トヨスティークの章

第20話 トヨスティーク


 俺とテレジアは、乗り合い馬車を降りると外門から町の中に入った。町の中から

 は飯の、いい匂いが漂ってくる。中心に近づくほど人の会話や音楽がより強く

 聞こえ『フラッシュ』を焚かれた店の看板は、辺りを照らし賑わっていた。

 『おのぼりさん』のように周りを見渡す俺をみて、テレジアはクスクス隣で笑う。

 飯屋の看板を見つけた俺は、提示されている値段をみた。

 (カナルより少し高いのかな? )


 細かい事だが現在『無職』の俺にはとても大事な事。一日でも早く町の情報が

 欲しいのが本音だ。キョロキョロ店を見る俺にテレジアが言った。


 「ケイゴはしばらく ここにいる予定なんでしょ?」

 「そうだな……まずは安い『宿』と『仕事』を見つけられるかが問題だ……」

 「宿なら 銀貨四枚でシャワーつきのところがあるわ あたしはそこにする

 つもりよ 良かったら ケイゴもこない?」

 「この町で銀貨四枚でシャワー付きならいいんじゃないか? 俺もそこにするよ」

 「それじゃ『善は急げ』ね! 行きましょ 食事はそれから!」


 俺はテレジアの後ろをついて行った。町の中心地から少し外れた路地裏にある

 ちよっとだけ見栄えが良くない宿についた。テレジアはドアを開け中に入った。

 俺も後からついて行く。


 「おばちゃん! いるー? あたし テレジアよ!」


 カウンターで大きな声をあげるテレジア。カウンターの奥のドアからそのまんま

 、おばちゃんが出てきた。


 「おや? テレジアかい? なんだい!久し振りだねえ! 半年振りかい?」

 「うん それくらいになるね あたしは変わらないけど おばちゃんも全然

 変わらないね!」

 「テレジアは相変わらず元気だねえ なんだい? 泊まるのかい?」

 「うん またしばらく泊めてもらおうかなって」

 「どれくらい居るんだい?」

 「とりあえず一ヶ月くらいかな」

 「ああ いいよ 前と同じでいいんだろ?」

 「うん ありがとう おばちゃん!」


 どうやらテレジアは、この宿屋を以前使っていたようだ。おばちゃんと呼んで

 いたのは女将だろうか?元気でテレジアと気が合いそうなのが一目で分かる。


 「それとね おばちゃん 今回はもう一人お願いしたいの!」

 「誰だい? そこに立ってる男の人かい?」

 「そう! ケイゴっていうのよ ケイゴ おばちゃんに挨拶しなさいよ」

 「どうも…」

 「へえ……テレジアが男連れねえ やるわねテレジア!」

 「そっ そんなんじゃないわよ! ケイゴは馬車で知り合った人よ!」


 テレジアは顔を赤くして言い訳をする。こっちが恥ずかしくなるわ……


 「いいよ 部屋はテレジアの横使っておくれ 一日銀貨四枚だよ」

 「ああ…それと 俺もとりあえず十日くらい泊めて欲しいんだけど」

 「十日? 何よそれ? 十日で出て行く気?」

 「いや……町に着いたばかりだしな おばちゃん先に払っとくよ 十日分」

 「 あとでもいいんだよ? お代は」

 「いいよ 先に払っておく」


 俺は金貨四枚をおばちゃんに渡した。


 「はいよ 十日分 確かに」


 おばちゃんは十日分の支払い済みの紙と鍵をよこした。


 「荷物置いて ご飯にしよう! 待ってて」

 テレジアは自分の荷物を部屋に置き戻ってきた。


 「行きましょ! おいしくて安い店 知ってるから!」

 

 こうして俺は『宿』が決まりテレジアと飯に行く事にした。

 (十日のうちに仕事見つけてなんとかしないとな……出来れば、その日のうちに

 金が入る仕事がいいだろうな例えば……『魔石』取りとか…だけどあれって一般人

 でも換金してくれるのかな?冒険者登録しないといけないんじゃ保証人欲しくなる

 だろうし…めんどいな 後でテレジアに聞くか)


 「着いたわ ここよ! 入るわよ」


 カランカラン

 店のドアを開けるとトマトのような?ケチャップか? 酸味の効いた匂いがした。

 テレジアは中に入ると丸テーブルの席につき注文を頼んだ。


 「おじさん 久し振りー トマトソースで二つね 一つは大盛で」

 「あれ? テレジアか!久し振りだなー 何時戻ったんだい?」

 「さっきよ! また一ケ月くらい居る予定なの」

 「そうかい また会えて うれしいよ」


 おじさん=シェフは、テレジアに微笑みカウンターの奥にある厨房へ

 入っていった。


 「あたしね 『トヨスティーク』に一年近くいたのよ」

 「そうだったのか? 早く言えよ……」


 (どうりで色々知っているはずだな)


