ちた。
「あれ…」
もう一度持ち上げてみる。しかし袋は数センチ持ち上がって、またすり抜けた。
「おかしいな…」
「どうしたの?」
「いや、うまく袋を持てない」
「もう、仕方ないなー、はい」
柊香が楓に触れると、何事もなかったように袋が持ち上がった。
「なんでだ…」
「さあ?」
「最近お前が負担を強いるからじゃね?」
「酷いよー!」
「へいへい、さあ帰るぞ」
「うん!」
2人は重い買い物袋を持って歩き出した。夕焼けに赤い影が伸びていた。
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