クリスマス―2


 ―― 十二月二十五日 夜……


 「お兄ちゃん 取りに来て」

 「……なんだ?」

 「昨日 お兄ちゃん達が来ると思っていたから 買っといたの」

 「あっ そうか」


 ケイゴ達は東京から戻り、昼過ぎにはケイゴの実家についていた。ケイゴの母

 も帰ってきて晩ご飯を済ませた後のことだ。ケイゴの妹の由佳が、用意しといた

 ケーキを小皿に切り分け準備していた。


 「ほら ケーキきたぞ」

 

 ケイゴがケイナの前にケーキを差し出した。ケイナは立ち上がり台所へ向かう。

 ケイナは、洗い物をしているケイゴの母親の足を触って抱っこの催促をする。


 「ん? どうしたの?」

 「手を洗いたいんじゃ」

 「ああ 良い子だね ケイナちゃんは どれ」


 そう言うと、ケイゴの母親がケイナを抱きかかえて瞬間湯沸かし器のお湯に、

 手が届くようにしてあげると


 「あ! 湯じゃ! 箱から湯じゃ!」

 「あら? ケイナちゃんは湯沸かし器 使った事なかったの?」

 「うん! はじめてじゃ」

 

 ケイナは手を洗い終わると、こたつに戻ってケイゴとテレジアを見て言い放つ。


 「早く! 手洗って!」

 「はいはい」

 「わかったわ ケイナちゃん」


 ケイゴとテレジアは、笑いながら台所に向かい手を洗う。ケイゴ達が手を洗う

 のを待っている間、ケイナは由佳に訪ねた。


 「……のう 由佳 ロウソクはないのか?」

 「ロウソク? あるけど 欲しいの?」

 「うん」

 「ああ ケイナは ロウソクを消したいんだよ」


 手を洗い終わったケイゴとテレジアが、こたつに入りながら由佳に言った。


 「差していい?」

 「うん」

 

 由佳は、細く紅いロウソクをケイナのケーキに差し、部屋の照明を消した。

 ケイナはロウソクの火を消した。


 「フゥー」

 「よし 食おう」

 「はい いただきます」


 由佳は照明を付けた。ケイゴとテレジアはケイナが食べるのを待っている。

 

 「いただきます!」


 ケイナはケーキに喰らいつく、その様子をケイゴとテレジアは優しい目で

 見つめてケーキを食べだした。そんな二人を見てる由佳。


 (なんかまるで ……夫婦? ううん 夫婦というより家族みたい)


 顔にクリーム付けたケイナのほっぺたをテレジアが拭き取ると、ケイナは

 テレジアが拭き取りやすいように、自分のほっぺたをテレジアに突き出す。

 傍から見れば家族に見えるであろう。


 「ケイゴ お風呂沸いてるよ」

 「ああ いいよ ホテルで入る」

 「そう? うん そうだね ホテルで入ればそのまま寝れるし」

 「ああ 明日戻るよ」

 「そう 風邪引くんじゃないよ」

 「ああ 『ウニシロ』ってまでやってるよな?」

 「何買うの?」

 「少し多めに ケイナの下着買っておいてやろうと思って」

 「うん そうしな 閉まらないうちに行きな 靴下も忘れちゃ駄目だよ」

 「ああ そうするよ 行こうか」


 ケイゴは立ち上がり玄関を出て車のエンジンをかける。ケイナは寂しげな顔を

 する由佳を見ると由佳の肩に触れ話しかけた。


 「由佳 大丈夫じゃ 心配するな」

 「ケ ケイナちゃん!?」

 

 ケイナは、そう言うと玄関へ向かい靴を履く。テレジアは荷物を玄関まで持って

 由佳とケイゴの母に挨拶した。


 「突然押しかけて 申し訳ありませんでした お邪魔しました」

 「いいのよ 何言ってるの? 何時でも来てね」

 「そうだよ テレジアさん また来てね」

 「うん ありがとう」

 「ケイゴのこと 宜しくお願いしますね」


 ケイゴの母は、テレジアに頭を下げた。


 「行くぞ」

 

 ケイゴは玄関の外でテレジアに声をかけた。ケイゴはケイナを抱きかかえると

 由佳がケイナに声をかけた。


 「ケイナちゃんも また遊びに来てね」

 「うん! また来る」


 三人は車に乗り『ウニシロ』へ出発した。


 ―― ケイゴ達は『ウニシロ』に着き買い物を始める。


 ケイゴがテレジアに値札の見方と、向こうの世界とこちらの世界の金銭的な感覚

 を説明した。


 「だいたい 金貨一枚がこっちで一万円と思えばいい」

 「フムフム 割とすぐ稼げるけど 金貨一枚なんて そんなもんなんだ」

 「ああ そうだな こっちでは『魔獣』退治なんて無いから 真っ当に仕事して

 一万円を稼ぐのは大変なんだけどな」

 「そっか ケイゴはあっちの世界の方がいいのかもね フフ」

 「それより ケイナの下着買ってあげよう 見てやってくれ」

 「うん! かわいいのがいいわね」

 「あ テレジアも買っていいからな 好きなの買えよ」

 「えっ!? いいの? やった!」


 ケイゴは一万円をテレジアに渡した。


 「それで買ってみたらいい レジで買ったことなかったよな?」

 「うん 大丈夫かな?」

 「大丈夫さ 値札見て計算すればいい 車で待ってるから」


 そう言ってケイゴは車に向かった。車に乗り込みエンジンをかけて十分くらい

 だろうか、買い物を終えたテレジアとケイナが戻ってきた。


 「ただいま ちゃんと買えたわ!」

 「そっか」

 

 ケイゴは少し笑って言った。二人が乗り込むと、ケイゴは車を駅前に向けて走り

 出した。


 ―― ケイゴ達は、レンタカーを返して徒歩でホテルに向かった。

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