 「あたしさ 冒険者になりたいのよ だから色んな町にも行って情報集めしてた」

 「情報集めか…それは中々出来ることじゃないな ちょっとだけ感心したぞ」

 「本当? なんならもっと褒めていいのよ!」

 

 (なんか……こいつの事 わかってきたわ……)

 

 「……どうして冒険者になりたいんだ?」

 「冒険者でもあたしがなりたいのは『トレジャーハンター』なの」

 「『トレジャーハンター』?」

 「知らない? 未開の土地で 新種の生物や植物の発見や遺跡に眠る財宝……

 素敵よね…」

 「……う うん 確かに素敵だよな」

 「ねっ! そうでしょ! ケイゴもそう思うでしょ?」

 「……うんうん」

 「で あたし考えたのよ… 」


 「はい おまちー! 大盛はお兄さんのほうかな? どうぞごゆっくりー」

 「きたわ! 食べましょ ケイゴ大盛でね あたしのおごりだから安心して」


 (どうやらテレジアは何かを考えたらしいが悪い予感しかしないな……とりあえず

 飯食うか)


 俺の方は大盛のパスタだった。ここはパスタの専門店、良く見ればカウンターに

 メニューの張り紙があるではないか。

「『トマトスープ 魚貝スープ 野菜スープ』」

 どうやらパスタでもスープパスタの専門店らしい。中々美味い。


 「どう? おいしいでしょ! 値段の割りに量もあるから この町に居るときは

 一日に一回来てたわ!」

 「美味いな」

 「フフン!またまだ美味しいところあるから すぐ連れて行ってあげるわ」

 「で……あたしは何を考えたんだ?」

 「あっ! そうよ あたし考えたのよ! 冒険者には何時でもなれるけど 

 あたしには足りないものがあるって気づいたの…」

 「……テレジアには何が足りなかったんだ?」

 「あたしには『腕力』が足りないのよ! 腕力があるパートナーを あたしは

 情報を集めると同時に…自分と馬が合うパートナーを探したのよ!」

 「……」


 (俺の予想は的中しそうだ……)


 「で……その自分に合ったパートナーは見つかったのか?……」

 「見つけたわ……それも偶然 馬車でね…まさに『馬の合った』パートナーよ!」

 「……そっ そりゃよかった……さぞ テレジアに誘われた『パートナー』も

 喜んでいるんじゃないかな?…」

 「それが まだ話してないのよ… でも今から言うわ! ケイゴ! あたしの

 パートナーになって!」

 「……」

 「ねえ!ちょっと聞いてる? ケイゴ! ねえったら!」


 (俺の予想は的中…駄目だ…こんなうるさいやつと毎日いたらおかしくなる……)


 「馬車でも言ったが  冒険者に多少は興味あるけど俺はならないって……」

 「何か理由があるの?」

 「……あれだ 二~三日考えさせてくれ……」


 (何日かしたら諦めるか、忘れるだろう…)


 「そうね! 急にこんな話して驚かしちゃったわね うん 二~三日待つわ!」


 (……なんか 逃げられないような気がしてきた…)


 「…と ところで話は変わるんだが『魔石』って知っているよな?」

 「もちろん知ってるわ! 『魔獣退治』に興味あるの?」


 (目がギラギラしてるな……お前は『魔獣』か!)


 「いや…結果的には『魔獣』を倒して『魔石』を取れる事は知っているんだが

 あれって 冒険者登録しないと換金してくれないのか?」

 「ええ!そうよ! って言いたいところだけど違うわ 悲しい事に一般人でも

『魔石』の換金はしてくれるの…しかも冒険者と同じ額でね」

 「……そうか 登録しなくても換金オッケーか この辺で『魔獣』いないか?」

 「……教えない」

 「おいおい そんな事言うなよ」


 テレジアは、そっぽを向いて『魔獣』の生息地を教えてくれなかった。『魔獣

 退治』で俺が飯を食っていくとテレジアにとって都合が悪くなるからだろう。

 それなら明日から自分で情報を収集していくまでだ。

 

 「ねえ…『魔獣』の話はいいから 少し飲みにでも行かない?」

 「酒場? 高くないのか? 俺そんなに持ってないぞ?」

 「大丈夫よ! 知ってる店だから ねっ? 行こう!」


 (『異世界』きて、まだ一度も酒飲んでなかったな……少しだけどんな物なのか

 飲んでみるか)


 俺はテレジアの知り合いの店へ行く事にした。この世界の酒はどんなだろう…

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