第25話 『フェスタ』


 俺とテレジアは全速力で店に向かった。テレジアが店を開けるとママが

『鬼の形相』で待ち構えていた。


 「遅い! 初日から何してんだい テレジア!」

 「ごめんなさい!ママ」


 テレジアは息を切らしママに謝った。

 「…すいません テレジアは俺の私用につき合って遅れたんです」

 「……そんな事はあたしに関係ないんだよ テレジアが何処で何をしようが

 それもあたしには関係ないのさ 関係あるのは遅刻した事実だけなんだよ」

 (まさに正論……これ以上返す言葉も無い)


 「テレジア…わかっているね? 仕事を甘くみちゃいけない事ぐらい」

 「……わかっている ごめんなさい」

 「ならいいんだよ 仕事の話にしよう システムはここと同じだよ 

 覚えているね?

 「ええ! 覚えているわ」

 「なら次にいこう まとめ役にジャニー行かしてるんだけど テレジアにはその

 サポートをして欲しいんだよ ここにいた子はジャニーとボーイのローズウッドが

 新店舗に行ってるから頼むよ」

 「わかったわ そうかあ ローズウッドも一緒なのね」

 テレジアは懐かしむように言葉を返す。


 「その他の子達は募集で来た 新しい子達なんだけどジャニーだけでは手に余し

 てるようなんだよ あの子も仕事は一生懸命だから応援してあげたいんだけど

 今のままじゃ自分の店出しても潰してしまうよ…」

 (テレジアを半分『教育係』で行かせるのか……なるほどね)


 「もちろん 店に利益をあげるのが最優先だが そこら辺をテレジアには任せ

 たいのさ いいかい?」

 「ええ あたしに出来る事は手伝うわ!」

 「よし それじゃこれもって行っておくれ 制服だよ 場所はラルーナ通りで

 店の名前は『フェスタ』だからね あたしも後で行くから頼んだよ!」

 「わかった! 『フェスタ』ね」

 するとママが俺を見て

 「…あんた良かったね……テレジアの制服姿が見れて……」 

 

 (この糞ババァ! 一々、言うなってーの!)

 ママはスラッとした体系で四十歳くらいだろう、化粧でだいぶ若くは見えるが…

 綺麗な事は確かだ。


 俺とテレジアは中央の広場を突っ切り、ラルーナ通りにある新店舗『フェスタ』

 を探した。このラルーナ通りも『アーミー』がある通りと同じで、酒場が並ぶ通り

 になっていた、どちらも怪しげな雰囲気満載だ。通りは女の子達が店の前に出て

 男達に声をかけていた。

 (何処の世界でも一緒なんだな……)


 「あったわ ここね」

 俺達は、ドアを開け入っていくと奥のほうから声が聞こえる。


 「くそっ! なんであたしが…くそっ! ああ……計算が合わないわ くそっ!」

 どうやら奥のボックスで収支計算の真っ最中らしい。テレジアはこっそり進み

 顔だけひょっこり出し、声をかけた。


 「ジャニー 元気そうね」

 「テレジア! テレジア! 何時帰ったのよ!」

 びっくりしたのかジャニーは泣き出した。テレジアは横に座りジャニーの頭を

 撫であやした。俺は話が聞こえないカウンターの端に座り待つ事にした。すると

 厨房からマスターだろうか痩せた男が出てきた。

 

 「あっ いらっしゃい まだ開けただけで何も準備出来てないんですよ…」

 「ああ 俺の事は構わなくていいよ 俺は連れだ」

 俺は奥のボックスの方向を指差した。男はカウンターから出て奥のボックスを

 覗き込んだ。

 

 「テ! テレジアさん! 何時戻ったんですか?」

 「ローズウッドも久し振りね 昨日着いたわ」

 「お元気そうで……会いたかったです…」

 (ローズウッド…ママが言ってた『アーミー』のボーイか、久し振りの対面は

 嬉しいだろうな……)


 「…グズッ ヒィッグ…テ…テレジアさんが居なくなって…ヒッグ…俺……」

 「ちょっと… ローズウッド泣かないでよ……」

 (ローズウッド……泣いちゃ駄目だろローズウッド!)


 泣き出したローズウッドを見てテレジアも少し困った顔をしている、ジャニーの

 方は落ち着いたようだが、まだ鼻の頭が赤くなっていた。


 「ローズウッド…あんたの気持ちはわかるけど…仕事に戻って…お店の準備して」

 「はい…あと テレジアさん あの方はお連れの方ですか?」

 「ええ ケイゴっていうの! あたしのパートナーよ!」

 「パートナー?」

 「冒険者仲間って事よ!」

 (またこいつは好き勝手言ってるな……まあ、せっかくの再開に水を差すのも

 野暮ってもんか……今回までは好きに言わせておこう)


 「そうでしたか! 冒険者パートナー安心しました 順調なんですね…

 夢に向かって前進してるんですね!」

 「ま…まあね…」

 テレジアはローズウッドの問いを少し濁した。

 「そうだ ローズウッド ケイゴに何か飲ませてあげて 『カーキー』の水割り

 でいいわ」

 「わかりました」


 ローズウッドはカウンターに戻り水割りを作り俺の前に挿し出すと小声で俺に

 「てめえ…テレジアさんに手出したらブチ殺してやるからな…」


 俺は耳を疑った……この痩せ男が凄んだのだ、俺はローズウッドに問い返した。

 「あ…あれ? 俺の聞き違いかな? プチ?ブチ?とかなんとか?」


 ニコニコしながらグラスの水を拭き取りながらローズウッドは俺に近寄り

 「ああ…聞き違いじゃねえよ 手出したらブチ殺してやる…」


 聞き違いでは無いようだ……ローズウッドは俺から離れニコニコとグラスを

 拭いている。どうやらローズウッドはテレジアに『ほ』の字らしい……しかし、

 この身の変わりよう…好きな人への愛情……いや、それ以上の…信者に近い

 ものを感じた。


 「あ…ああ 安心してくれ ローズウッド…そういう感情は俺に無いから…」

 「本当ですか? 安心しました! さあドンドン飲んで下さい!」

 (ローズウッドはご機嫌だ…疲れるわ…ここの人達)


 ローズウッドの事情を知ってか知らないでか、テレジアががたまにこちらの様子

 を伺っているのがわかる。

 (何か暇だな……町の様子を知っときたいし ちょっと見にいってみるかな…)


 「テレジアー 俺ちょっと町の様子見てみたいから 少し表に行ってくるわ」

 「どこいくのよ? ケイゴ 駄目よ一人で町に行くなんて」

 「子供じゃねえんだから…すぐ帰ってくるよ」

 「言った事 忘れちゃ駄目だからね! すぐ帰るのよ!」


 (言った事……恐らくそれは『魔法』の事だろう。どんな理由かは分からないが

 テレジアがあれほど言うくらいだ、人前で魔法を使うのは極力避けよう。)


 俺は『フェスタ』を出て町の中央広場に向かった。日はすっかり沈み至る所で

「フラッシュ」が焚かれだしてる。辺りを歩き、何処になんの店があるか覚える

 だけでもよかった。別に買い物をする訳でもない、何か欲しいものがあればきっと

 テレジアが安くて良い店を紹介してくれるのに違いない。


 (なんかあれだな……すっかりテレジアに依存してるのかな俺…)


 実際依存してたし、これからも依存しようと思っているのも事実だった。

 テレジアと出会わなければ自分で魔法が使える事なんてまだまだ先の話だった

 のかもしれない。一日で金貨十枚稼ぐなんてありえなかった。このままでいいのか

 少し考えてしまう……


 (そろそろ戻るか……テレジアが心配するだろうし…)

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