第24話 割り札とスキル札


 どうやら時間には間に合いそうだ……俺達とテレジアは町に着くと中心地にある

『トヨスティーク冒険者組合』へ真っ直ぐ向かった。俺が持っているテレジアの

 カバンの中には、取れたてホヤホヤの、B級ランク『魔獣』タファリの『魔石』が

 ゴロゴロ入っているのだ。


 俺達は『魔石』の換金の為、組合のドアを開いた。二百人はいるだろか……

 『カナル冒険者組合』で見た光景とは比べ物にならなかった。装備もカナルに

 いた冒険者達と基本、変わらないがテレジアが購入したストーンホルダーをしてい

 る冒険者が、かなりいる。俺達は時間も無かったのでカウンターで換金の手続きを

 行う。


 テレジアが組合員に換金依頼をする。

 「すいませーん 一般で『魔石』換金おねがいします」

 「はい 少々お待ちを」

 

 組合員は用紙とペンを持ち

 「こちらに代表者のお名前と『魔石』の入手場所を記入して下さい 日付も

 お願いします」


 テレジアは言われたところに必要事項を書いていると、後ろで様子を伺っていた

 冒険者達がテレジアをからかいだした。


 「おっ お姉ちゃん 一般で『魔石』とは たいしたもんだ!」

 「ああ C級ランクを二~三個持ってきたのかな? ハハハ」

 「まあ C級でも ちょっとした お小遣い程度にはなるからな」

 「そうそう 俺達みたくパーティーでB級ランク狙わないと稼ぎにならねーしな」


 俺はテレジアの耳元で

 「テレジア……なんか俺 デジャブってやつなのかな?…転がした冒険者二人を

 思い出したんだが」

 「ケイゴ いいから相手にしちゃ駄目よ」

 (まあ わざわざ騒ぎは起こしたくないし換金して『割り札』と『スキル札』だけ

 買って早く出よう)


 「はい! 書いたわ」

 「では換金しますので『魔石』をお預かりいたします」


 俺はカバンをカウンターに上げ、中の青い『魔石』を全て出し組合員に手渡した。

 組合員はその数をみて思わず声にした。

 「こんなに……しかも全てB級ランクですね……しょ 少々お待ちを」

 受付の組合員は組合員室へ袋を取りに行った。そして、後ろにいた冒険者達は

 黙りこくり、テレジアが振り返ると下を向いた。


 「こちらが換金した 金貨二十二枚と領収書になります」

 カウンターで受け取った金貨を半分テレジアは俺によこして、こう言った。

 「半分づつね!」

 「ああ もちろんだ!」

 俺達はお互いの顔を見てニヤけた顔になっていた。


 「すいません 『割り札』もお願いできますか? あ ケイゴ 

 お金は払ってね へへっ」

 「ああ もちろん払うよ」

 「金貨三枚になります」


 俺は金貨を払い『割り札』を受け取った。

 (これが『割り札』か……ただの紙切れだな)


 「ケイゴ ちょっとこっちに来て」

 「なんだよ? これ千切ればいいんだろ?」

 「ここじゃ駄目よ 組合員、冒険者がいないところで千切って!」

 テレジアは小声でそう言った。

 「ここで千切るって事は 周りの皆にケイゴが魔法レベルいくつって

 分かっちゃうのよ もしもの時の為に誰もいないところで千切るのよ んー 一度

 組合から出て宿に戻るわよ!」


 俺はテレジアに言われたとおり宿で千切る事にした。テレジアは部屋の中まで

 ついて来た。


 「もういいのか?それに『もしもの時』って なんなんだよ…」

 「それはもういいから 千切っちゃいなさい!」


 ビリッ! ブワァッ!

 『割り札』を千切ると同時に黒い炎が天井近くまで燃え上がり『割り札』は消滅

 した。それを見ていたテレジアは口を開け呆然としている。


 「なんだ黒って? おかしくないか?この『割り札』…おい テレジア?」

 「……はっ! なんなのよ黒い炎って……あたしは知らないわ……」

 「そうだろ?苦情言いにいこうぜ!組合に」

 「駄目よ!絶対に言っちゃ駄目 ケイゴいい? この事は絶対に他の人に

 言っちゃ駄目だからね!」

 「あ……ああ わかった……って事はやっぱ俺は魔法使えないんじゃね?」

 「たぶん…そんなこと無いわ 青札をインストールしてみて それから他人に

 魔法を使っているところは絶対見られないようにね レベルを聞かれたら青だって

 答えなさい いいわね?」

 「……ああ わかったよ」

 (なんか不に落ちないが、テレジアが言うんだからそうしとくか)


 「じゃあもう一度 組合行って青の『スキル札』買ってくるか」

 「あたしはシャワー浴びて店に行く用意するから 一人で行けるわよね?」

 「ああ 道は覚えてる じゃあ行って来るわ」

 「途中で千切ったら駄目だからね! 必ずここで千切るのよ」

 「ああ わかったよ」


 俺は一人で組合に戻るとカウンターで『スキル札』を頼んだ。


 「すいません 青の『スキル札』売って下さい」

 「はい そこに名前書いて下さい 金貨二枚になります」

 俺は金貨二枚と名前を書いた用紙を渡した。


 「はい 領収書と青札です ありがとうございました」

 受け取った領収書と青札をジーパンの後ろポッケに入れ宿屋に戻ろうと組合を

 出ようとした時、冒険者達が身に着ける武器が目に止まった。

 (武器か……今日からテレジアは店で仕事だし、毎日引っ張りまわす訳にも

 いかないしな……考えておくかな)


 そんな事を考え組合を出ると、表で『魔石』の換金をしに来たテレジアに

 からんでた冒険者四人組が待ち構えていた。

 「やあ 兄さん! さっきは彼女にからんで悪かった」

 「すまなかったな 兄さん」

 「……俺に謝らないでいいぜ? 何か用事?」

 「いや そう身構えるなって ただ悪かったなって 俺達は素直に言ってるだけ

 なんだから」

 「……いや、べつにいいよ もう…用事が無いなら帰りたいんだけど?

