第2話 契約


 「まあ、そんな感じか…」

 長島さんが少し顔を渋くしながら返事する。

 

 「ここまでの話で質問はあるか?」

 「例えば、仏像みたいなでかいものに模様がついてた場合どうしたらいい?」

 「それは報告だけで良い 報酬の半分を渡そう」

 「報酬? 給料じゃないのか?」


 「ああ、先に報酬の話をするか 模様がついた物をこちらへ持ち込んだ 成功

 報酬はどんなものでも一律五百万だ」

 「えええっ!ご、五百万?」

 「そうだが? さっきの例え話の報告だけでも報酬は二百五十万だ」


 (マジかよ、おい……)


 「契約は普通一年単位だが お前は特別に半年からの契約にしてやっても

 かまわん それと必要なら支度金として百万までならすぐ用立てる事ができるぞ」


 「なあ長島さん…… なんかヤバい仕事なんじゃないのか?」

 「なに? ヤバい? 法に触れるような事はないわ ガハハハ なんせ行って

 もらう土地は日本でもなけりゃ現代でもないんだからなガハハハ 俗に言う

『異世界』ちゅうところだからな その辺は気にするな」


 (ああああああ! これ駄目なやつじゃん! 深夜アニメのやつじゃん!)


 「待った! ちょっと待った! ドラゴンとかモンスターがウヨウヨいて

 半強制的に魔王と戦わなきゃいけないってやつなのか?」

 

「何をオタオタしてるんだ圭吾 わしも行った事あるところだ 二十年前くらい前

 にな ちょっとした魔獣はおったが、空気がウマくいいところだったぞ ガハハハ

 (報告では、かなり増えてるらしいが……) 

 それに 無理をして戦わなくてもいいんだぞ? あくまでも目的は さっき話した

 模様のある物をこちら側に持ち込むことだからな 魔王なんて聞いた事もないわ 

 ビビりすぎだぞ 圭吾 ガハハハ 」


 「何だ…少しだけ安心したわ でも なるほどな 高額報酬の訳がわかったよ 

 実際問題 転んで頭打って死ぬ時は死ぬんだし 半年か……半年で二つも探し

 持ち帰ったら今の俺じゃ到底稼げない金額だ…やるだけやってみるか!

 やってやるぜ!」


 「そうか 決めたのなら早速契約だな よく読んで名前を書き込み判子を

 押してくれ あ 拇印でかまわん」


 契約書が二枚出された、内容は『業務委託契約書』のようだ。まあ、当たり前の

 契約内容が書いてある。お互いの不利益にならないようにや、事業内容の漏洩厳禁

 など。報酬金額も書き込まれている。さっきの説明通りだ、問題ない。契約破棄の

 申告は三ヶ月前か 了解。

 他はっと… 三十日に一回、帰宅できるようだな。滞在はこっちに最大七日か

 ん……七日過ぎると消滅。ん? 何だ消滅って? まあ契約さえ守れば良いって

 事だろうから問題ないな オッケー。

 

「なあ圭吾 知らない土地に行ったら まずは『情報』だ とくかく上手く

 立ち回るには情報が全てだ いいな? 甘くみてたら痛い目に合うのが落ちだぞ」

 そう言いながらペンと朱肉を差し出した。


 「うん わかったよ 情報だな」

 そう言いながら契約書二枚に名前を書き朱肉を押した。最後に二枚を重ねずらし、

 割り印をしてから長島さんへ返した。


 「うむ 契約完了だな お前 契約書 書き慣れてるな ガハハハ そうじゃ

 あっちに行くにあたって わしから少しだけ力を貸そう」


 そう言うと、引き出しの中をゴソゴソ掻き混ぜてる。何を探してるのか?

 

 「おっ あった これだこれ!」

 銀色をした古い指輪を俺に放り投げた。


 「これは?」

 よく見ると、花びらみたいなデザインが装飾されている。


 「いいか?その指輪を絶対に外すな! その指輪は、お前の助けになるからな 

 それは わしが以前あっちに行った時 最後に立ち寄った町に転送される

 アイテムだ 各村や町 人目につかない森や建物の裏といった場所に 指輪と同じ

 模様の魔法陣があるはず 戻る時は魔法陣を探して その指輪を翳せば戻って

 これる 無くしたら帰ってこれんぞ それと ほんの僅かだが力が増大される 

 それもあっちに着いたら確認するといい」


 「! 魔法陣? マジか?」

 「おおマジだ」

 「わかった……ずっとはめとくわ…しかし どんだけ粗末に扱われてんだ

 この指輪」

 「まあ わしの後任も現れないと思っていたからな ガハハハ 」

 とりあえず預かった指輪を左人差し指に嵌めといた。


 「それで 支度金だが必要か?」

 「できれば家族に置いてきたいかな」

 「うむ わかった」


 長島さんが二枚の契約書の空欄部分に何かを書き足した。

『支度金として 金 佰萬圓也』続けて報酬金額の五百万を二重線で引き下に

「四百万」とした。

 

 「確認しろ 間違っていなかったら二重線に拇印を押してくれ これが百万だ」

 

 そう言うと、先ほど写真を出したロッカーの下部から少し大きめの封筒を取り

 出して手を突っ込み、帯付きの百万を取り出した。封筒には見えないがまだ

 あるようだった。


 「数えてくれ 確認だ」

 「いや、信用しているよ」

 「そうか… ほら支度金と契約書の控え 帰りに無くすなよ」

 と、ニコリと笑う。百万円と契約書を一枚、俺に渡した。手渡された帯付き

 の百万円をペラペラと中身の確認だけして二つ折りにし契約書と一緒にジーパンの

 後ろポケットに入れた。


 (しかし、益々、謎が増えていくな なんでこんなロッカーに大金入れてんだ

 この人は……)


 「長島さん、恩に着るよ」

 少し俯き加減に礼を言う。

 

 「よせよせ! それで安心して仕事に専念できるだろが ただ 仕事内容は

 他言無用 秘密厳禁だぞ それは守れよ」

 

 「ああ 約束だ だが 長島さんにもう少し聞き…」

 「待て わかってる 圭吾が聞きたい事があるのは当然だ こうしよう

 契約期間中に一つでも あちらの物を こちらに持ち込めれば詳しい事を話そう

 それが条件だ いいな?」


 「わかった」

 「うむ では明日の朝六時にここへ来い 出発だ 家族への言い訳はちゃんと

 考えておけよ あとは 免許書とか身分証明はこっちに置いておけ 何かに

 巻き込まれても厄介だからな」

 「うん わかった 明日六時ね おやすみ」


 そう言って用務員室を後にした。家までの帰り道、色んな事を考えながら歩いた。

 

 (とりあえず、由佳に金を預けて出発しよう まとめてだと驚くだろうから少し

 だけ渡して次に帰宅したとき、また渡そう。着替えはどうする?スマホも必要か?

 嫌、個人情報あるし無理だな って、言葉は? 文字は? あああああああ…) 


 あれこれ色んな事を考えてたら家に着いてしまった……



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