第31話 パーソン


 冒険者組合の向えにある武具屋を出た俺は、テレジアの勤める酒場『フェスタ』

 に向かった。店に入りカウンターへ向かう、カウンターは今夜も空いていた。

 俺は椅子に座り酒を頼んだ。

 「よう ローズウッド カーキーロックで」

 「いらっしゃいませ」

 今夜もローズウッドはニコニコとグラスを拭いている。店の中を見渡すと一番奥

 のボックスに、テレジアが客二人について接客中だ。


 「どうぞ」

 出されたカーキーをグイッと喉から流し込む。俺はローズウッドに簡単な料理を

 頼むとトイレに立ち上がった。トイレは店の奥にある、そこまで行くのにテレジア

 が俺に気付いたようだ。カウンターに戻るとテレジアがこっちに来て言った。


 「ごめんね…もうちょいかかりそうだから 飲んで待っててね」

 耳元でそう言うと接客に戻った。

 カウンターでグラスを拭いているローズウッドは、俺を見て涙ぐんでいた……


 ―― 客も帰り出し、閉店の時間が来た。最後の客が店を出るとテレジアは

 二階に行き、私服に着替えてきた。

 

 「ケイゴ お待たせ 帰ろうか」

 俺達は、夕方行った屋台へ向かった。串を食ったら、そのまま外門を出て町の外

 を流れる川辺に行く事にした。屋台についた俺達は、それぞれ串を頼んだ。


 「おじさん 漬け込み二本と揚げ一本ね」

 「俺は 揚げ三本とカーキーロック」

 「へいっ! ありがとうございやすっ! お客さん そっちのテーブルで

 お願いします」


 屋台のカウンターは満席、カウンターと言っても四人も座れば一杯のカウンター

 だ。オヤジは申し訳無さそうに、設置されているテーブルを指差した。テーブルは

 他に三つ設置されていて、その内の二つは客がいた。


 「へいっ!お待ち」

 俺達は、テーブルに備え付けのタレを皿に乗せ串を頬張った。

 (うん、美味い!)

 俺もテレジアも満足そうに串を食べる。


 「なあテレジア 町の酒場ってどこもあんな感じなのか?」

 「なに急に どうしたの? そうよ 何処も同じのはずよ」

 「ふーん……ショーってないのか?ショー」

 「ショー? 何よそれ? 聞いた事ないわ」

 「例えば 酒場に音楽やるやつ呼んで ちょっとしたステージ作って店の

 女の子達で歌と踊りを見せるとか」

 「……何それ でも良さそうね…」

 「やるなら予め時間を決めて 看板とかに書いとけばいいんじゃないか? 

 それか女の子達に紙に書いたビラを配らせるとかして」

 「そうね! そのショーってやつ 明日ママに話してみるわ ケイゴも来てね」

 「……あ ああ」

 「何? どうしたの?」

 「……いや 実はさ」


 俺はタファリをソロ狩りした日、冒険者二名との会話の内容をテレジアに教えた。

『魔獣』を狩りつくしたら、しばらく生息地に出現しない事を……


 「だから『アインティーク』に行って稼いでこようかと思っているんだ……」

 「……そうなの… ねえ もう少し待っててよ」

 「……ああ いきなり明日とかは無いから 安心しろよ」

 「…あたしも着いて行くから! 黙って行ったら駄目だからね!」

 「……ああ」

 「……それだけは約束してね?」

 「ああ」


 俺達は、串を食い終わると川辺に向かった。テレジアは、辺りを見回している。

 周囲に誰かいて俺の魔法を見られない様にする注意だろう。


 「…いいわね ケイゴ 川の中心に向ってウォーター撃ってみて」

 俺は頭の中でウォーターを称え川の中心を狙うように撃ってみた。


 ズバアアアアアアアア!

 俺の位置、二メートルくらい先から太い水流が勢い良く川の中心に向かって放水

 された。「フラッシュ」を焚いて見ていたテレジアは、驚きを隠せないでいた。

 「そんな…… ありえないわ 詠唱を称えず魔法の発動なんて……」

 「…ケイゴ 今みたいに川の中心を狙ってウォーター ウィンドって交互に

 撃ってみてくれる?」

 「交互にか?」

 「ええ あたしがいいと言うまで続けて」

 俺は言われたとおりに、ウォーター、ウィンド、ウォーターと交互に魔法を発動

 していく。テレジアは、その間カバンからゴソゴソ何かを探している。

 交互に二十回は撃っただろう、テレジアがストップをかけた。

 

 「ふう たまに間違えそうになるな 今のは何の確認だ?」

 「ケイゴ この葉を両手に挟んで」

 俺は葉っぱを一枚渡されて両手で挟んだ。


 「それは『パーソン』の葉よ 知っているでしょ? マナハと一緒に入っている

 お茶の原料」

 「ああ 聞いた事あるよ 見たのははじめてたけどな」

 「『パーソン』の葉は 残りのマナを教えてくれるの 一~二分そうしていると

 使った分のマナの量を割合で教えてくれるの 例えば マナの量が満タンで十だと

 して 使った魔法が三だとするわ すると七割は残っているわよね? 葉の七割は

 緑のままで使ったマナの量 三割は葉が枯れるのよ」

 「なるほど 使った分が枯れて教えてくれるんだな?」

 「そう 今 交互に魔法を使ってもらったのは 普通はあれだけ連続使用したら

 確実に五割は削れているはずよ」

 「じゃあ 半分枯れちまうな この葉っぱ」

 「……普通はそうね でも ケイゴあなたは特別よ 異常よ……」

 「……異常かよ」

 「当たり前でしょ 詠唱せず魔法が発動したり ……『黒い炎』の時点で

 異常なのよ……マナは使い過ぎると自分で分かる様になるはずよ 頭痛、嫌悪感、

 目眩がしてくるの マナを使い果たして死ぬ事はないんだけどね 普通はそうなる

 前に気絶しちゃうから……そろそろ時間ね 『パーソン』の葉を見せて」


 俺はテレジアに両手に挟んだ葉を見せた。葉に異変は無く青々としていた。


 「……段々慣れてきたわ 毎回驚くのには疲れたから慣れる事にしたわ ケイゴ 

 あなたは特別よ 何度も言うけど絶対他人には見られないでね……帰りましょう」

 「……ああ」

 (なんだか……何もしてないのに悪い事してる気分だな…)

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