第44話 勉強代

 鍛冶屋カーティスと別れた俺は近所を散策してテレジアと合流した。


 「包帯売ってたのか?」

 「あ ケイゴ! うん あったわ そっちは注文できたの?」

 「ああ! やっと見つかったぜ 夕方取りに行くよ」

 「高かったんじゃない?」

 「金貨五枚のところ 三枚にしてくれたぜ! ラッキーだわ」

 「……ちょっと 大丈夫なの? そんな安いところで」

 「まあ 腕は分からんが 俺のやりたい事を一発で見抜いたし大丈夫だろ」

 「……ふーん せいぜい騙されないようにね フフ」


 町の中心部から西に向かうと『アインティーク冒険者組合』が見えてきた。

 組合の前には、冒険者やサポーターが数十人居た。俺達はオットーとソフィアが

 居ないか見渡してみたが、どうやら居ないようだ。少し離れたポーターの集団

 にも姿が見えなかった。


 (どうやら仕事にありついたのかな……)


 「ついでだ 組合で『魔石』交換しちゃうか」

 「そうね」


 俺とテレジアは組合に向かい『魔石』の換金を行う事にした。組合の階段を

 上がりドアを開けようとした時、揉めてる声が聞こえた。

 俺は、そっと組合の脇にある路地を覗き込んだ。

 オットーが、鎧を着た冒険者の足にしがみついていた。オットーは顔がはれ上がり

 ソフィアは近くでうずくまっていた。


 「離せ! 餓鬼が この間の件はもう終わったろ! しつけえぞ!」

 「そうだぞ 坊主 『勉強代』だって言ったの忘れたか? お前 ベンツさん

 に逆らう気か? この町に居られなくなるぞ?」

 「そうよ この間の事は忘れて 次の仕事探したら? なんならまた使って

 あげようか? アッハッハッ」

 「……ベンツさん 僕達は言われたとおり仕事をしたんです 賃金を……

 賃金を払って下さい……」


 オットーは声を振り絞り足を掴んだベンツという男に訴えた。

 鎧を着た冒険者の他に、軽装備の男と黒いローブを着た女が仲間のようだ。

 オットーに容赦無く罵声を浴びせる。


 「いい加減に離しな! しつこいんだよ!」


 女はオットーの顔を蹴り上げる。しかし、オットーは掴んだ足を離さないで

 いた。すると、横に回った軽装備の男がオットーの脇腹に蹴りを入れる。


 「そりゃあ! そりゃあ! てめえらみたいなポーターを使ってやったんだ

 逆に賃金もらいたいくらいだぜ! ギャハハハ!」


 オットーは、軽装備の男の蹴りを喰らい嘔吐しながら横に倒れ掴んでいた

 足を離した。


 「ウゲッゲエエェェ!」


 足を掴まれていた男は少しホッとした表情を溢してオットーを見下ろし

 言い放った。


 「……まったく しつけえんだよ 次はこんなもんじゃ済まさないからな」


 それを見たテレジアはオットーとソフィアに駆け寄った。


 「オットー! ソフィア! 大丈夫?」

 「なんだてめえ? 見ねえ顔だな? お前ら知ってるか?」

 

 ベンツという男が仲間に聞いた。


 「いや 俺は知らねえっす」

 「うちも知らないね どっから来たんだい?」


 俺はオットーの方に駆け寄り事情を聞く。


 「オットー! しっかりしろ 何があった?」

 「……グフッ ケ… ケイゴさん… 先日 仕事を請けたんですが…… 

 未だに…グフッ 賃金を払ってもらえないんです……」


 オットーは目に涙を浮かべて俺に説明した。


 「……ケイゴ そいつら仕事だけさせて『これも勉強代だ』と言って支払わ

 なかったそうよ ソフィアも言ってるわ ……許せないわ 女の子にまで手を

 あげるなんて 最低よ!」


 (そうか……こいつらがそうなのか)


 「ちょっと あんたらさっきから何ゴチャゴチャ言ってるの? うちらが

『アインイーグル』のメンバーだって知ってて言ってるのかい?」

 

 女は自分達を『アインイーグル』のメンバーと名乗った。初めて聞く名前だが

『アインイーグル』とは何かの集団なのか?


 「いや 知らんけど お前がその『アインイーグル』のボスなのか?」


 俺はベンツという男を指差した。


 「はあ!? 何だお前 本当に知らねえのか? 俺はリーダーじゃねえよ

『アインイーグル』のリーダーはシボレーさんだ!」


 すると、軽装備の男が小声でヒソヒソ話はじめた。


 「……ベ ベンツさん やばくねえっすか? 俺達正式なメンバーじゃ

 ないんすよ?」

 「馬 馬鹿野郎! 俺に言うなよ 言い出したのはクレアだぞ……」

 「関係ないわ こいつらもやっちゃいましょうよ?」

 「へっ そうするか ギッチリしめて逆らえなくすればいいだけだしな」


 後ろで黙っていたテレジアが口を開いた。


 「……駄目ね こいつら こんなのが居る『アインイーグル』ってのも

 ろくなもんじゃないわね…… ケイゴ 徹底的にやっちゃって!」

 「……当たり前だろ テレジアに言われなくても そのつもりだ 完全に頭に

 きたぜ」


 俺は、立ち上がりオットーに言った。


 「オットー 格好よかったぜ 後は俺達に任せろ」

 「……ケ ケイゴさん」

 

 (しかし酷い世界だ……こんな事するやつら元の世界じゃそうそう お目に

 かかれないぜ)


