第40話 治療


 とりあえず応急処置をするのでテレジアの荷物が置いてある宿へ向かった。

 部屋に着くと、瓶に入った塗り薬を両手に塗られガーゼと包帯を巻き処置して

 もらった。


 「サンキュー テレジア」

 「明日も薬を塗って包帯を代えるわ 三日もすればだいたい治るはずよ」


 そう言うと、テレジアはリュックから小道具や薬を出しポーターの男の子に

 買い物を頼んだ。


 「君は名前なんて言うの?」

 「僕は オットー こっちが妹の ソフィアです」

 「そう じゃあオットー これでお酒のウルナを買ってきてくれる? それと

 蒸かし芋や惣菜 食べ物をたくさん買ってきて」

 「は はい わかりました」


 二人はテレジアから金を預かり買い物へ出た。


 「ケイゴ そっち抑えて」


 言われたとおりにすると、テレジアはナイフで気絶している男のズボンを切り

 傷口をあらわにした。傷はパックリと口を開きドクドクと血が流れていた。

 テレジアは男のベルトを外すと、傷を負った足の付け根をベルトで締め付けた。

 どうやら止血のようだ。


 「ケイゴ お風呂場で『ウォーター』を解放してくれる?」

 「ああ わかった」

 「解放したら 何でもいいから お水をこっちに持ってきて」


 俺は風呂場にあった桶に水を入れテレジアの横に置いた。テレジアは手拭いで

 足についた血を拭き取った。


 ドタドタドタ


 「買ってきました!」

 「ありがとう こっちに持ってきて」


 オットーは買ってきた酒と食べ物をテレジアの脇に置くと


 「ああ 食べ物はいいわ そっちで食べて」

 「えっ? いいんですか?」

 「ええ お腹すいたでしょ? 遠慮しないで食べて」

 「あ ありがとうございます!」


 オットーとソフィアは蒸かし芋を美味しそうに食べはじめた。


 「……さて いくわよ」

 「…おい 何する気だ?」

 「とりあえず傷口を塞ぐわ 針と糸で縫いつける」

 「やったことあんのか!? 大丈夫かよ」

 「あるわ 村にいた時は家が診療所の代わりだったのよ」

 「……まじか」

 「足を抑えといて」

 「あ ああ」


 俺はテレジアの指示に従って足首と膝を押さえつけると、テレジアはオットー

 が買ってきたウルナを口に含むと、霧吹きのように傷口へ吹きかけた。


 「プゥッー!」

 「あ ……あぁっ 痛い! いたたたっ!」

 「気がついたのね 今傷口を縫い合わせるから少し辛抱して」

 

 テレジアは糸を針に通すと傷口を縫いはじめた。


 「痛い! いたたた 痛い 痛いっ!」

 「もう うるさいわ これでも噛んでなさい!」


 テレジアはまだ使っていない手拭いを男の口に突っ込んだ。


 「ふごっ ぶごぐご ふごうご!」

 

 男は何か言っているようだが……よく分からなかった。俺は体重を乗せて足が

 動かないように押さえつけた。時折、声にもならない声を発しながら足を動か

 そうとするが其の度にグッと力を入れて押さえ込む。


 「……しかし テレジアがこんな事が出来るとは思わなかったよ」

 「そう?」

 「ああ 薬は扱えると思っていたけど こんな 傷口縫い付けるとか……」

 「あ あのう 何か手伝いましょうか?」

 

 どうやら飯を食い終えたようだ。何か手伝いは無いかとオットーが聞きに来た。

 ソフィアはまだ食べている。


 「今は特に無いわ 今日は隣の部屋で寝ていきなさい あと ちゃんとお風呂

 に入るのよ」

 「いいんですか?」

 「もちろん 今日は本当にありがとう おかげで助かったわ」


 テレジアは、俺が取った部屋で休んでいけと傷口を縫いながらオットーに

 伝えた。


 「ありがとうございます テレジアさん」

 「あら? あたし名前言ったかしら」

 「いえ 会話を聞いて そちらはケイゴさんですよね?」

 「ああ ケイゴだ 助かったぜ ありがとうな」

 「いえ マジックボアを倒すなんて……凄いです 憧れちゃいます!」


 オットーは目を輝かせて俺を見た。


 「とりあえず 二人ともシャワー浴びろよ泥だらけだぞ そんでそのまま寝ろ」

 「はい 入って寝ます おやすみなさい ソフィア行こう」

 「うん おやすみなさい」

 「ああ おやすみ」

 

 二人は隣の部屋へシャワーを浴びに行った。

 俺は小さい時の事を思い出した。妹の由佳が、何時も俺の後ろを付いて周り一緒

 に近所の公園や買い物に行った頃の思い出を……


 「はい! 終わったわ あとは塗り薬を塗って包帯で巻いとくから それと

 飲み薬も出すわ これから熱が出るだろうから化膿止めと一緒に飲むのよ」


 テレジアは粉末の薬を二つ置いた。

 男は口から手拭いを取り出すと礼を言う。


 「……君達 本当にありがとう 助かったよ」

 「困った時は お互い様でしょ あたしはテレジア 助けたのがケイゴよ」

 「ありがとう……私はカイン カイン=ヒューゲルと言います」

 「そう カインさんね とりあえず何でもいいわ 何か食べてから薬を飲んで」


 テレジアは軽めの惣菜をカインに手渡した。カインは食べながら尋ねてきた。


 「君達は冒険者なんですか?」

 「ううん まだ登録はしてないわ 冒険者になる予定ではあるけど」

 「そうなんですか ところでマジックボアは逃げたんですか?」

 「逃げた? いいえ倒したわよ ケイゴが」

 「え? 倒した!? 二人で倒したんですか?」

 「いいえ ケイゴ一人で倒したんだけど」

 「……たった一人で 信じられない」

 「まあ 信じなくてもいいわ そんな事より薬を飲んで早く寝てね」

 「…あ ああ わかりました」

 「ケイゴどうする? もうひと部屋取る?」

 「空いてるかな 聞いてくるよ」


 俺は、部屋が空いてるか聞きに行くと、一つだけ空部屋があるというので

 借りる事にした。


 「テレジア 一つだけ空いてたから取ったよ」

 「じゃあ行きましょ あたし達も寝るから 明日ねカインさん」

 「ありがとうございます」


 俺はショルダーポーチからマジックボアが落とした『魔石』を去り際にカイン

 に見せると目を丸くして『魔石』を見ていた。俺達は荷物を持ち部屋を移動した。


 (……あれ? テレジアと二人で寝るのか?)

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