第13話 コンビニへ 2



歩道を歩ききってコンビニエンスストアに入る前に、駐車場を横切る。

駐車場。

全国各地のコンビニの、多くがそうであるように―――このコンビニには駐車場が存在していた。

都会や駅の中では、そういうコンビニには、駐車場がないのかもしれないけれど。

とにかくたどり着いたこのコンビニには駐車場があり、死体があった。

顔はこちらを向いていないので、表情は窺えないが。


駐車場には、車が二台停まっていた。

一台はボンネットから前輪タイヤあたりが、血でべっとりと濡れていた。

それがさらに下―――アスファルトにまで水たまりじゃなく血だまりを作っていた。

もう一台は奥にあって、よく見えないが、新品には程遠いだろう。


コンビニは、そういえば前面がガラス張りなのだった。

中の様子が見える造りになっている。


電気は消えていた。

蛍光灯は消えていた。

しかし窓ガラスがあるからには、内部が見える。

黒い影が多かった。

人間がいるようだが、動かない。

アレも死体なのだろうか。

だとすれば―――そこを通って、飲み物を取ってくることはできる。

いい気分はしないが。


生臭い風が吹いた。

僕は左右を、後ろを、振り返る。


「………外にいる方が、マズいのか?」


コンビニ外にいて、コンビニの外の『あいつら』に見つかったら―――そう思うと、足早に、

入るしかなかった。

あの部室棟から出た以上、どこにいようが安全ではない。

三百六十度、どこからでも来るかもしれない。

そうなったら昨日と同じ、やることは走るしかない。

ええい、なるようになれ。


「走って逃げることは―――出来る、はず」


そう、いざとなったら走って逃げることは、出来る。できた。

昨日は出来た。

経験がある。

僕は部室棟までたどり着いたのだ。


いつもならば自動ドアが音を立てて開く。

だが今回、自動ドアが動かない。

開いてある状態で―――動かない。

二人の人間が、転がってドアの可動域上に、寝そべっていた。

一人は………一体、だろうか………シャツが胸のあたりまで捲くれ上がっている男だ。

女だったら多少は目の保養になるだろうか、この死体。


ぴくりとも動かない。

寝ているだけか、あるいは死んでいるのか。


ごくり、と僕は喉を鳴らし、唾を飲もうとしたが、喉が渇き、ひりついていて、危うくせそうになった。

それでしびれを切らし―――それがきっかけかもしれない。

が、時間というものは有限だと悟ったのかもしれないが、とにかく僕は転がっている二体のの、おそらく当分動かない他人を、乗り越える。

足で跨いで進む。


「水を、水を………!」


コンビニの中は腐臭が強かった。

ドリンク類がレジ前の床に散乱していた。

落ちているものが多かった。

僕は転ばないように注意しながら、コンビニの中を歩いていく―――。

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