第45話 交渉成立


 俺達はベンツ一味と一悶着ひともんちゃくあった後、組合の西にあるマジックコート取扱店を

 尋ねた。東の取扱店同様に店の両脇に一人づつ冒険者が立っている。


 「オットー ちょっと待っててくれ 用が済んだら一緒に飯でも食おう」

 「わかりました ここで待っていますね」

 「ああ」


 俺とテレジアは店には入って行った。


 「いらっしゃい おばあちゃん! お客さんだよ」

 

 カウンターにはオットーやソフィアと歳が変わらない女の子が座っていた。

 おばあちゃんと呼んでいた様子から身内?孫なのだろうか。


 ガラガラガラ

 店の裏口から音がした。おばあちゃんだろうか、一人の老婆が現れた。俺と

 テレジア見ると声をかけてきた。


 「…客かい?」

 「ああ 客っていえば客だな」

 「ねえ おばあさん マジックボアって買い取りしてるのかしら?」

 「ああ してるよ あんた達 冒険者かい?」

 「まだ登録はしてないんだけど その予定なの」

 「……ふーん で いくらが希望なんだい?」

 「あたし達 この町に来たばかりで その辺は全然わからないの」

 「……ふーん 金貨五十五枚かね」

 「あら おばあさん 東の店は六十五枚出すと言ってくれたけど フフ」


 (六十五枚? 金貨六十枚って言ってたはずじゃなかったか?)


 老婆は苦虫を潰したような顔で言い放った。


 「チッ! あんたら 先に東店行ってきたね?」

 「ええ ついさっきね フフ」

 「……人を試すような真似しおって 可愛げの無い事を」

 「お互い様よ それが交渉じゃない!」

 「それより 本当に狩れるのかい? 口先だけじゃないんだろうね?」


 テレジアは俺の後ろに回るとショルダーポーチを開けて昨日取った『魔石』を

 出し老人に見せた。


 「フフン! これは昨日 ある『魔獣』から拾った『魔石』よ」

 「……お そ それは!?」

 「ねえ あなた そうあなたよカウンターに座っている 外にうちのポーター

 がいるわ 呼んで来てくれる?」

 「あ はい」


 テレジアは、カウンターに座っていた女の子にオットー達を店に来るように

 伝えた。


 「オットー達呼んでどうする気だ?」

 「昨日の話をしてもらうだけよ ここはあたしに任せて」


 テレジアはそう言うと、呼ばれたオットーに質問をした。


 「オットー ごめんね 昨日のカインさんを助けた時の話をして欲しいの」

 「え? 僕がですか? かまいませんけど」


 オットーは老婆に昨夜のカインを救出した話をしだした。その間、俺達は店の

 中にあるマジックコート製品の値段を見て回った。東店の主人が言っていた通り

 金額はほとんど変わらなかった。


 ――

 

 「……これが僕の知っている全てです」

 「……ふむ」


 どうやら説明が終わったようだ。


 「オットーありがとうね もういいわ表で待っていて」

 「はい」


 俺をジロリと見つめる老婆は両手の包帯を見て質問してきた。


 「あんた その手は?」

 「これはマジックボアの牙を掴んでこうなった ドジったぜ ハハ」

 「……二人で倒したのか?」

 「ううん あたしは見ていただけよ ケイゴ一人で倒したわ」

 「……馬鹿な! 聞いた事ないわ そんな話」

 「そんな事言われてもなあ 倒せたんだからしょうがないだろ?」

 「……ふむ」


 「まあ 次はもっと楽に倒せるな 夕方には捕獲武器が出来上がるし」

 「鍛冶屋に頼んだのか? なんと言う鍛冶屋だい」

 「ああ カーティスだよ」

 「何!? あのカーティスか!? カーティスが注文を受けたのかい?」


 老婆の様子が一変した。


 「…あ ああ そうだけど」

 「……あのカーティスが町の人間の注文を受けただと…」


 老婆に聞かれて俺はその時の様子を話した。


 「なんと!? お前さんはあの壁に掛かってた大剣を振ったのか?」

 「ああ そうだけど?」

 「……ふむ わかった明日生け捕りにして持ってきな うちは金貨七十枚出す」

 「わかったわ 交渉成立ね 一日一匹ででいいの?」

 「それ以上 取ってこれるのかい?」

 「短期で毎日二匹ってのはどう?」

 「よかろう とりあえず十匹分の金なら用意は出来る」

 「オッケー 決まりね ケイゴ グローブだけ買っていきましょう」

 「ああ グローブだけは欲しいかな」

 「今回はあたしが出しておくわ」

 「いや いいよ自分で出すぞ」

 「いいのよ! これからケイゴにジャンジャン稼いでもらうんだし フフ」

 「……」

 「そういえば自己紹介がまだだったわ あたしはテレジア そしてケイゴ」

 「あたしゃノーラだ よろしくのう」


 俺達はグローブを買い店を出た。


 「オットー 飯買って宿に行こう カインさんも腹減らしているだろうし」

 「はい 惣菜屋でいいんですか?」

 「今日はパン屋にしようぜ」

 「わかりました」

 「ねえ オットー ソフィア 今日から宿に泊まりなさい」

 「え?」

 「明日から仕事よ! マジックボア狩りよ!」

 「本当ですか!? ありがとうございます!」


 俺達はパンとミルクを買い宿に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る