第30話 混迷


 『魔石』を換金した俺はテレジアと夜飯を食べに行く事になった。


 「どっか美味いところ知ってるか?」

 「そうねえ… ケイゴはどんなもの食べたいの?」

 「俺? 俺は何でもいいよ」

 「そう? じゃあ着いてきて!」


 テレジアは、どんどん町外れに進む。外門近くまで来ると辺りをキョロキョロ

 見渡している。

 「おい こんな所に店なんか無いだろ?」

 「あっ あった! あれよあれよ!」

 

 なんだろ?小汚い屋台がある。テレジアは駆け寄り椅子に座る。魚貝のスープに

 漬け込んだ、串刺しのすり身だった。隣には、すり身を揚げる鍋まである。


 「おじさん 揚げ串二本に 漬け込んであるのを二本ね」

 「あいよ!」

 「ケイゴ お金をたくさん払えば美味しいものが食べられるだろうけど あたし

 はこういう お店も好きよ」

 「ああ 俺も好きだぜ こういう店わ」

 「夜になるとここに座れないわよ ねっ おじさん!」

 ニコッとしたオヤジの脇を見ると、椅子やテーブルが用意されている。


 「ヘイッ! お待ち!」

 俺達の前に、揚げたての串とタップリ出汁ダシが染みこんでそうな串が出された。

 俺はまず、出汁の染みこんでそうな串を半分ほどガブリとかじった。

 思ったとおり出汁が染みこみ、口の中で広がる魚貝の香り。美味い!続けて揚げ

 串を食べようとすると


 「あっ ケイゴそれは こっちのタレを付けて食べてみて そのタレは好みが

 分かれるから付けないで食べる人もいるのよ」

 白い粘々している…ああ、これはマヨネーズみたいな感じなのかな。備え付けの

 スプーンでタレを一杯掬い取り自分の皿へ乗せ、揚げ串の先でタレを掬うように

 つけ口に入れた。


 「…うっ 美味っ! 美味いぞこれ!」

 「でしょう! フフン! あたしもこれ好きなのよ」

 タルタルソースだった。ネギの味はしないものの紛れも無くタルタルソースの味

 がした。確かに美味い、贅沢を言えばソースでも食べたかった。


 「さすがテレジアだ いい店知ってるな これ一本いくらだ?」

 「一本 銅貨二枚になりやすっ!」

 「だってさ フフ」

 オヤジが答えると、テレジアがニッコリ向いてそう言った。


 (揚げ物があるのには驚いたな……だったら何で『コロッケ』が無いんだ……

 揚げ物はまだ発展途上という事か?……)


 「テレジア」

 「なに?」

 「俺達がよく食っている芋あるよな? あれを揚げてる店って無いのか」

 「あるわよ? 蒸かした芋をそのまんま揚げて出すところ あるけど一口食べ

 たら味は同じだし 大抵は蒸かし芋をみんな食べてるわ」

 「……なるほどな」

 「ねえ なんなの?」

 「いや ちょっと気になっただけだ それよりもっと食え 遠慮するなよ」

 「ううん これから仕事だから あまりお腹に入れちゃうとね」

 「ああ そうか そろそろ仕事か 行くか」

 

 俺は支払いをして小声で尋ねてみた。

 「…酒は置いてあるのか?」

 「…へい…地酒と「ウルナ」と「カーキー」が」

 オヤジも小さな声で、そう答えた。俺はニンマリしてテレジアを追っかけた。


 俺とテレジアは中央広場で別れ、テレジアはシャワーを浴びて店に、俺はこの

 辺をウロウロしてからテレジアの店に行く話になった。


 (また、あちこち店を覗いていくかな…それとも、さっきの屋台で飲むか…

 いや、今から飲んだら夜テレジアの店にいけなくなるな)

 結局、店を覗き歩く事にした。テレジアに書いてもらった町の平面図を見て、

 まだ行ってない区域を探索する事にした。


 日も落ち、所々で「フラッシュ」が解放されはじめていた。俺は右手に平面図

 左手はズボンの前ポケットに手を入れ歩いていく。ライザー鉱山方面の外門付近

 まで来ていた。やたら鉱山労働者の姿が目に付いた、どうやら労働者の宿泊施設が

 あるようだ。俺は外門から町に入る労働者達が作る、人の流れに合わせる様に道を

 進んでみた。

 すると、二階建ての建物が三棟ほど立っていた。そこが宿泊施設のようだ。

 かなりの人数が、寝泊りしている感じがする。


 (駄目だ……俺にはこんな共同生活無理だな……)

 そんな事を一瞬思い、宿泊施設を通り過ぎ中央広場に戻る事にした。


 途中、鉄パイプを買った武具屋の前を通ったのでついでに立ち寄ってみた。金は

 あるので『ちゃんと』した武器を買おうと思えば買えるのだが、やはりしっくり

 こない……どうも西洋っぽのが駄目なんだろう。俺は店の人間に尋ねてみた。


 「こんばんは」

 「いらっしゃい」

 「武器って ここにあるのが全部?」

 「ああ そうだよ ここと もう一軒 冒険者組合の道を挟んだ所にあるだけさ」

 「ふーん……特注って出来るの?」

 「うちでは無理だね……注文するなら『アインティーク』に行きなよ」

 「『アインティーク』行けば作ってもらえるんだ?」

 「そうさ 兄さん知らないの? 武具の専門店が集まる都市で店の数なんて四十

 や五十じゃ効かないだろうね 鍛治都市『アインティーク』さ」

 「へぇー 凄い町があるんだね! 」

 「ああ 最初は鉄製品の加工がメインだったが何時の間にか武具専門になった

 んだよ 確かに腕の良い職人はいるからねえ」

 「そうか 『アインティーク』か ありがとう」


 俺は念のため冒険者組合の向かいにあるという武具屋も見てみる事にした。店に

 入って見て回ったが品揃えは、さっきの鉄パイプ購入店と同じだ。値段もほぼ一緒

 だ、当然だな競合店同士で値下げ合戦していたら利益が無くなる。


 俺は店を出るとカナルで買った地図を取り出した。

 (そういえば『魔獣』の生息地は『ライザー炭鉱』と『アインティーク』付近

 にもあったな……Aランク『魔獣』が出るってテレジアが言ってたやつか…)


 俺は『アインティーク』へ移動するか迷った。収入源の『魔石』も、肝心の

『魔獣』が出現しないのでは、すぐに金も底をつくだろう……


 (ふう… テレジアに何て切り出すかな……)

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