 「…おい」


 ベンツが仲間に目で合図を送ると軽装備の男が俺を目がけて飛び掛って

 来た。右手にはナイフが握られている。


 「ギャハハハ 身の程を知れ! 余所者が!」


 シュッ シュッシュッシュッ

 軽装備の男はナイフを突き立ててくるが、俺は全てナイフをかわしていく。


 「……チッ 当たらねえ…… 」

 

 俺は次の瞬間、突き立てられたナイフを持つ右腕の肘に蹴りを入れた。


 「ウガッ!」

 カラン

 軽装備の男の手からナイフが落ちた。男は右肘を押さえながら左右に体を

 揺らして突進してくる。


 「なっ なかなかやるじゃねえか ギャハハハ!」

 「お前は何をしてんだ?」


 大きく体を左右に振る男の顔面を、俺の拳が捉えた。


 「グハァ!」


 軽装備の男は後ろへ飛んでいった。


 「お前 素早さに自信あるようだけどトロ臭いぜ? まじめにやってるのか?」


 軽装備の男は顔を抑えギョッとした表情をした。俺はすぐに男に横に移動する

 と脇腹を蹴り飛ばした。


 ズゴンッ

 「ウゲゲゲェェッッ!」

 「ん? まだ吐かねえか もう少し強く蹴るか」

 

 ドゴンッ! バキッ!

 さっきより強く蹴ったせいか肋骨が折れる音がした。


 「グハッ! ウゲェェッ!」

 男は口から嘔吐した。


 「ああ それはオットーの分な これから俺の分があるからな ありがたく

 受け取れよ」


 俺は軽装備の男の横っ面を蹴り上げた。


 バキッ!

 「グハァッ!」

 

 男はその場で顔を両手で覆い転げ回っている。すると、三人組の親玉ベンツが

 飛びかかって来た。


 「…てっ てめえ! よくもやりやがったなあああ!」


 後ろではテレジアがローブの女と取っ組み合いをしていた。こんなテレジアは

 はじめてみた……やばそうなら助けに入るつもりだったが大丈夫そうだ。

 相手の女に馬乗りになって顔を殴っていた……よく見ると女は後ろ手に包帯で

 縛られていた。


 パコンパコン

 「このっ! このっ! よくもオットーとソフィアを!」

 「痛っ 痛いわね! この女なんなの! チクショー! 動けない!」


 俺は飛び掛ってくる親玉ベンツの攻撃をかわす。力はありそうだが動きが

 トロい。パンチを繰り出してくるがモーションが大きすぎて全て見切れる。


 「うがあああ!」

 「……なあ そろそろ終わらせるけどいいか? 夕方から用事あんだよ俺」

 「はぁはぁはぁ……なっ なめやがって!」


 全ての攻撃をかわされ空振りを続け息が上がっているベンツは腰に帯刀した剣

 を抜いた。


 「…てめえ 拳でかかってくるから少しは骨があると思ったが…… お前も

 ゴミかよ こい 終わらせてやるぜ!」

 「うっ うるせえ! うりゃあああああ!」


 俺は、ベンツが振り下ろす剣をかわすと後ろに回り、両腕をベンツの腰に巻き

 つけプロレス業のジャーマンスープレックスをかました。

 ベンツは地面に敷かれている石に脳天から頭を打ちつけた。


 「グゥヘェッ!」

 

 ベンツは口から泡を吹いてる。


 「テレジア 終わったか?」

 「はぁはぁはぁ…… ええ! だいたい終わったわ」


 女はグッタリして抵抗する気力も無くなっていた。俺はオットーに駆け寄り

 声をかける。

 

 「おい オットー大丈夫か?」

 「……え ええ なんとか」


 オットーは蹴られた腹部を押さえ立ち上がった。大丈夫そうだ。ソフィアは

 どうだ? ソフィアを見ると大丈夫そうだ。元々、顔を叩かれた程度だった

 ようだ。俺は、意識のある軽装備の男に近づきオットーの賃金を払えと迫った。


 「おい オットーの賃金を払え」

 「……う ううっ」

 

 男は顔を抑えながら金貨を一枚よこした。


 「おい なんだこれ?」

 「……あ あう ち 賃金れす」

 「慰謝料と延滞金が入ってねえぞ? ベンツの金持って来い」

 「…あうっ ああ」

 「何か言ったか? 早くしろ」


 俺は上から見下ろし軽装備の男に睨みを利かせた、すると男はベンツのポーチ

 を外すと俺に持ってきた。


 「よし これで今回は勘弁してやる 二度と悪さすんじゃねえぞ?」

 「……あう あうっ」


 男はガクガク怯えながら頷いた。


 「オットー ソフィア着いて来い」

 「…はっ はい」

 「ソフィア 行くわよ」

 「…はい」


 俺達はオットーのロバの荷台に乗りその場を立ち去った。とりあえずオットー

 に西のマジックコート取扱店へ向かうように頼んだ。


 俺は、荷台からロバを操るオットーに話しかける。


 「オットー ほら お前達の金だ」

 「ええ? こんなに貰えないですよ……」


 オットーにベンツのポーチを渡すと、こんなにいらないと拒む。


 「いいんだよ 取っとけ ああゆうやつらは一度痛い目に合わないと

 分かんないんだよ 今回はあいつらも『勉強』出来たろ これは『勉強代』だ」

 「べ 勉強代ですか? プッ ププッ」

 「ハハハハ そうだ 『勉強代』だ もらっとけ! ハハハ」


 俺達は皆で声をあげ大笑いした…… 

 今回、ベンツ一味は高額な『勉強代』を支払う事となった。

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