第35話 敵情視察

 ―― 次の日、俺とテレジアは夕方からママの言いつけ通り『フェスタ』へ向う

 事にした。


 中央広場を通り『冒険者組合』で俺の、セーブストーンを買ってから

『フェスタ』に向かうつもりだったが、おかしな事に気がついた。

 広場でのビラ配りが、やけにウロウロしている。

 俺とテレジアもそのビラを受け取った。


『本日、夜8時より 『ショータイム』開催 『アバンギャルド』』


 (ふーん ついに始まったか…… この世界でも、ある意味『やっもん勝ち』

 みたいなところがあるんだろうからな 

 それにしても『アバンギャルド』ねえ…)


「ちょっと ケイゴ…… これって」

「ああ 予想はしてたろ こんなに早く広まるとは思っていなかったけど」

「そりゃそうだけど ……まさか昨日の今日よ?」

「何でもそうだよ 流行りも廃りも 敏感に見極めないとな そんな事より

 ママに教えた方がいいんじゃないか?」

「うん そうね 行きましょう!」


 俺達は『フェスタ』に向かった。

 ママは、すでに店に来ていて業者と打ち合わせ中だった。


「おはよう ママ!」

「ああ おはよう そうだテレジア ショーの衣装を発注するん……」

「そんな事より これ見てよ!」


 テレジアはママにビラを見せた。ママは、しばらく黙って口を開いた。

「テレジア こんな事は承知の上さ 一々 目くじら立ててたらキリが無いよ」

「そうかもしれないけど…… 」

「ケイゴ あんたは今晩この店に行って来な」

「視察?」

「ああ うちと何が違うか よく見てきておくれ」

「……わかった」


「……それと あいつら手荒な真似する連中も雇っているから 気をつけなよ」

「ふーん わかった チンピラか?」

「いや チンピラと似たような冒険者だよ」

「冒険者なのか?」


 酒場で冒険者が契約? 確かに『カナル』で貴金属店と個人契約を結んでいた

 冒険者、フレディがいた。


(……冒険者もチンピラも紙一重って訳なのか? どうも深夜アニメの影響で

 冒険者=勇者、良いやつ って先入観があったけど…ここは違うようだな)


「ケイゴ! テレジアと一緒に衣装を持って来ておくれ」


 俺とテレジアは、ショーで使う衣装を業者の店まで取りに行く事になった。業者

 の店に着くと箱に入った衣装を受け取り、俺とテレジアは抱えながら店に

 戻った。


 (とりあえず、明日まで手伝いしたら一度『アインティーク』へ行くか、この

 ままだと収入が無くて困るのは自分だしな…… そういえば乗り合い馬車は

 出てるのか?確認しとく必要があるな)


 俺は、乗り合い馬車の場所をテレジアに聞き時間を確認しに行く事にした。


「テレジア 乗り合い馬車の場所は知っているか?」

「うん 各方面の外門付近に厩舎があるから 横に建っている小屋で聞くと

 いいわ 『トヨスティーク』からだと 日に数便出ているはずよ」

「サンキュー ちょっと行ってみるよ 時間だけ確認してくるから」

「……うん わかった」


 テレジアは、少しだけ不安気な顔をしていたが俺は店を出て『冒険者組合』が

 見える通りに出ると左に曲がり外門を目指した。


 町から外門を出ると左側に厩舎と小屋が建っていた。小屋の中に男がいたので

 直接聞く事にする。


「こんばんは」

「やあ こんばんは」

「聞きたいんだけど 『アインティーク』行きは何時のがある?」

「『アインティーク』は 朝九時に二本 と深夜便が一本あるよ」

「深夜便?」

「ああ 深夜便は冒険者が二名警護に付くんだ 少し割高になるね」

「なるほどね 休みは?」

「今ところは無休だよ 五日に一度だけ朝便が二本から一本になるくらいだね」

「金額は?」

「朝は 銀貨五枚 深夜便は金貨一枚だよ」

「……深夜便は倍か まあ冒険者二名付けるから無理もないか」

「そうなんだよ すまんね 滅多に無いんだが『アインティーク』の手前で

『魔獣』が出るのさ」

「いや いいさ 朝便乗ればいいんだし」


 俺は話を終えると串屋台に向かった。


 (朝便が二本出ているなら、寝坊さえしなきゃ席は取れるか。最悪、割高でも

 深夜便が出てるんだから助かるな)


