Episode 02
「ったく、こんな早朝に呼びつけるとか楓も何考えてんだか」
「そう言ってる割にはちゃんと来るんだね、花梨さん」
「まあ付き合いが長いからな。こういう時間に呼ばれるってときは大体理由が察せる」
「そうなんだ…」
午前5時半の姫川家の玄関前で話す2人の男女。さっきから悪態をついている少女の名は
一方、花梨に付いてきた少年は
「楓ー、入るぞー」
「こんばんはー」
「おお、来たか。すまんな、こんな早朝に呼び出して」
「ほんとだよ。で、用は柊香か?」
「ご名答。あいつ今日になってやっと夏休みの宿題に手をつけてな、どう考えても終わる気がしないんだ」
「なるほどね…、それを手伝えと」
「頼めないか?」
「ここまで来たんだからやるしかないでしょ。後は任せて」
「サンキューな」
花梨はのそのそと柊香たちの部屋に入って行った。直後柊香の「ひえぇ〜」という悲鳴が聞こえた気がするが、たぶん気のせいだ。
「それで、僕は何をすれば?」
さっきから存在が空気だった蓮をじーっと見て、楓は少し考えた。こいついらないじゃん。
「じゃあ…給仕?」
「なんで!?」
「いや、呼んどいてなんだが、何を頼めばいいかわからなかった」
「楓君酷いよぉ〜」
そう言いながらも、蓮はスッとエプロンを付けてキッチンに立つ。
「お前もなんだかんだで断らないよな」
「そりゃあ、初めての友達の頼みだもん」
優しく微笑む蓮を見て、楓の頬も緩む。
「ん、ちょっと待て。初めての友達?」
「うん。今まで友達いたことないんだ」
「なんでそんなことをそんな満面の笑みで言えるのか突っ込みたいところだが、まあいいか」
「今までも十分楽しかったけど、今は4人でいる時の方が楽しいかな」
「そうか」
「うん。あ、何飲む?」
「本当に給仕する気だったのか…。じゃあホットミルクで」
「楓君が言ったんだからね!?」
ぶつぶつ言いながら牛乳をマグカップに注ぐ蓮を横目に、楓は英語のワークを解き始める。中3に進級する直前で死亡した楓は、『義務教育くらいはちゃんと終わらせないとな』と柊香に憑依して律儀に1年間授業に出ていたが、柊香が高校に進学してからは、家事や彼女の世話をすることに専念していた。なので、真面目に勉強するのはじつに半年ぶりである。
「あれ…これなんて用法だっけ…」
参考書をめくりながらペンを走らせていると、目の前に湯気の立ったマグカップが置かれた。
「ありがと」
「いえいえ」
トレイに柊香と花梨の分のマグカップも乗せた蓮が、ワークを覗き込んでいた。
「どうかしたか?」
「いやー、僕は普通に楓君のことが見えるからあんまり気にならないけど、やっぱり故人が英語勉強してると思うと不思議だなーってさ」
「まあそれは否定しないな。俺もなんで死んでまで英語の勉強してるんだと思ってるし」
「楓君も案外、お人好しだね。特に柊香さんのことになると」
「そりゃまあ、あいつは俺にとって特別だし…」
「あは、楓君が照れてるwかわいー」
「茶化すな。ほら、冷めないうちに柊香たちにもそれ持って行ってやってくれ」
「はーい」
ペンを走らせながら、楓は柊香のことを呆れながらも、なんだかんだで特別扱いしてるんだなあと自覚するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます