第26話 聞き耳

 俺は、鉱山都市『トヨスティーク』の中央広場を一回りしテレジアが働く酒場

『フェスタ』へ戻った。店に入るとテレジアはママに渡された制服に着替えて

 カウンターに座っていた、他の女の子も何人か出勤している。


 「ケイゴ おかえり!案外早かったわね」

 「ああ 中央広場を一周回ってきただけだからな…それより…凄い服だな」

 「そう? 今は何処もこんなもんじゃない?」

 テレジア達はミニスカートで女子学生の制服姿だった…

 (そういや、家の近所にもいたな……子ギャルってやつか……周りにいたせいか

 制服ミニは、そんなにドキドキしないな…『軍服ミニ』の方が破壊力抜群だ…)


 そんな事を考えてるとお客が二人入ってきた、どうやら知り合い同士らしい。

 テレジア達はすぐに席を立ち声をかけボックスに案内した。


 「ローズウッド カーキーをロックでくれないか」

 「はい ただいま」


 俺はカウンターで酒を飲み、聞こえてくる客の話に耳を立てる。ここで俺は気が

 ついた。テレジアが言っていた事に……

 (そうか!こういう事だったのか、何故、わざわざ稼げる『魔獣』狩りをせずに

 酒場で働くのか?酒が入れば客の口も滑らかになるもんだ、聞きたい事や知りたい

 事があれば言葉巧みに誘導すればいいだけ……なるほどな)

 テレジアの情報集めのからくりがわかった……だが、男の俺には無理な話だ。 


 「ハハハ そうなんだよ!余所者だからって馬鹿にするなってーの ハハハ」

 「ああ やる時はガツンとやっとかないとな! スッキリしたぜ」

 「確かに金が欲しくて遠くから来てるけど 盗みなんかやらねーよ!」

 「そういうこった  盗みなんかして捕まったら故郷に帰れねえよ…」


 姿格好、話の内容からして鉱山で働く出稼ぎ労働者のようだ、どうやら盗みの

 疑いをかけられたが潔白を証明したらしい。


 「まあ俺達は出稼ぎだからセーブストーンの採掘現場には回されないが地元で

 現場に入ってるやつらが 今日みたいな事があったら徹底して調べるらしいぜ」

 「ああ 軍のやつらの見回りも増えてたろ? あいつら 毎日監視だけして何も

 しねーしな 何様だよ」


 そんな話を聞いていると、また客が入ってきた。一人でカウンターで飲んでいる

 俺をチラッと見ると逆側の一番端に座り酒を注文する。

 「いつもの……」

 「はい ただいま」


 どうやら常連のようだ、ローズウッドは酒を作り客に出す。客は一気に酒を飲み

 干し、おかわりを頼む。その客は酒を楽しむ感じは無く酒で何かを忘れようとして

 いる飲み方に見えた。


 その後も客は出たり入ったり回転はしているが、店の椅子が全て埋まる事は

 なかった。時間にすると二十二時くらいだろう、ママが来た。

 ママは来るなりカウンターの中に入って売り上げを確認している。


 正面の客に気付いたママは

 「……飲みすぎだよ もう少し控えたらどうだい?」

 「……あ…ママか… ああ わかってる……今日は帰るよ」

 「…飲んでないで迎えに行きなよ あっちだって待ってるよ」

 「……」


 男は黙って金を払い店を出た。どうやら、嫁さんが数日前から実家に帰った

 らしい。元々は店で二~三杯飲んで帰っていたのが今では倍の量を飲むように

 なってしまったらしい。


 「ローズウッド テレジア呼んでおくれ」

 ママはカウンターに座りテレジアを待つ。呼ばれたテレジアがママのもとに来た。


 「どうだい?あの子達は」

 「まだ初日だからわかんないけど 問題無いわ 普通に接待してるけど?」

 「そうかい…仕事に戻っていいよ 代わりにジャニー呼んでおくれ」

 「うん わかった ケイゴまだいるでしょ?」

 「いや、そろそろ戻るわ」

 「そっか わかった 気をつけてね」

 そう言うとテレジアは仕事に戻って、代わりにジャニーが来た。ママと仕事の話を

 している。俺はローズウッドに金を払い宿に戻った。


 部屋に戻るとインストールした「フラッシュ」を使ってみた。


 「リベイション フラッシュ」


 部屋は明るくなり、魔法が使える実感を少しだけ味わった。俺はそのまま

「フラッシュ」を持ちシャワーを浴びに行った。


 ――何時の間にか俺はベッドで眠ってしまったようだ。テレジアの声で

 起こされた。外はまだ暗い……仕事が終わったのか?


 「ケイゴ… ケイゴ… 起きて」

 「どうした? テレジア仕事終わったのか?」

 俺はまだ頭がぼやけていた。ん?…あれ?鍵はかけ忘れていたのか……なんで

 テレジアが部屋にいるんだ?


 「ケイゴ なんで鍵閉めないで寝てるの? 危ないでしょ!」

 「…ああ すまん シャワー浴びて寝ちまった…」

 段々と頭が冴えてきた。


 「もう…気をつけてよ ねえケイゴ 明日は買い物に行きましょ」

 「ああ 着替えが欲しいな俺 それと武器」

 「武器? 何する気よ?また危ない事するんじゃないでしょうね!」

 「あっいや テレジアは夜仕事だろ? 俺も何かしないと食っていけないし当面

 の間は『魔獣』狩りを一人でやってるかなって」

 「……なるほどね じゃあ約束して! この間の生息地でしか狩りをしない事

 いいわね?」

 「ああ 約束するよ」

 「それと 魔法は絶対に他人には見せない事! いいわね?」

 「オッケー」

 「明日案内するから あたしも寝るから おやすみ」

 「ああ おやすみ」


 そう言ってテレジアは部屋に戻った。俺は鍵を閉めベッドに転がるがすぐに寝る

 事ができなかったが 結局、寝れた……

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