タマシイ彼氏(続) (打ち切り)
ちやま式
Episode 01
蝉たちが地面へダイブし8月も終わりを迎える頃、とある家では今日も忙しく家事をする人と、テレビを観ながらゴロゴロしている人がいる。
「夏休みの宿題に手をつけるか夕飯作るの手伝うか、どっちかしてくれないかね、
「えー、今いいところなんだよー」
「そのセリフ今日だけでもう5回は聞いたぞ」
「
「だったら夕飯作るの代わってくれ」
「これ終わったらねー」
「はぁ…」
台所でため息をつきながらジャガイモを洗う存在が(物理的に)薄い少年と、ソファの上で笑い転げている少女。
ピッ
『それでは明日の天気を…』
「あ、ちょっと!今いいところだったのに!」
ニュース番組に切り替えられて柊香は不満そうに楓をジト目で睨む。
「身体の維持が限界だ。代わってくれ」
「はーい」
ぶつぶつ言いながら楓からジャガイモを受け取る。楓の体はもう向こうが見えるほど色が薄くなっていた。というより、かなりはっきり透過して見える。
「最近身体の実体化を維持できる時間短くなってない?」
「お前がもう少し自分のことちゃんとやって俺の負担を減らしてくれたら伸びるかもな」
「努力しまーす」
「へいへい」
あまり期待しないで返事をし、ソファに座る。この少年の名は
「楓ー、このジャガイモどうするの?」
「皮むいて適当な大きさに切ったら鍋に入れろ。今日はカレーだ」
「やったー!」
笑顔でジャガイモの皮を剥いているこの少女の名は
「なあ柊香、いいこと教えてやろうか?」
「何?」
楓の問いに対しキョトンと首をかしげる。こういった特になんでもない仕草が、楓の胸にはキュンとくる。
「今日は8月28日だ」
「それで?」
「週末も含めて夏休み終了まであと5日ほどだが、大丈夫なのか?」
あと5日と聞いたとたん、柊香の顔がさーっと青ざめていく。楓は柊香を部屋に押し込むと鍵をかけた。
「飯ができたら呼んでやるから、まあ頑張れ」
「なんでもっと早く言ってくれないのーーーー!!!!!楓のバカーーーー!!!」
壁の向こうで泣き叫ぶ彼女を無視して、楓は再び台所に立ってジャガイモを手に取った。
「皮の剥き方雑すぎるだろあいつ…」
ーーーーーーーーーー
「が〜え゛〜で〜」
柊香の泣き声で楓は目覚めた。まだ外は暗い。
「なんだよ…、まだ朝の5時だぞ…」
「数学のワークはなんとかなりそうだけど、英語と国語が終わる気がじない〜」
涙をだらだら流し、顔を紅く染めた柊香が泣きついてくる。柊香は理系科目はそれなりにできるのだが、文系科目は壊滅的にできないのだ。彼氏として、柊香の将来が少し心配になる。
「次は無いからな…、教科書貸せ」
「楓ありがとう!大好き!!」
パアッと花が咲いたような笑顔を向けてくる柊香に、楓は少し恥ずかしくなって顔を背ける。
「だ〜、もうなんでお前はこんなに泣き腫らしても可愛いんだ…」
「えへへ〜」
「もういいから、お前は早くできる科目から早く終わらせろ。ラッシュだぞ」
「わかった!」
先ほどの号泣していた顔はどこやら、柊香は楓に褒められたことでやる気スイッチが入ったようで、猛スピードでシャーペンを走らせていた。
「ったく、世話がかかる彼女だなあ…」
楓は教科書とワークを持って部屋を出ると、リビングに移動する。何か作業するときは、部屋よりリビングのソファで明かりを灯した方が落ち着いて作業できる。
「あ、そうだ。あいつらも呼ぶか」
そう言って、楓はとある2人の友人に『すまないが来てくれ。頼みがある』とメッセージを送った。
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