第43話 刀工 カーティス


 町に向かうと鍛冶屋からは武器や防具を鍛える音がする。

 カーンカーン カンカンカン カツーンカツーン 


 今日は俺が考えた、マジックボア捕獲武器を作ってくれる鍛冶屋を探すのが

 一番の目的だ。職人達は皆、腕が立つと聞くので安心はしている。

 もっとも、これだけの武具店が犇めき合う町で腕が悪いのでは廃業しかない。


 「ケイゴ ちょっと待って 雑貨屋にあるかもしれないわ 入りましょう」


 テレジアは、俺が注文する武器に巻くゴムが雑貨屋にあるのだと店に入る。

 店主にゴムの説明をして何点か商品を出してもらっている、手に取り確かめて

 帯状になったゴムと滑り止め付きの布を購入した。


 「これでいいんじゃない?」


 テレジアが言うにはゴムの上から直接握るのではなく布や皮でギッチリ巻き

 固定して使う方が良いだろうという事だった。


 「なるほど さすがだな」

 「フフン! でしょ」


 テレジアは機嫌が直ったのか何時も通りのドヤ顔だ。

 俺達は、ついでに雑貨屋の店主にマジックコートを扱っている店の場所を聞き

 鍛冶屋を探しながら取り扱い店に向かった。一軒は町の東側『トヨスティーク』

 方面の外門近くにあるという、もう一軒は町の中心地から西に行った場所にある

 という、『アインティーク冒険者組合』の向かいにあるのですぐ分かるらしい。


 俺達は東側の店から見る事にした。店に着くまで町の要所を覚えながら移動

 した。さすがに毎日、蒸かし芋では飽きるのでパン屋、定食屋、パスタ店を覚え

 雑貨屋の店主に教えてもらった一軒目の店に着いた。


 店構えは至って普通の武具屋だった。ただ、違ったのは店の両側に小さな椅子

 を設置した冒険者が一人づつ座っていた事だ。俺達が店に入ろうとすると、特に

 こちらの様子を見る訳でもなく足を組んで通りを眺めている。

 恐らく店の商品を守る『契約冒険者』なのだろう、マジックコートがこの国で二軒

 しか扱ってない事から希少価値が伺える。


 俺とテレジアは店に入りマジックコートを確認しに一直線で向かった。

 マジックボアの毛皮を加工したロングコートの値段が金貨三十二枚となってる。


 「……おい テレジア… 高くねえか?」

 「……たっ 高いわね」


 ロングコートで金貨三十二枚、ハーフコートで金貨二十五枚もする。ベストで

 金貨十八枚、グローブが金貨十五枚した。これから遭遇する高ランク『魔獣』と

 相対するなら最低でもハーフコートは所持しておきたいところだ。


 「ね ねえ… 店主さん マジックコートはこんな高かったかしら?」


 テレジアが交渉に入った。


 「申し訳ないです 本当に申し訳ないですね お客さん」


 やたら腰が低く本当に申し訳なく頭を下げている。


 「実は マジックボア自体が入ってこないんですよ」

 「それはマジックボアを『生け捕り』する冒険者が居なくなったって事?」

 「……はい その通りなんです 気軽に行って狩れる相手じゃありませんしね

 腕の立つ冒険者七名~八名が揃い 各自の役割をこなして初めて『生け捕り』

 が成功するくらいです」


 「専属で狩る冒険者パーティーが居るって聞いた事あるんだけど」

 「以前は居ましたよ ですが……毎回誰かが負傷して帰ってきてましたね当然

 自分達がマジックコートを購入するだけの金が溜まると皆辞めてしまいます」

 「……なるほどね ところで『生け捕り』したマジックボアの買取はしてる?」

 「はい! もちろんしています 一頭 金貨六十枚で買取します」

 「……わかったわ少し考えるわ それともう一つ 町にあるもう一軒の店と

 こっちの店の金額は同じなんでしょうね?」

 「はい 誤差は金貨一枚程度でしょう」

 「わかったわ ありがとう でも ……念のため確認してくるわ!」

 「……ハハハ 信用して下さいよ もし同じ金額なら是非うちで購入を!」


 そう言って俺達は一旦、店を出た。 


 「ケイゴ もう一軒の店に行きましょう」

 「あ ああ なあテレジア ここで買っちゃ駄目なのか?」

 「もう一軒の店を見てからね もう少し安いかもしれないし」

 「そうか それにしても驚いたな 『生け捕り』で金貨六十枚か」

 「……ボッタクリとまでは言わないけど 少ないわね」


 「え? どうしてだ?」

 「マジックボアからどれだけの製品が作られると思っているの?」

 「さあ?」

 「…一頭のマジックボアから グローブだけしか作らなかったとしたら?」

 「相当作れるぞ 十枚じゃ効かないな! 二十枚は作れるだろう」

