第34話 軍服ミニ娘


 俺はテレジアとジャニーにパンとミルクを買い店に届けてその場を去った。


 「夜 来るんでしょ?」

 「ああ 顔出すよ」


 『フェスタ』ではじめるショータイム。俺がテレジアに

『ショーとかはやんないのか?』と聞いたばかりに手伝う羽目になったのだが、

 どうせやるなら成功はして欲しい。


 俺は、この時間を利用して魔法陣を確認する事にした。魔法陣に指輪を翳すと

 石の表面が動き、魔法陣の上に数字の『13』十三が浮かんだのだ。帰還の

 残り日数を示しているとしたら、二日経ってる数字の『11』十一を示すだろう。

 

 石に着いた俺は一段掘り下がった魔法陣に近づき、周囲を確認して指輪を翳した。


 ズッズズズ

 前回と同じ現象だ。石の表面が歪むように動き、魔法陣の上に……

 数字の『11』十一だ!間違いない、これは帰還する残り日数をを刻む

 カウントダウンだ。


 (……そうか!ついに帰れるのか と、言ってもなんの成果も無いのだが……

 一度帰って、お袋に金預けないとな……すぐ『異世界』に戻って来月こそは、最低

 でも手掛かりを掴んでやる!)


 俺はちょっとだけ、やる気に火がついたがどうしたらいいのか、さっぱりだった。

 とにかく、戻って長島さんに今までの事を話して、どうしたらいいかアドバイスを

 貰おう。


 「うし! 串食うか」


 俺は串を食いに屋台に向かった。


 屋台に着くと、すでにカウンターは一杯だ、オヤジに串と酒を頼み設置テーブル

 で来るのを待った。


 「へいっ! お待ち」

 串と酒はすぐに来た。


 (カーキーが今日も俺の喉を潤す……美味い!特に今日は、汗もかき魔法陣の

 確認も出来た、実に良き日よ!)


 「オヤジ カーキーロック もう一杯」

 「へいっ!」

 

 (まあ調子に乗らず程々にしておこう。この後、『フェスタ』でどんなショーを

 見せてくれるのか楽しみ……いや、大丈夫かな?少し不安になってきた……)


 ――俺は屋台を出て『フェスタ』に向かった。すると、どういう事なのか?店の

 前に人がごった返していた。


 「おい 入れてくれよ」

 「そうだ! 俺達はショータイムを見に来たんだぜ」

 満席になり人が入りきれないでいた。対応に当たっていたローズウッドが俺に

 気付いた。


 「ケイゴさん! 助けてください…」

 

