第39話 救出


 俺はマジックボアの視界に入ると挑発をした。


 「ほらっ! こっちだこっち!」


 鉄パイプをグルグルと振り回すと、敵対行為を感じたのか体をこちらに向け

 地面を引っかく仕草を繰り返した。完全に視線は俺に向けられている。

 

 ブゥォオオッ!


 マジックボアが突進してきた。動きが単調で一直線に俺目がけて襲ってくる。

 まともに喰らえば、大変なダメージをもらう事になるが慎重にマジックボアの

 突進をかわす。二度三度と突進を繰り返すマジックボア、どうやら突進以外の

 行動はしてこないようだ。俺は足への攻撃を試みた。手前でかわした直後に、横

 を過ぎ去るマジックボアの後ろ足を鉄パイプで殴った。


 ブゥオオオッブゥオッオオ!


 痛かったのか足を引きずり間合いを取るマジックボアは再び突進してくる。

 スピードは格段に落ちて、余裕でかわせる。前回同様のタイミングで突進から

 身をかわしマジックボアの横に移動した瞬間、マジックボアが横に頭を大きく

 振った。下顎から生えた大きく尖った牙を俺に突きたてたのだ。

 とっさに、牙を掴むと其の大きな牙は青白く光り小さなプラズマ状態を発生

 させた。


 ビリッビリリリリ


 「くっ!? 痺れる!」

 「ケイゴ! 離して!」

 「…くっ 駄目だ 今離したらこっちがやられる」

 「雷で痺れているの!?」

 「…ああ 力が上手く入らない」


 立っていられなくなった俺は、その場で倒れ込みマジックボアは馬乗り状態で

 喉元目がけて牙を突きたててきた。


 「くっ くそっ!」


 俺は、今の状態を維持するのが精一杯だ。

 こうなったら、いちかばちかだ。俺は掴んだ牙の奥に見えるマジックボアの口

 の中で、大きく爆発するイメージを作り「ボム」を称えた。


 ドゴォオン!


 どうやら成功したようだ。馬乗りになっていたマジックボアは、俺の横に倒れ

 血の混ざった体液を口から吐き出し、のた打ち回っている。


 ブゴォッ! ブゴフッッッ!


 「…危なかったぜ」

 「ケイゴ! 大丈夫?」

 

 俺は、駆け寄ろうとするテレジアを静止してその場で待機しろと言う。


 「駄目だ テレジア まだこいつは生きている こっちに来るな」

 「…ごめんなさい マジックボアの魔法がどんなものか 事前にもっと

 調べておくんだったわ……」

 「気にするな それより仕留めないとな…… 今回はロープも置いてきたし

 処分しよう」

 「うん わかったわ」


 体の痺れは収まったものの、手の痺れはまだ続いていた。鉄パイプで仕留める

 のはちょっと無理そうだ。


 「試してみるか 「ボム」を こいつの口の中に打ち込む」

 「……ええ わかったわ」


 テレジアは緊張しながら見守っている。俺は、さっきと同じ要領で空けている

 口の中に標準を合わせて、爆発をイメージし口の中へ「ボム」を打ち込んだ。


 ドゴォオン! ドゴォオン!

 俺は二発連続で打ち込んだ。


 ブゴォッ!


 マジックボアは、蒸せるような声と共に消滅していった。その場に紫色の

『魔石』を一つ残して……


 「ふう…… 終わったか」

 「ケイゴ! どこか痛むところは?」

 テレジアは、俺に駆け寄り腕を掴んだ。


 「痛っつ!」

 「……なんなのこれ! 手の皮が剥けちゃっているわ… 早く処置しないと!」

 「俺より そこの襲われていた人を見てやってくれ」


 最初に襲われていた男は、すでに意識が無くその場で気を失っていた。


 「わ わかったわ! まだあの子達いるかしら 待ってて!」


 テレジアは、さっきのポーターを探しに下へ降りていった。


 「色んな意味で 痺れたな今回は……」


 俺は、紫色に光る『魔石』の横で『大』の字になって真っ暗い空を眺めた。


 (マジックボアの体内は魔法が効くのか……後は下顎から生えている牙さえ

 なんとかすれば捕獲もいけるな)


 ―― しばらくするとテレジアの声が聞こえてきた。


 「ケイゴ ケイゴー」

 「どうした?」

 「大丈夫なの?」

 「ああ 俺は平気だよ」

 「あの子達が 町まで乗せて行ってくれるそうよ」

 「そうか 悪いな! 助かるぜ」

 「い いいえ……」


 ポーターの男の子は俺の横に落ちている『魔石』を見て尋ねてきた。


 「もしかして たった一人でマジックボアを倒したんですか?」

 「ああ そうだけど?」

 「……凄いんですね」

 

 ポーターの男の子は呆気に取られていた。


 「君も この人を荷台に乗せるの手伝ってくれる?」

 「あっ はい!」


 俺とテレジア、倒れていた男の三人は荷台に乗せてもらい町に戻った。

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