 「それにグローブの金額を掛けてみたら?」

 「金貨三百枚!」


 「そういう事よ 店はロングコートの金額で客の心を折るのよ! 安いやつに

 しておこうとベストやグローブを買うのが心理じゃない?」

 「なるほどな…… 頭いいな店も」

 「……もう ケイゴは能天気ね」


 町の中心部辺りまで来ると鍛冶屋、武具屋が乱立している。この中から安く

 武器を作ってくれるところを探さないといけない。


 「なあ どこの鍛冶屋も腕は良いんだよな?」

 「ええ でなきゃここで店は構えられないんじゃない?」

 「……そうだよな」


 俺はとりあえず作ってくれそうな鍛冶屋に入って、金額と出来上がる期間を

 聞く事にした。一軒目は隣が武具屋になっている鍛冶屋。金属を鍛える音が、中

 からしてくる。


 「こんちわ」

 「特注かい?」

 「ああ そうなんだけど こんなの作れるかな?」


 俺は紙に書いた捕獲武器を鍛治職人に見せた。


 「あっ!? 刃がねえじゃねえか! 帰りな こんな仕事 他所よそに頼みな!」


 追い返された。俺は何軒か回ってみたが同じような返答が帰ってきた。


 「何でだ?」

 「職人だからプライドがあるんじゃない? それって武器じゃなくて道具だし」

 「確かに道具だけど…… 道具は作ってくれないのか……」

 「あたし 包帯とか買ってくるから この辺に居るでしょ?」

 「ああ まだ聞いて回ってるから この辺に居るよ」

 「じゃあ 先に買い物してきちゃうわ」

 「ああ」


 テレジアは包帯やらを買いに、別の店へ行った。俺は続けて鍛冶屋を見て

 回った。すると、一軒の鍛冶屋が目に入った。鉄を鍛える音もしない、中が薄暗

 い鍛冶屋から人の気配がした。


 「こんちわ」


 中に入ってみると、一人の男が椅子に座り酒を飲んでいた。


 「…んん? 客か 珍しいな グビッ」


 客が来てもお構いなしで酒を煽る。四十歳くらいだろうか、背は高くスラッと

 した体系で後ろの髪が長く束ねていた。壁には今まで作った武器なのか数点飾ら

 れていた。防具もある。


 「ああ 一応客なんだけど 注文したいんだ」

 「グビッ グビッ んー まあ あれだ お客さんも一杯飲むか?」

 「俺はいいよ まだ昼間だし とりあえずこれ見てくれるか?」


 俺は鍛冶屋の前に自分で書いた絵を差し出した。


 「んん? 汚い絵だね フゥアッハッハッ んー ん? マジックボア

 狩るのか?」 

 「飲んでてもわかるのか」

 「んー ここはもっとコンパクトにしたほうがいいな」


 俺は驚いた。酔ってばかりいると思ったが俺の汚い絵を見て何をしたいのかが

 分かっている様子だ。


 「てかっ これ お前一人で狩るつもりなのか? 仲間集めて『しびれ矢』でも

 使って動かなくなるまで待ってればいいんじゃね? ヒックッ」


 (『痺れ矢』なんてあるのか……)


 俺は昨日の出来事を鍛冶屋に話した。対策が不十分で手に怪我をした事や、口中

 には魔法が効く事を……そして、俺はショルダーポーチから昨日取った『魔石』

 をテーブルの上に置いた。

 すると、鍛冶屋は驚いた顔をして俺と『魔石』を見るとスクッと立ち上がり

 壁に飾られていた一本の剣を取れと指を差す。


 「おい 壁にある大剣あるだろ ちょっとそれ振ってみろ」

 「これか?」


 俺は壁から大剣を外し、部屋の中心に行くと両手で野球のスイングのように

 振って見せた。


 ブゥオオオン!

 鍛冶屋はそれを見て目を丸くした。


 「……いいぜ 作ってやるよ 夕方取りに来な」

 「ほ 本当か!? サンキュー おっさん!」

 「おい おっさんじゃねえ 俺の名前は カーティスだ まだ三十八だ」

 「カーティス おっさんじゃねえか! ハハハ 俺はケイゴだ 頼んだぜ 

 それでいくらだ?」

 「材料は残ってたの使うから…… 金貨五枚 いや三枚でいいぜ」

 「本当か!? 助かる 先に払っとくよ!」

 「お前 金無さそうだしな フゥアッハッハッ」


 俺は代金を支払い店を出た。


 「……ふーん ケイゴか 面白そうなやつだな」


 カーティスは店の外まで出て俺を見送ってくれた。

 この時はまだ、カーティスが軍関係者の一部しか知らない『魔装武器』を

 鍛えられる鍛冶師『刀工とうこう カーティス』とは知る由もなかった。


(とりあえずテレジアと合流して西側にあるマジックコート取扱店に行ってみるか

 グローブを買って明日から狩りを再開だ!)

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