第33話 ショータイム


 ―― 俺は『フェスタ』に出来上がったステージを肩で担ぎ上げ持って行くと

 先にママのところに鍵を取りに行っていたテレジアが店の前にいた、ママもいる。


 「それがステージかい?」

 「ああ 本当はこれに綺麗な布でもかけると見栄えいいんだけど……」

 「……わかった それを何処に置くんだい?」

 「正面か 少し右奥かな 右奥に二階のドアあるんだろ?」

 「あるわ」

 「ショーの時はそのままの制服でやるのか? 女の子は『アーミー』の制服に

 着替えたらいいんじゃないか? その時だけ」

 「……なるほどね 衣装か」

 「ああ 町の人間は見慣れてるかもしれないけど その時だけ衣装を変えるのは

 ありだと思うけどな とりあえずステージ設置しちゃうよ」

 「ああ 頼んだよ」

 

 俺はステージの設置に取り掛かった。と、いっても置くだけだ。


 「テレジア 乗ってみ」

 「いいの?」

 「ああ」

 テレジアはステージに、そっと乗っかった。


 「歩いて…つまづくところも無さそうだな」

 「うん 大丈夫よ!」

 「底は抜けないと思うわ 隙間に角材も入れてコンパネ二重にしてあるしな

 あと照明だけど 壁についてる「フラッシュ」入れるやつ それ余計に無いか?」

 「ママあった?」

 「一つくらいしか予備は無かったね ケイゴ買ってきておくれ」

 「場所は?」

 「あっ あたしが行くわ」

 「そうかい テレジアついでに布買ってきな できるだけ見栄えいいやつね」

 「わかった 行って来るわ」


 テレジアは買い物に出た。ママはカウンターに入り冷たいお茶を入れ俺に出した。


 「飲みな 汗かいたろ」

 「ああ ありがとう」

 「……ケイゴ あんたテレジアの気持ち分かってんだろ?」

 「……」

 (そっち方面は苦手でも、そこまで俺も鈍くはない……)


 「…何か事情があるなら無理にとは言わないよ でも連れて行くなら途中で

 おっぽるような事だけはしないと約束しておくれ……」

 「ああ……わかってる そんな事はしないよ」


 ―― しばらくするとテレジアが荷物を抱えて帰ってきた。


 「ただいま! ハァハァ……疲れたわ」

 「おかえり ケイゴに渡して」

 「はい… ケイゴこれ わかんないから二種類買ったわ」


  少し厚みのある柄模様の布と、黒っぽい布を渡された。

 俺は柄模様の布をステージに使う事にした。

(うん だいぶ見栄えが良くなったな 残ったのは……そうだ!)


 俺は残った黒い布を幕にする事にした。店にあった紐をステージの上から二階の

 ドアまで張りカーテンレールの代わりにして、布を紐にかけ所々小さな釘を刺し

 先を曲げて落ちないようにした。


 「いいわね! ショーまでそっちにのボックスには 案内しないようにすれば

 いいのね?」

 「そういう事だな ショーは早い時間に客寄せのつもりでやると良いかもな」


 照明はガラスの部分に色を塗っただけで、ショーになったら壁に使っている

 「フラッシュ」の中身だけ取り出し、こっちに入れ替える説明をママにした。

 ママは驚いた顔をしながら


 「ケイゴ あんた何者だい?」

 「え? 何者ってなに? 俺は俺だよ 訳わかんねえよ ハハ」


 ママは煙草を吸いながら少し笑っていた。


 「テレジア 宿に戻って支度してきな」

 「あ うん わかった」

 「ケイゴ!」

 「え?」

 「チラシ書いて配ってきな」

 「ええっ?」

 「早くしな 時間無いよ!」

 「…ああ わ わかった」

 (なんでこうなった……)


 「ショーの時間は何時にすんの?」

 「八時半から九時半の一時間だね それで様子見てみるよ」


 俺はママが用意した紙に

「本日より ショータイム! 八時半~九時半 『フェスタ』」


 チラシ書きをしているとローズウッドが出勤した。

 

 「あれ? ケイゴさん何をしてるんですか? あっママ おはようございます

 どうしたんですか?」


 ママはローズウッドに説明してチラシ書きを手伝わせた。ローズウッドは小声で


 「なんでケイゴさんがやってんですか?」

 「…こっちが聞きてえよ……ママは強引だな」

 「あっ! 何か言ったかい?」

 

 (地獄耳かよ…糞ババアめ!)


 「それくらいでいいだろ 二人で中央広場行って配ってきな! 鉱山労働者には

 確実に渡すんだよ」


 俺とローズウッドはチラシを持ちビラ配りに出かけた。


 「しかし ケイゴさん 酷い目にあいましたね ハハハ」

 「……ねえ 喜んでる?」

 「いえ 全然そんな事ないですよ ハハハ」

 「……」

 (こいつ……)

 

 「同じところで配っても意味ないだろ 俺はあっちに行くから」

 「わかりました」


 俺はこれ以上ローズウッドと居たら、殴りそうになるので違う場所でビラ配りを

 する事にした。鉱山方面と宿泊施設の近くに行ってみる事にした。

 俺は通り過ぎる労働者にもビラを渡す。


 「なあ 兄ちゃん ここって新しい店かい?」

 「ああ 先月オープンしたんだよ」

 「知らなかったな 行ってみるかな」

 「ああ 女の子もかわいかったぜ」


 俺は労働者に聞かれると、それとなく店舗紹介と女の子可愛いアピールだけ

 しといた。ショータイムを聞かれる時もあるが《行ってみないとわかんない》と

 だけ言っておいた。

 鉱山の宿泊施設にいる労働者にチラシを配った。まだ、その日の労働が終わって

 いないのか少なかった。同じ場所に何枚も配っても意味が無いので各棟に十枚程度

 配り戻る事にした。


 店に戻るとテレジアとジャニーが出勤していた。


 「おかえり ケイゴ」

 「こんにちは」

 「ああ ども ママは?」

 「ママは出かけたわ」

 「そっか やっと解放されるな あとは俺居なくてもいいだろ?」

 「あたし このまま仕事になるから 何か買ってきてよ!」

 「パンか?芋か?」

 「そうね…じゃあパンにしようかな あっジャニーも食べるよね?」

 「なんだか悪いわ」

 「いや ついでだからいいよ パンでいいんだろ?」

 「じゃあ お願いします」

 「んじゃ適当に買ってくるよ」


 (テレジアはジャニーと打ち合わせだろうか、言いだしっぺは俺だから上手く

 いってくれるといいんだが……あれ?そういえばローズウッド帰ってないな……

 まっいいか、あいつ憎ったらしいし…) 

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