 「待ってくれ 用事って訳じゃないんだけど ちょっと相談があるんだよ 

『取り引き』って言ったほうが早いかな」

 「『取り引き』?」

 「ああ! そうだ『取り引き』だ 兄さん達 何かして大量に『魔獣』を討伐

 したんだろ?それを教えてくれって訳さ!」

 「……ああ?」

 (あれはテレジアが考案したものだ、それが例え『盗み聞き』したものでもだ!

 しかし、ぶっちゃけると経験積んでれば出てくる発想なんだよな…あの作戦は)


 「熱くなるなって 兄さん! さっきも言ったろ? これは『取り引き』だ

 タダで教えてくれなんて一言もいっちゃいねーし まして揉めるつもりも一切

 ないんだよ 金貨四枚だ! それで教えてくれないか? 悪い話じゃないだろ?」

 「金貨四枚?」

 「そうだ! 悪くねえ金額だろ どうだい?」

 (確かにネタを明かせば 『へ?たったそれだけの事なのか?』となるだろう。

 だが、こいつらは金貨四枚で、一回のトレインで金貨十枚はくだらない稼ぎ方を

 知ろうとしてる……自分達では少しも考えずに)


 「……金貨四枚か…金貨四百枚でも教えねーよ」

 「……てめえ…糞餓鬼があああ! なめやがって こっち来い!」

 (ほーらな……本性が出やがった 鼻っから断れば四人でフクロにするって事ね)


 「……いいぜ」

 「着いて来い! ギッチリ締めてやる! その後でゆっくり教えてもらうぜ」

 そう言って冒険者は、俺の前を四人で裏路地に入っていく。


 「おらあ! とっとと着いてきやがれ!」

 (まったく……人ってどうして群れるとあんなに粋がっちまうんだろう)


 俺はやつらの視界から見えなくなった瞬間、逆方向へ走りトンズラを決め込んだ。

 (いつまでも付き合ってられるか! 格好悪いが面倒臭せえ事に巻き込まれたく

 ないんでな…)


 「あっ ちくしょう!逃げられた」

 「くそー! 今度会ったらタダじゃおかねえからな!」

 (はいはい……)


 俺は宿屋に戻って部屋に入ると

 「ケイゴ! あんた いつまでかかってるの!」

 テレジアが待ち伏せてた。


 「あっいや…組合でお前に絡んできた 冒険者四人に俺も絡まれて酷い目に

 合いそうになってな 遅れたのは あいつらが悪い!」

 「本当に?」

 「本当だよ テレジアに俺が嘘なんて言う訳ないだろ?」

 「そっ そう?」

 (だから赤くなるなって……)

 「ああ……俺は嘘なんか言わないぜ テレジア!」

 俺はキリッとした目でテレジアを見た。テレジアは目を逸らしモジモジして

 「…そんなに言うなら今回は許してあげる……」

 (あんたは何モジモジしてんの……)


 俺はやつらとの話をテレジアに教えた。テレジアはさっきとは別の赤い顔をして

 「あいつら…一度痛い目にあわせないと駄目みたいね! ケイゴ! 今度あいつ

 らが絡んできたらやっちゃいましょう! 二度と近づかないようにしないとね」

 (やっちゃいましょう? 『やっちゃって』の間違いだろう?)


 「まあ いいわ 札を千切って」

 「ああ 千切るぞ」


 ビリッ ポワッ

 千切った青札は、青い炎を申し訳ない程度にあげると消滅した。

  

 「ケイゴ このセーブストーンに『フラッシュ』をインストールしてみて」

 「ああ いいのかこれ? テレジアのだろ」

 「まだ予備はあるからいいわ やってみて やり方は知ってる?」

 「ああ『カナル』で見てる じゃあ やるぞ」


 俺は手のひらをセーブストーンに翳しインストールを称えた。

 「インストール フラッシュ」

 俺の手のひらから魔法陣が浮かび上がりインストールは一瞬で終わってしまった。

 驚いたのは黒い魔法陣で皆とは形が違ったのだ。


 「……なんかおかしくね? 魔法陣の形が違うし色も黒かったが」

 「……おかしくないわ……思ったとおりよ やっぱり他人の前で魔法は使っちゃ

 駄目よ いいわね?」

 「……ああ」

 テレジアは少し黙っていた。何か知っているのだろうが、言わないって事は多少

 危険なことが絡んでいるのかもしれない。勝手な想像でしかないのだが。


 「はっ! やばい遅刻! 行くわよ ケイゴ!」

 「えっ? なんで俺が一緒に行くんだよ?」

 「当たり前でしょ! あなたはあたしのボディーガードなんだからね!」

 「ボディーガードって……誰かに狙われてるのかよ…」

 「あたしって出来る女だから!」

 (どこのキャリアウーマンだよ……)


 俺達は急いで『アーミー』に向かった。

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