第32話 ステージ


 ―― 次の日の朝、昨晩はお互い会話も無くテレジアは部屋へ真っ直ぐ戻り

 眠ったのだろう、俺は寝た。


 「ケイゴ? ケイゴ?」

 ドアの外からテレジアの声がする。


 「…おはよ」

 「ああ おはよう」

 「ご飯行こうよ」

 「ああ 行くか」

 俺達は朝飯に出かけた。テレジアは少し先に起きていたのだろう。髪がとかされ

 少しいい匂いがした。


 何時ものようにパン屋で朝食。昨日はちゃんとした飯は食ってなかったので腹が

 減っていた。ミルクとパンを二つ買う。


 「ねえ この後用事は無いんでしょ? ママのところ行かない?」

 「え? ママのところ?」

 「うん やっぱ他と同じ事してても売り上げなんて伸びないじゃない 昨日の話

 してみようと思って ケイゴも着いて来てよ」

 「まあ…言い出しちゃったの俺だし 用事も無いからかまわんけどママ

 いるのか?」

 「『アーミー』のすぐ裏よ 行ってみましょう」


 俺達はママの住んでいる『アーミー』の裏に向かった。朝は夜の様子と真逆だ、

 静かで人なんかほとんど歩いていなかった。

 

 「ここよ」

 二階建ての住まいのようだ。


 「ママ! あたし テレジア いる?」

 テレジアは表から声をあげた。少しすると二階の窓が開いた、ママが顔を出す。


 「……なんだい? こんな時間に」

 ママは寝起きだ。

 「ちょっと話があるの!」

 「……あがってきな…」


 俺達は裏の階段から二階のドアを開けた。ママは下着姿だったがローブを羽織り

 煙草に火をつけた。


 「突っ立ってないであがりな」

 「ねえママ ショーよショー! お店でショーをするのはどう?」

 「……なんだいショーって?」

 「昨日 ケイゴが言ったのよ ショーとかやんないのかって」

 「…もっとわかるように説明しな!」


 テレジアはママに説明しだした。話の途中、俺も大雑把に説明を付け加えた。


 「ね どう? ママ」

 「……確かに他の店じゃやっていないね 楽器が出来るのは何人か知り合い

 いるけど ステージっていうのはどういうもんなんだい?」

 「簡単に説明するとちょっとした台かな 店の床よりこれくらい高い台を用意

 してその上で踊るなり歌うなりしたらいいんじゃないかな」

 「……なるほどね」

 「あとは看板みたく小さい「フラッシュ」の入れ物の周りに色を塗って雰囲気

 作り?したらいいんじゃないかなと…」

 「それは ケイゴ あんたに任せるよ」

 「えっ? 俺に? なんで?」

 「はあ? そんなステージとか言われてもあたしらは分かんないんだよ ケイゴ

 あんたがなんとかしな……そしてテレジア あんたは女の子達と歌を歌いな 

 試しに三十分間交代で歌うなりして決まった時間を作るんだ」

 「ケイゴ あんたは材料買って取り掛かりな 今日中になんとかしなよ!」

 「マジかよ?」

 「大マジだよ!早く行きな」

 (この糞ババア!ちくしょう!)


 俺は材料を買いに中央広場に向かった。


 「……フゥー …行ったね」

 ママは窓から確認した。


 「……で なんか話あるんだろ?」

 「……ママ あたし 少しお店辞めるの早くなるかも…」

 「『トヨスティーク』出て行くのかい?」 

 「…うん」

 「フゥー わかったよ ケイゴが出て行くのかい?」

 「……うん」

 「いいよ……着いて行きな 今度の鉱山労働者の休み前までいてくれりゃいいよ

 あと三日だ それくらいは居れるんだろ?」

 「うん いると思う あたしも昨日の夜 聞いたから……」

 「自分の夢も忘れるんじゃないよ……」

 「うん ありがとう ママ」


 ―― その頃俺は、中央広場で材木と釘等が置いてある店を聞き込み買いに回っ

 ていた。角材とベニヤ、あとはコンパネがあれば組み立てられる。

 

 材料を買った俺は、冒険者組合から近い外門に向かった。ここは場所も広いし

 作業していても何も言われないだろう。

 

 (てか……なんで自腹でこんなの作ってるんだ俺)


 俺はまず、のこを引き各パーツを切る事にした。サシ(ものさし)も無ければ

 メジャーも無い、無い無いづくしで大丈夫だろうか?真っ直ぐ線を引くときは板の

 端を使い……最終的には壊れなきゃいいだろう、形は二の次だ。


 木材を切る作業が終わり金槌で釘を打ちつける作業に入るとテレジアが来た。


 「ケイゴ! こんなところに居たの?」

 「ああ この辺は広いし誰にも文句言われないだろ? 飯買ってきてくれよ 

 もう昼だろ?」

 「あっ うん じゃあ買ってくる 惣菜と芋でいいよね?」

 「ああ あと冷たい お茶もな!」

 (なんかいいな……やっぱ仕事は汗かかないとな)


 テレジアが帰ってきた。俺達は、そのままベニヤの上に座り飯にした。


 「似合うわね ケイゴ 鉢巻して耳にペン差して フフ」

 「そうか?」

 「うん 似合うわ…」

 (実際、同じような仕事してた時もあったしな……)


 「…ねえ 三日だけ待ってくれない?…… お店辞めるの ママに言ってきた」

 「そうか……でも本当に仕事辞めて 着いて来るのか?」

 「そうよ! 駄目って言っても行くから!」

 「……ああ それは分かったんだけど どうせまた戻ってくるんだぜ?」

 「えっ? 『トヨスティーク』に戻るの?」

 「そりゃ 旅を続けて記憶戻すんだけど……この町に来てまだ何日も経って

 いないんだぜ? 行ってない所だってあるんだし…」

 「……」

 「まあ…『アインティーク』で何か手掛かりがあれば話は変わるが……」

 「結局そうなるよね…… やっぱり着いて行くわ」

 「……まあ かまわないよ テレジアがそれでいいのなら」

 「うん」

 最後だけテレジアはニコッとした。


 「よし あとちょっとだ 片付けちまうか!」

 「ケイゴ 頑張れ!」

 「おう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る