 困り果ててるローズウッド……俺はシカトして店に入った。まだ、時間前なのに

 なんなんだこれは……


 「ケイゴ こっち」

 テレジアが幕の中から手招きした。そこにはママも居て、知らない男二人も居た。

 他の女の子はボックスで接客中だった。


 「…こんな事になるとはね ケイゴ! なんとかしな!」

 「……ママ 今回だけドア開けて営業出来ないのか?」

 「どうやるんだよ?」

 「立ち飲みだよ 立ってる客からは注文取って、酒と引き換えにその場で勘定

 してもらうってのはどうだ?」

 「それでなんとかなるかね?」

 「わからんが……表の客はショーを見たいんだろ? 今日だけオープン記念で

 見せてやればいいんじゃないか?」

 「……それしか無さそうだね」


 そう言うとママはドアを開け中に入れなかった客に

 「あんた達 そんなに見たいのかい!」

 「あたぼーよ! そのために来たんだからな」

 「見ての通り店の中は満席だ そこで大人しく見てるなら今夜だけだ 

 見せてやるよ」


 「おおー! さすがママだぜ」

 「ああ!きてよかったぜ なあ」

 「歌や踊りか……いいねえ」

 「なあママ 酒は飲めないのか?」

 「今夜だけ コップ酒しか出せないよ それと酒と交換で、その都度勘定だよ

 いいね?」


 「うひょー!最高だぜママ!」

 「ママ! カーキー水割りで頼むよ」

 「こっちも水割りだ」

 「俺はウルナ水割りだ」


 ママはローズウッドに注文を取らせ、酒を届けに行った際に勘定を貰うように

 言いつけた。


 「こりゃ大変だな……」

 「何がよ? ケイゴ」

 「このショータイムが成功したら、他の店も真似するって事さ」

 「そんな! ずるくない? あたし達が はじめたのに!」

 「……それが商売ってやつさ ケイゴのほうが分かってるね」

 「そんな……」

 「そんな心配より テレジア自分達の心配しときな みんな お前達の出番を

 期待して店に来たんだからね」

 「……うっ 緊張するじゃない プレッシャーかけないでよ ママ!」

 「ふっ お前さんなら大丈夫だろ……まあ 『お膳立て』はしてあげるよ

 あんた達準備はいいかい?」

 「ああ いつでもいいぜ」

 「俺もいいぜ しかし ママがまた踊ってくれるとはね…嬉しいねえ」

 「ケイゴ 壁から「フラッシュ」持ってきて入れ替えておくれ」

 「ああ」


 俺は壁の照明から「フラッシュ」の中身だけを抜き取り、ステージの照明に入れ

 代えた。思ったとおり、壁際は暗くなりステージが栄えた。音楽が鳴り出し幕から

 ママが現れた。ママはステージにはあがらずカスタネットだろうか……

 フラメンコ! ママが踊り出した。表にいる客も、コップを片手にママの踊りに

 釘付け状態だ。

 (こりゃ一本取られたな ママがこんな隠し玉を持っているなんて 若い頃は

 相当もてたろうな……糞ババアめ)


 時間にして三分~五分だろう。汗だくのママは音楽が止むと、体を止めた。

 店の中、表の客も割れんばかりの拍手喝采だ。踊り終わったママは幕の内側に戻り

 汗を拭いた。ローズウッドは気を効かせ水を持ってくる。ママは一気に水を

 飲み干した。


 「ぷはあー 死ぬかと思ったよ……さあ あんた達の番だよ」

 「うん 行ってきます!」

 「行ってきます!」


 テレジアとジャニーのデュエットがはじまった。二人共、いい声だ、テレジアは

 こんなに歌が上手かったのか……テレジアの高感度がちょっと上がった。

 スローテンポの曲で楽器も弦楽器と太鼓のような?楽器だけで歌唱力は誤魔化せ

 ないだろう。

 ボックスにいて接客していた女の子達も、幕の裏に集まり一斉に二階に着替えに

 行った。テレジアとジャニーはすでに『アーミー』の制服になっていた。

 (みんな軍服ミニか……天国だなここは)

 二階から軍服ミニ娘達が降りてきた。いい眺めだ……


 テレジア達の歌が終わった、これも大絶賛! ママの激しい踊りの効果もある

 のか、しっとりとした歌に皆聞き惚れていた。

 軍服ミニ娘達がテレジアとジャニーに合流した。今度はテンポが早い曲になった。

 各要所で振りを考え覚えたのだろう、揃うところは揃えてわずかな時間で良く

 やったと思う。踊りも練習したらもっと良くなるだろう。

 

 『フェスタ』のショータイム初日は大成功に終わった。

 

 客は帰り際

 「また来るよ 今日は楽しかったよ」

 「こりゃ 店に来るのはショータイムより先にこないとな」

 「ああ 席取られちまうぜ」

 「みんな かわいかったぜ」

 「ありがとう 楽しかったよ」


 表にいた客もみんな喜んで帰ったようだ。その日の売り上げは相当あったらしい。

 いくらとは言わないがママの顔を見たら誰でもわかるだろう。ママは小さな袋に

 硬貨を入れ女の子達に労いながら手渡した。


 「ありがとうね これもみんなが頑張ったおかげだよ 今日はご祝儀だ」

 「ありがとう ママ!」

 「ありがとうございます!」


 (金額の問題じゃない、気持ちの問題だな……ママは良い所あるな)


 「ケイゴ あんたは明日も夕方からテレジアと来な 色々手伝ってもらうよ」

 「え? また?」

 「ああ 何か予定あったかい?」

 「いや…予定なんかないけど」

 「だったら来な さあ みんな疲れたろ お疲れ様 帰るよ!」

 「はーい!」


 「帰ろう ケイゴ」

 「ああ 帰るか」

 「ねえ お腹すいた」

 「ああ 何か食って帰るか」

 「そうね! じゃあみんなおやすみー ママも明日ね!」

 「テレジアお疲れ様!」

 「……ああ 気をつけてお帰り」


 (ローズウッドは多忙だったせいかグッタリして、俺を睨む事すらできなかった)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る