第27話 魔法陣


 ――次の日の朝、自力で目が覚めた。テレジアはまだ迎えに来ない。昨日から

 酒場で仕事をはじめているのだから朝は辛いだろう、自分で起きて俺の部屋に

 来るまでは、こちらから起こしに行くのは止めておこう。

 (買い物が済んだら、今日も『魔獣』を狩り『魔石』換金で収入を得ないとな…

 セーブストーンも欲しいし旅の準備を充実させとかないとな)


 俺が起きて一時間もした頃、ドアをノックする音がする。


 コンコン コンコン

 俺はドアの鍵を開け顔を出すと、そこには寝起きで髪がボサボサのテレジアが

 立っていた。本当の寝起きの状態だ、目も半分しか開いてない。


 「……ふぁー… おはよ… ケイゴ」

 「ああ おはよう 髪凄いな ハハ」

 「…ん? そお? ちょっと待っててね 今用意するから」

 「ああ もっとゆっくりでも良かったんだぞ 朝辛いだろ?」

 「…うーん 少しね でも約束だし って! なんかやさしいわね」

 「あ? 普通だから 気にするなよ 俺はパン屋行ってるよ」

 「そう わかった あたしも着替えて降りていくから すぐ行くわ」


 俺は部屋に鍵をかけパン屋へ向かった。

 (すぐ来るだろうからテレジアの分も買っといてやるか)


 俺はミルク二本とパンを二つ買い、表に設置された椅子に座りミルクだけ飲んで

 テレジアを待つ事にした。


 「ケイゴ お待たせ!」

 テレジアは、五分もしないうちに宿屋から降りてきた。


 「なんだ? 早かったな ほら買っといたから好きなの取れよ」

 「ありがとう! あっそれとこれ昨日寝る前に書いといたの 覚えとくといいわ」

 「なんだこれ? 町の地図か」

 どうやら『トヨスティーク』の、簡単な平面図のようだ。宿屋や俺の立ち寄り

 そうな場所が記されている。中々、見事な町の作りをしている、ペンタグラムに

 なっていた。

 

 「とりあえずその辺覚えとけば問題ないでしょ?」

 「ああ すまない ところでセーブストーンは組合でいくらする?」

 「そうね ここは産地だから金貨一枚と銀貨五枚くらいね 他所は運搬費やら

 人件費がかかっていて 『カナル』は金貨二枚くらいだったでしょ?」

 「ああ 『蓄積屋』に頼んだ時は金貨二枚がセーブストーン代だったな」

 「だったらもう少し安いかもね 本当は組合登録しとけばもっと安いん

 だけどね…」

 テレジアはパンを食べながら、早く一緒に登録しよう!という目で俺を見た。


 「……買い物だろ? 行こうぜ」

 「ええ まず服よね? 案内するわ」

 俺達は服屋へ行き買い物をした。

 (ギルベルトさんに買ってもらった服は、仕事でボロボロになったから持って

 こなかったんだよな また寝巻き用にスゥエットとシャツを何枚か買っておくか)


 俺達は服屋で買い物を済ませサンダルを靴屋で買うと武器屋に来た。

 この町で武器屋は二軒くらいしかないようだ。


 「本当に買うの?」

 「武器か? あったほうがいいだろ? ずっと素手じゃなあ…」

 「……とりあえず見るだけ見てみましょ」

 そうテレジアは言うと店には入って行った、俺もついて行く。


 中は様々な武器が置いてあった。大剣はもちろん、短剣から長剣、鈍器に槍まで

 凄い品揃えで防具まで置いてある。テレジアは腰に手を置き黙ってこちらを

 見ている。何か言いたげだ……

 (剣を買うつもりだったが……値段も高いな…金貨二十枚とかざらだ……

 値段もそうだが、しっくりしたのが売っていない日本刀みたいなのは無いのか…)


 「あっ これ欲しいな」

 「……バッグね」

 乗り合い馬車で叩きのめした、冒険者のコートを着ていたやつが持っていた

 ショルダーポーチがおいてあった。これは欲しい……酒も入るし。とりあえず今回

 は、肩から下げるポーチと細い鈍器…鉄パイプのような物を買う事にした。


 「ぶっ! 武器って鉄パイプ? ぶぶっ」

 「……値段高いし しっくりしたのが売ってないんだよ…笑い過ぎだろ」

 「ごめんごめん もっと厳つい大剣みたいなの想像してたから ぶっ」

 「……」

 (俺だって恥ずかしいんだよ……まさか武器屋で鉄パイプを買うと思っても

 みなかったわ…)


 支払いを済ませ店を出ると、テレジアがもう一軒行くから着いて来いと言う。

 俺は黙ってついて行くと、俺の倍近い高さがあり地面に向かうほど横に広がる

 石があった。

 

 「何でもこの石は古くからあって、町の拡張工事の時に撤去しようと周りを

 掘ったんだけど下はさらに石が大きくなってたらしいの 工事が遅れるので結局

 そのままにして 町の拡張を進めたらしいわ」

 「へぇー… どんだけでかい石なんだろうな」

 俺は上を見上げ石のでかさに感心しているとテレジアが下を指差し

 「下よ 下 裏側見てみなさい」


 俺は言われるまま石の裏側を見ると

 「あっ! 模様 指輪の模様じゃないか!」

 テレジアはニッコリして俺に近づき

 「あったでしょ! ……何か思い出さない?」


 (もちろん思い出せない!…そもそも『記憶喪失』じゃないのだから!)


 「うん 思い出せないが ありがとうテレジア!」

 「そっか……何か手掛かりになれば良かったんだけど…でも焦らないでね」

 「ああ サンキュー」

 「ここは あたしがはじめて『トヨスティーク』に来た時 町の様子を

 知りたくてウロウロしてたら行き着いたの 近所に住んでいた人がさっき話した

 事を あたしに教えてくれたのよ あたしもケイゴみたいに 上ばかりみてたん

 だけどね へへっ」


 場所を記しておこう。俺は腰のポーチからペンを出し、今いる場所に印をつけた。


 「この町は三年くらい前までは 今の半分くらいしかなかったのよ 

 セーブストーンが採れて人が集まるようになって拡張工事が外に外にと広がって

 今の大きさの町になったようね セーブストーンが採れればまだまだ 拡張して

 さらに大きな町になるのかもね」

 「へぇー……」

 その時、俺は指輪を嵌める左手を魔法陣のと重ねていた。

 

 ズズ…ズズズズッ

 

 重ねていた表面の部分が変形しだした……テレジアは気づいてない。変形は

 止まり数字の『13』に見えた。俺はこの場から立ち去るようにした。

 (数字の十三……なんだろ……もしかして帰れる日、三十日と関係あるのかも

 しれない……明日、またここに来て確認してみよう)


 「とりあえず『魔石』取りに行ってくるよ 俺」

 「……そう? 休みの日はあたしも行くから あっそれとこれ持って行って」

 テレジアはセーブストーン「ウォーター」と薬を二つよこした。


 「もしタファリに噛まれたら 二つとも必ず飲んで! 解毒薬と解熱剤だから」

 「おっ! 薬か テレジアありがとう!」

 「ううん ケイゴに死なれちゃったら 困るわ あたし」

 「……行ってくるよ」

 「うん! 気をつけてね」


 俺は昨日の惣菜屋に寄り、芋を買って『魔獣』の生息地へ向かった。

 

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