Episode 06
「なるほど、この1週間柊香の機嫌が悪かったのはそういうことだったのかー」
「まあ、そうなるな」
まだ残暑が厳しい9月の週末。楓は花梨と夕食の食材を買いにスーパーマーケットに来ていた。今日はいつものメンバーでうちでお泊まり会である。その準備の間中、柊香が殺気を放ち続けている空気に耐えられなくなった花梨が、楓を連れ出したというわけだ。
「ま、今回は楓が悪いわ。99.999999%、これ間違いなし」
「いやそれは酷くね?閉じ込めたのお義母さんだよ?そして有効数字多いな」
「だって今の言い方だと、申し訳なさの裏にちょこっと下心が見えたもん」
「そんなの他人にわかるもんなのか?」
「否定はしないんだ…。まあ、女の勘?ってやつかな。それに楓は柊香に憑依したままだったわけだし、感情ダダ漏れだったと思う」
「ああなるほど」
黙々とリストにある食材をカートに入れていく。
「俺はどうすればよかったのかね…」
「顔を真っ赤にして『柊香、ごめん…』って言いながらなるべく見ないようにすればまだ印象が良かったと思うよ」
「誰その超ピュアな男の子」
「私も楓がこんな反応するとこを想像したら寒気がしたわ。今のなし」
「酷え…」
リストにあるものを全て入れ、レジで会計を済ませる。レジのパートのおばちゃんから「あら、お買い物デートかしら?」と弄られた際に花梨がものすごい形相で睨みつけてきたが、もう気にしない。
「どうしよう。過去最高に帰りたくないんだけど…」
「そもそも楓の家じゃないけどね」
「あ、そうか」
「えぇ…」
あまりに入り浸りすぎて楓もすっかり忘れていたが、今住んでいるのはあくまで柊香の家であって楓の家ではない。といっても死んで魂だけになってから自宅にはほとんど帰っていないので、もう柊香の家=楓の家と言っても過言ではないのだが。
「着いてしまった…」
「入らないの?」
「ドア開けるの怖いから代わりに開けて」
「えぇ…、もう仕方ないなぁ」
呆れた顔で花梨は家のドアを開けると、ズカズカ入っていく。楓もそっと後に続く。柊香が相変わらずイライラオーラを垂れ流し続けて母親を睨みつけている。
「ん?ちょっと待て?」
靴を脱いだところで、楓はある可能性に気づく。そして柊香の顔をじーっと見つめる。少し身震いするが、めげずに見つめ続ける。
「もしかして…」
そーっと背後から近寄り、柊香の後ろに立って耳元でそっと囁く。
「なあ」
「ふぎゃぁ!?か、楓!?」
柊香は派手に叫び、飛び上がった。怒りからなのか恥ずかしさからなのか、顔は真っ赤だ。
「ちょっと聞いてもいいか?」
「その質問するのに今の演出いらなかったよね!?」
柊香がジト目で睨んでくるが、構わず続ける。
「お前誰に対して怒ってんの?」
「え?」
怒った顔から一転、キョトンとした顔になる。楓の中で予想が確信に変わりつつあった。
「誰って…、お母さんに決まってるじゃん」
「おっし!」
「楓!?」
楓は小さくガッツポーズをきめた。
「なんだー、ボクが楓に対してずっと怒ってると思ってたのか」
「いやだって、こっち見るときの表情がすごかったから…」
「いやー、ごめんごめん」
ホッとした表情の楓をよそに、ケラケラ笑いながら柊香は餃子をパクリ。
「まあ、もう怒ってないと分かってよかったじゃない」
元凶の茜はニコニコしながらラーメンを丼に盛る。
「お母さんを許したとは言ってないよ?」
「え、ええそうね…」
柊香の周りの温度が少し下がったのを感じて、楓と蓮は苦笑い。
「じゃあ本題に入りましょうか」
さらっと話をそらしつつ、茜はハムスターのようにサクサクと餃子を齧っている蓮に目線を向けた。
「あなたが新しいお友達の新河蓮君ね?」
「はい、柊香さんたちとはいつも仲良くさせてもらってます」
蓮は元気よく答える。
「そう、こちらこそ仲良くしてくれてありがとうね。私仕事であんまり家にいられないから、柊香が高校でどうしてるか不安だったけど、この分なら心配なさそうね」
「まあ、だいたいこの4人で行動してるからな」
メンマを口に放り込みながら楓が横から割り込む。
「うんうん、安心した。じゃあ私は今から夜勤だから、みんなハメを外しすぎないようにね」
茜はそういうと、颯爽と出ていった。
「あの人はどこまでプライベートでどこからが仕事なんだ?」
「さあ、本人も気にしてないみたいだし、まあいいんじゃない?」
花梨の疑問に柊香が他人事のように答える。
「一応お前の親だからな?」
楓が釘を刺す。
「でもなんか、ザ・仕事人みたいな感じで強そう!」
「お前も乗っかるな…」
目をキラキラさせて自分だけで納得している蓮を叱りつける。
「さて、さっさと食べ終えて寝る準備だ。明日も休みじゃないんだからな」
「あ、言い忘れてたけど、楓の布団はバルコニーだから」
と柊香。
「あと蓮もな」
と花梨。
「「なんで!?」」
唐突なトンデモ発言に楓と蓮はギョッとして柊香を見る。
「いやー、無いとは思うけど、万が一間違いがあったらダメだから、ねー」
「ねー」
柊香と花梨がニコニコしながらそう言い渡した。
「お前やっぱり根に持ってんじゃねーか!!!」
「当たり前だよ!!!」
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