 俺は、串を多めに頼むと袋に入れてもらい『フェスタ』に戻った。


「おかえり ケイゴ!」

「ああ 串買ってきてやったぞ 食えよ ママも良かったら」

「ありがとう!」

「あたしも一本貰うよ」

「俺 これ食ったら『アバンギャルド』行ってみるよ」

「ああ 早い方がいいかもね ショーの時間に行っても入れないだろうからね」


 俺はママに手を出して金の催促をしてみた。するとママは、俺の手を叩いて

 こう言った。


「ケイゴ! あんたはあたしからテレジア連れて行くんだよ? 銭の催促なんて

 十年早いよ!」


 ……酷い理屈だ。俺が連れて行くんじゃなく、テレジアが付いて来るのだ。

 まあ、いいか……


「まあいいよ ところで『アバンギャルド』ってどこにあるの?」

「場所は『アーミー』の通りだよ 行けば分かると思うよ」

「わかった それじゃ行ってくるわ」


 俺は『アバンギャルド』に向かった。中央広場に出てクロッツェ通りに入る。

 店はすぐに見つかった。『フラッシュ』が焚かれている看板を見た感じ、店は

 営業中のようだ。俺は店に入った。


「いらっしゃい! あ 兄さん来てくれたんだ」

 カウンターでグラスを拭く男、ビラ配りの男だった。


「ああ どんな感じか見たくてね ここ いいかい?」

「どうぞ!」

「んじゃ カーキーロックで」

「はい 少々お待ちを」


 俺は、カウンターに座り酒を頼んだ。客は俺しかいなかった……


 (大丈夫か? この店……んー ステージも何も無いな 楽器するやつも

 見当たらないし……)


 俺が、辺りを見渡してると店の女の子が一人俺に付いた。


「いらっしゃい お客さんは初めてですよね?」

「ああ 最近この町に来たんだ」

「へぇ そうなんですか あたしも一杯いいですか?」


 (こいつ……自分の名前すら言わない気か?)


「ああ 一杯いいよ」

「ありがとう! マスター 水割り!」


 そうこうしている内にショータイムの時間になった。客も何人か入って来てる、

 カウンターからマスターと呼ばれたビラ配りの男がお客達に、これから

 ショータイムが始まると告げた。すると、隣に座っていた女が立ち上がり店の

 突き当たりで歌いだした、アカペラだ……正直驚いた。


 特別、歌が美味い訳でもなく普通の歌が終わり席に戻ってきた。


「お客さん どうだった? 中々 イケてたでしょ?」


 女はニコニコして俺に聞いてきた。


「あっ ああ…… イケてたと思う」

「本当? ああ良かった! 少し緊張していたのよね」

「……なあ もしかしてこれが『ショータイム』ってやつなのか?」

「ええ! 今日から始めたのよ 他じゃ見れないわよ!」


 (……そうか 『フェスタ』の『ショータイム』を見てないんだな。もし見て

 いたらドヤ顔で、これが『ショータイム』なんて言えないよな……)


 俺は金を払い『フェスタ』に帰った。

 店は満員でカウンターも空いてない、ローズウッドが俺に気がついた。


「ケイゴさん! どうでした?」

「ああ ママは来ている? とりあえずママに報告するけど……問題ないよ」

「そうですか なら良かったです ママはカーテンの後ろにいますよ」


 ステージではテレジアと一緒に運んだ衣装を着て、店の女の子達全員が歌を

 歌っていた。今回の衣装は、浴衣ミニ……一体誰が作っているんだろう。

 カーテンの後ろに行くとママが、汗を拭いていた。

 恐らく今日も踊ったのだろう、俺に気付いたママが聞く。


「どうだった?」

「どうもこうも……」


 俺は、事細かくママに『アバンギャルド』の話をした。


「……なるほどね 『ショータイム』ってビラ配って客だけ釣ろうって腹かい」

「ああ あんな事してても長続きはしないだろ」

「そうだね ご苦労さんだったね! ここで飲んでいきな」

「ああ」


 俺は、ローズウッドに酒を頼みカーテンの後ろで飲む事にした。すると、女の子

 全員の歌が終わってテレジアが俺のところに来た。


「……ねえ どうだったの?『アバンギャルド』の様子は」

「問題ないよ 『取り越し苦労』ってやつだ だいたい ここのステージも

 見た事ないやつが『ショータイム』なんて無理だ 心配すんな詳しい事は後で

 ママに聞けよ」

「うん 良かったわ そうよね! この『ショータイム』と同レベルのものなん

 て そうそう出来ないもの! じゃあ仕事戻るね」

「ああ」


(あの店も一時は客を釣り多少は美味しい思いをするかもしれないけど そんな

 事は長続きするはずがない 

 敏腕プロデューサーの俺が言うんだから間違いない)

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