第28話 ソロ狩り

 俺は『魔獣』タファリの生息地に着いた。今日から俺はソロ狩りで『魔獣』と

 相対するのだがタファリは毒を持つという。ソロ狩りを心配したテレジアから

 解毒薬と、噛まれた際に発する熱を鎮める解熱剤を受け取っていた。

 (動きは然程、気にはならないが慎重にいくとするか)

 

 おかしい……昨日の場所にタファリが一匹もおらず耳を澄ませても葉の音一つ

 しないのだ。もしかして、他の『魔獣』狩りに根こそぎやられたのか?


 不思議に思った俺は一度、山道に出て狩りの形跡が残っているか辺りを見渡した。

 すると奥から冒険者二人が出てきた。


 「おや? 兄さんも『魔獣』狩り?」

 「ここは 狩られちまったようだぜ まるっきりいないよ」


 話を聞くと『魔獣』は一度狩られると、しばらく付近には出現しなくなり一ケ月

 もすると元居た場所に戻ってくるという。

 (ということは……昨日狩ったおかげで、この辺では『魔獣』狩りが出来ないっ

 て事なのか?……)

 

 「まあ 少し歩いて奥に行けばいるだろうけど 良かったら兄さんも行くかい?」

 「いや、俺はソロであんた達とは別の場所で狩ってみるよ」

 「そうかい 気をつけてな じゃあな!」

 そう言って冒険者二人組はコビ村方面へ続く山道を歩きはじめた。


 (さて、俺はどうするかな……ここまで来て手ぶらで帰るのはありえんし、下に

 降りてみるかな)


 昨日、タファリを最後に連れてきた場所の西手側、下には川が流れ滑らかだが崖

 になっている。それほどの勾配はないので、ロープ無しでも戻れる崖だ。

 俺は崖を下って川まで行く事に決めた。

 (ついてだ、川で昼飯にしよう)


 早速、崖を降りていく。万が一の為、片足で足場を確認してから両足で着地する

 慎重さだ。その繰り返しで地面まであと十メートルくらか、大きな足場に着いた俺

 の後ろから冷たい風が吹いた。何かと思い横を見てみると人が二人くらい通れる幅

 で入り口は、やや低く一メートルくらいしかない横穴を発見した。


 (おっ!何かやばそうな横穴だが、川に行く前に探索してみるか……)


 俺は横穴を覗き込んでみたが、手前だけしか日の光りが届かず奥の様子が

 見えない。

 (ここなら誰にも見られず魔法が使えるな)


 念のため、周囲を確認してから持ってきといた空の『フラッシュ』をポーチから

 取り出しインストールを開始した。

 

「インストール フラッシュ」

 即インストールは完了した。何故か、自分のインストール時間がやたら短く

 感じた、ギルベルトがインストールしてた時は結構な時間がかかっていた記憶が

 あるのだ。

 (あれか?魔法レベルやマナが多いせいなのかな……実際インストールしたのは

 青札の魔法レベル3だしな)


 「リベイション フラッシュ」

 『フラッシュ』を解放すると光りが皓々と穴の中を照らしはじめた。入り口から

 少し入ると中の空洞部分は立って歩けそうだ、俺は奥に進んだ。

 中は、ひんやりとして少し寒いくらいだ、突き当りまで行くと岩の壁に塞がれた

 壁づたいに移動していくと奥にも空間があるようだ。『フラッシュ』を当ててみる

 と、そこには『魔獣』の群れが蠢いていた。

 (あれはやばい……昨日よりいるぞ! 上に居た『魔獣』タファリがみんなここ

 に降りてきたって事か……どうする?鉄パイプでやるか? いや!ここじゃ壁が

 邪魔で思うように振り回せないかもしれない……どうする……)


 少し下がり『魔獣』から見えない場所に移動して考えた。

 (実際、魔法は使えるようになっているだろうが実践で、生の魔法を発動した事

 が無い……少し不安だ。ギルベルトの「ファイア」を出すところは見た事あるので

 要領は分かっている。何を使うのがいい?ボムで爆発させるか?しかし、どれだけ

 の威力なんだろう場所が場所だけにボムは駄目だ、じゃあ「ファイア」で焼くか!

 俺の腕で全てを焼く事が出来るのだろうか……そうだ!『ウォーター』で昨日と

 同じ要領でいいか 向こうの部屋から出てきたタファリを水辺に誘い込んだところ

 で「サンダー」を撃ち込めばやれる! そうと決まれば『ウォーター』でこの辺を

 水浸しにして「サンダー」を撃つ場所は出口の手前だな)


 俺は『ウォーター』を離れた場所で解放し向こうの出入り口に放り込んだ。

 水が溜まるまでの間、『フラッシュ』を出口付近の高い場所に置き直し水溜りを

 照らすように調整した。


 (よし! 行くぞ)


 俺はちょっと緊張しているのが自分でも分かる。向こうの出入り口に着き覗き

 込むとタファリが蠢いている。まだ、こちらに気付いてない、俺は覚悟を決め


 「ファイア」!

 ゴォォォォオオオオッ!

 まるで火炎放射器のようにタファリを焼いた!すでに半分ほど消滅した。残りの

 タファリが俺に気付くと一斉に襲い掛かってくる! 

 俺は出口付近に走り『サンダー』の準備をする!頭の中で「サンダー」……

「サンダー」と称えタイミングを見計らっていた。すると、口にして呪文を称えて

 ないのに「サンダー」が発動してしまった……


 ビカッ!バリバリバリリリリッ!

 辺り一面、光りで真っ白になりタファリは黒焦げになっていた。

 (なんで発動したんだ……)


 あまりにも不思議な現象に驚きと危険を感じた。

 (今のが偶然ならまだ良いが、俺が頭で考えただけで魔法が使えるとなると……

 いや、もしかしたら考えたつもりが口に出して称えてしまったのかも……)


 確かに自分で分かるほど緊張はしていたのだからありえる話だ。『魔石』を

 拾った後にでもテストすれば分かる。今は『魔石』を集めて表に出よう。

 水辺付近には、青い『魔石』が十数個落ちていた、全て拾い集め買ったばかり

 ショルダーポーチへ放り込み一番奥の空洞へ進む。


 その時、撃ち漏らした一匹であろうタファリが飛びかかって来た。俺は落ち着い

 てタファリの尾を掴み壁に叩きつけた。一匹なら余裕だ、動きは見てわかるし

 掴んだ瞬間に壁に叩きつけるのだから、反撃する時間さえ与えなければ問題ない。

 『魔石』を落としタファリは消滅した。少し慎重に奥の『魔石』を拾い集める。


 (ここまできて油断して、撃ち漏らしに噛まれたら洒落にならんからな……)


 俺は全ての『魔石』を回収した。全部で三十六個!大収穫だ!

 (これで宿代も追加で払い『トヨスティーク』に滞在できるな……でも、これ 

 こんなに狩りしたら今度は何時出現するのだろう……)


 使った『フラッシュ』と『ウォーター』を回収して横穴から出た俺は、先ほどの

 現象を確認するため空洞の奥に向かって頭の中でまだ使っていなかった「アイス」

 を称えた。


 ……

 カキンッコキンッ!

 奥が、あっという間に氷付けになってしまった……

 (どしよう……これ……帰ってテレジアに相談しないと……)

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