第19話 テレジア


 『トヨスティーク』に付くまでテレジアは、俺の横に座り質問攻めをする。

 

 「ねえ ケイゴ 『トヨスティーク』には何をしに行くの?」

 「んー 目的地が『トヨスティーク』って訳でもないが とりあえず行って

 みようかなって」

 「ふうーん なんか変なの 目的が無くてうろうろするの?」


 (大きなお世話だっつーの!)

 「ねえ 冒険者ってどう思う?」

 「いいんじゃねーか? なりたいやつは なればいいと俺は思うよ」

 「ケイゴはどうなの? 冒険者に興味無いの?」

 「それほど興味は無いな」

 

 「お前は 冒険者に興味あるの?」

 「『お前』じゃなくテレジアよ! テレジア! そうねえ あたしの事は 食事

 でもしながらゆっくり話すわ それよりさっきから気になってるんだけど 

 その指輪 どっかで見たのよね……そのデザインと同じ模様を…」

 「なに? この指輪の模様を何処で見たんだ?」

 「どこだったかしら……えーと 『トヨスティーク』で見たのは間違いないん

 だけど……何処だったかしら」

 「まあ 何処にでもあるようなデザインだしな…ハハハ 思い出したら

 教えてくれよな ハハ…」

 「うん そうねえ 一緒にご飯でも食べたら思い出せそう」


 テレジアは飯を一緒に食うつもりだ。おごらせるつもりなのか?いや、飯を

 食わせて思い出すなら、とことん食わせてやろう!ただ、俺にとって価値がある

 事を知られたくは無かった。ますます質問攻めにあうだろう。俺は少し安心した。

『トヨスティーク』に向かったのはまったくの「ハズレ」では無かったのだから。


 「ちょっと手が傷ついてるわ さっきのね 今薬塗ってあげるわ」

 テレジアは自分のリュックに行き中から薬を取り出し戻ってきた。塗り薬は瓶に

 詰められ、蓋は布をかぶせ紐で縛られていた。


 「はい これでいいわ 凄く効くわよ 右手もみせて」

 テレジアは右手にも薬を塗ってくれた。右手のほうが傷は酷かった。


 「……いつもあんな感じなの?」

 「……いや ……人を殴ったのは久し振りだよ…ほんと……ん?」


 (ああああ! 『記憶喪失』だったんだ俺!)


 「ん? どうしたの?」

 「いや……殴ったのはさっきのが……はじめてなんじゃないかな? うん」

 「はあ? 何を言ってるの? あれが はじめて殴ったって……」

 「たぶん そうなんだと思うんだわ……ハハハ」

 「何を言ってるか良くわかんないんだけど あれは相当喧嘩慣れしてるわ 

 あたしでもわかるわよ!」


 俺は、とりあえず黙ってシカトすることにした。


 「ちょっと答えなさいよ!」

 「何だよ うるせーな!」

 「ちょっと何よその言い方! あやまんなさいよ!」

 「はあ? 誰に何をあやまるんだよ?」

  

 (でも、ここであんまり怒らせるのは得策じゃないな とりあえずは指輪と同じ

 デザインをした模様の情報を聞きださないと……)


 「もう……わかったわかった 俺が悪かったよ すまん」

 「よろしい!」

 テレジアはニコニコしてそう言った。その後もテレジアは俺の横でペチャクチャ

 しゃべりっぱなしで時折、質問をするが俺は適当に交わしてやり過ごしていた。


 町の明かりが見えてきた。外は、すっかり日が沈み幌の中には誰のものか

 分からない「フラッシュ」が焚かれていた。俺は冒険者達を思い出し御者の後ろ

 まで移動し話しかけた。


 「なあなあ おじさん あいつらどうする?」

 「あっ お客さん! …どうしましょうか?」

 「町も近いし捨てちゃうか?」

 「そうしましょ!足は動けるでしょうから 気がつけば自分達で医者のところに

 行くでしょう 本当に性質の悪い連中でしたね!」


 御者はそう言うと馬車を道の端に寄せた。俺は転がっている二人を荷台から

 落とした。その時、ガッシリした男が気がついた。


 「イテテ!……くぅー ちくしょう痛えよう……」


 俺は荷台の上から

 「もう一人も横でノビてるから医者に連れて行ってやれ」

 「あ……ああ」


 ガッシリした男はブルブルして答えた。すっかり大人しくなっている。御者は

 冒険者二人を俺が降ろしたのを確認すると、馬車を再び走らせた。


 しばらくすると町の外門まで来た、ここが終点だ。


 「お客さん方ー 着きましたよ! 『トヨスティーク』です ご利用ありがとう

 ございました!」


 御者は馬車を降り、手綱を置き場に括り付けると乗客の降り口に小さな

 木の階段を設置した。乗客達は次から次に階段を降りて行く。俺も階段を降りると

 乗客達は俺を待っていたのか皆が俺に頭を下げた。


 「ありがとう」

 「また何処かで!」


 俺は少し照れながら下を向き、右手のひらを乗客に向けた。頭を下げ終わった

 乗客達は町の中に消えていった。

 

 「さあ あたし達も行きましょう!」

 リュックを背負ったテレジアが俺の肩をポンと叩く。

 「ああ 行ってみるか」


 俺達は、夜の鉱山都市『トヨスティーク』へ足を踏み入れた。

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