第46話 まだ見ぬ宝


 マジックボアを生け捕りにし、町の西側にある店と契約をしてきた俺達は宿に

 戻り飯にする事にした。今日からポーターのオットーとソフィアも一緒だ。


 「ただいま 気分はどうだい? カインさん」

 「あ おかえり ケイゴくん」

 「ただいま 皆で食事にしましょう」


 全員でカインの部屋に集まり買ってきたパンとミルクを配り食事だ。


 「…イツッ」


 オットーはベンツ一味にやられ口の中を切っているようだ。食べ物を口に含む

 と、染みるようだ。


 「大丈夫? 顔の傷なんかは後で塗薬をあげるわ」

 「オットー君 大丈夫? 何があったんですか?」


 カインに俺は組合の側であった出来事を話した。


 「……酷いことをする連中ですね」

 「カインさん 『アインイーグル』って聞いたことあるかい?」

 「すいません そっち方面の情報には てんでうとくて……」

 「ケイゴさん 僕らもこの町に先月来たばかりで 良く分かりません」

 「……まあ いいさ」

 「ケイゴさん 僕らロバに餌をあげに行ってきます ごちそうさまです」

 「ああ 気をつけてな」

 「待って 二人とも顔に薬塗って」

 

 テレジアは部屋を出て自分のリュックから瓶に入った塗薬を持ってきた。


 「ありがとうございます」


 オットーとソフィアはロバに餌を与えるといい外門の外へ向かった。どうやら

 水辺に行って水を飲ませたり体を洗ってやるらしい。叔母夫婦から餞別せんべつとして

 貰ったロバだ、大事に扱っているのだろう。


 「はい こっちはカインさんの薬ね 食べ終わったら飲んでね」

 「テレジアさん ありがとう」

 「後で包帯の交換もしましょう」


 食事を済ませた俺達はカインの依頼『タウマス遺跡』の詳細を聞く事にした。


 「さあ カインさん話してくれ」

 「わかりました 遺跡の再調査で先日入った時におかしな事に気付きました」


 カインは説明を始めた。


 「一人で遺跡内部で書類を持ちながら移動していた時 書類の一部を落として

 しまったのです 壁際に落としてしまい拾い集めようとした時です その書類の

 一部がフワフワと上に浮いたのです」

 「上に?」

 「ええ これを見て下さい これは遺跡内部の平面図です」


 カインは平面図を取り出し、俺たちの前に置くと入り口部分を指差し説明を

 続けた。


 「ここが入り口で 真っ直ぐ行った突き当り ここが深層の入り口になって

 います こっちが二枚目の地図です ここから階段になり深層入り口からだと

 深さ約五十メートルの場所が最深層となっています 途中 壁を叩いても空洞を

 確認できず現状が最終的な遺跡の構造と思われていました」

 「で カインさんは下から風が吹き上がってくるのはおかしいと……」

 「そういうことです 現地にあった道具で多少は掘ったのですが効率が悪く

 町に戻りもっと大きな道具と冒険者数名雇うつもりだったんです」

 「なるほど そこであたし達と出会った訳ね」

 「ええ そうです」

 「ようするに カインさんが掘った部分をもっと大きくして確認しようという

 事なのかしら?」

 「はい! もし空間があればそのまま調査に入りたいのです」

 「どう? ケイゴ」

 「内容はわかった かまわないぜ俺は」

 「もし新しい空間が発見されて調査に移行した場合の話なんだけど」

 「ええ その辺も契約に入れておきましょう」


 カインは契約書に文章を追加していく。テレジアは続けて質問した。


 「もし 調査をして財宝が出てきた場合 例の法律は適応されるのよね?」

 「もちろんです! 発見した財宝の価値を現在の価値に換算して十パーセント

 から二十パーセントの報酬がもらえます」

 「ヒャッホー!」

 

 テレジアは飛び跳ねて喜んでいる。まだ見ぬ宝で……


 「俺は金いらないから 見つけた宝の中から一つだけでいい 気に入った物を

 くれないか?」

 「何を言ってるんですか? お金とは別にその条件 お約束しますよ! この

 カイン=ヒューゲルの名に懸けて! なんちゃって ハハハ もちろんテレジア

 さんも一つだけ持ち帰って下さい」

 「え!? 本当にいいの? どうしよ…… 何にしようかしら!」

 「……おいおい 妄想を膨らませすぎだろ ただの空洞で終わる可能性だって

 あるんだぜ?」

 「何よ! いいじゃない 想像を膨らませるだけだって 素敵な事よ?」

 「ええ テレジアさんの言うとおりです 新たな発見なんてワクワクするじゃ

 ないですか! 私はお金に然程さほど興味がありません 新たな発見や謎の解明こそが

 私にとっての一番なのです」


 (二人とも……いいんだけど何も無かった時の事考えてんのかな? 落ち込み

 たくないから俺は悪い事を想定する癖がついてるからなあ)


 「問題無いよカインさん 動けるようになったら行こう」

 「はい お願いします それとお二人は身分証は持っていませんよね?」

 「無い!」

 「うん 無いわ!」

 「二~三日したら二人とも冒険者登録しませんか?」

 「……冒険者登録か」

 「遂に来たのね! もう観念しなさい! ケイゴ! あたしと冒険者登録を

 するのよ!」


 テレジアのテンションはマックス状態だ……なんかヤバい感じだ。


 「今まで登録しなかったのは 何か事情でもあるんですか?」

 「……いや あるにはあるんだが 保証人が欲しいんだろ?」

 「ええ 私が保証人になります そして身分証を所持して下さい」

 「ああ 遺跡入場に必要なんだっけ? 身分証」

 「ええ 私なら組合で身分証を見せれば政府関係者のリストですぐ分かります

 から保証人になれます」

 「じゃあ 保証人頼むか テレジア カインさんは何時頃動ける?」

 「もう今すぐ引きずって組合に行きましょうよ!」

 「はあ!? 本気か?」

 「冗談よ フフ そうねえ …後二日ね 二日したら傷口も開かないと思う」

 「わかった 二日したら登録しよう」

 「お願いします」

 「カインさんはそれまで 大人しく寝ててね 大事な保証人なんだから フフ」

 「テレジアさんには敵いませんね ハハハ」

 「あっ! そういえば包帯 駄目にしちゃったんだった 買いに行かないと」

 「昨日のところか?」

 「ええ 一緒に行く?」

 「ああ 俺も注文しといた武器が出来上がってるだろうから行くよ」

 「あたし達 出かけてくるから ちゃんと薬飲んでね」

 「はい ありがとうございます」


 俺とテレジアは、宿を出ると包帯を買った店に向かった。

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