クリスマス・イヴ―3


 今日は、十二月二十四日……クリスマス・イヴ


 街のイルミネーションを見て回ったケイゴ達は、長島に取ってもらったホテルに

 戻る途中、ケイゴは一軒の店に寄って何かを買ってきた。車で待っていたケイナと

 テレジアは何なのか興味津々。ケイゴは小走りで車に乗り込む。


 バタンッ

 「ううう…寒いな ケイナ後ろで これ見張っておいてくれ」


 ケイナは後部座席に座っていた。ケイゴから預かった箱を、自分の横に置き見つ

 めている。側により匂いを嗅いだ。


 クンクン

 「ケイゴ! これはグルグルじゃな? グルグルなんじゃろ!」

 ケイナは興奮しだした。


 「やっぱバレちまうか ハハハ グルグルとは形も味も ちょっと違うけど

 たぶん気に入るよ ホテルに着いたら食べよう」

 「やったぁ! グールグル グールグル」


 ケイナは後ろで歌い出した。テレジアはケイゴの横で微笑んでいた。ケイゴは車

 を前進させようとした時だった、スマホの呼び出しが鳴った。


 ピポロン ピポロン

 ケイゴはスマホを取り出し通知相手の確認をした、妹の由佳からの電話だった。

 「ん? 由佳だ なんだろう?」

 

 《もしもし どうした?》

 《あっ お兄ちゃん? どうしたの? 今日来るって言ってたでしょ?》

 《ああ 兄ちゃん 今 東京なんだよ》

 《えっ!? お母さん東京だって… 行くなら電話してくれたら良かったのに》

 《ああ 急に決まったんだよ》

 《せっかくケイナちゃん来ると思って ご飯用意してたのに》

 《ああ すまん 明日は戻るよ》

 《……うんうん お母さんが浅草で『ようかん』買ってきてだってさ》

 《『ようかん』? ……うん ああ わかるよ うん そこの店のやつな?

 わかった》

 《じゃあね 途中で電話してね ……プーッ プーッ プーッ》

 《……なんだよ『ようかん』て》


 「どうしたの?」

 「買い物頼まれた 面倒臭えわ」

 「フフ いいじゃない 買い物して帰りましょ」

 「ケイゴ! 早く行こう」


 ケイゴは車を走らせホテルに向かった。

 ホテルに着いたケイゴ達は、荷物を降ろしてホテルに入ろうとするとケイナは

 荷物そっちのけで、ケイゴが買ったケーキをの箱だけ持ち歩いていく。その姿を

 見てケイゴとテレジアはクスクスと笑った。


 ホテルの部屋に入るとケイナはテーブルに箱を置き手を洗うと言い出す。

 手を洗わないと食べれないと思っているのだ。

 テレジアが『異世界』で生活していく中で、しつけの一環として教えた。荷物を

 置いたケイゴに抱きかかえろと言う。洗面所の蛇口に手が届かないのだ。

 ケイゴはテレジアに耳打ちをすると、テレジアが代わりに手を洗ってあげると

 言い出す。

 二人は洗面所に入りドアを閉めた。

 

 ―― ケイゴの耳打ちは……

 「いいか ケーキにローソクを差して火を点けてるから 

 照明が消えたら出てきてくれ」


 テレジアは洗面所から、部屋の照明が消えたのを確認すると


 「さあ 綺麗になった ケイナちゃん 行きましょう!」


 二人は洗面所から出ると部屋が真っ暗になっていて一瞬、ケイナは足を止めるが

 すぐケーキのローソクの明りを見て近づいた。

 ケーキの前にケイゴが座って待っていた。


 「さあ 食べよう」

 「うん!」

 「そうだ ケイナ ローソクを吹き消してくれ」

 

 ケイナはテレジアを見てニコニコしながらローソクの火を吹き消した。部屋が

 真っ暗になるとケイゴは立ち上がり部屋の照明を付け準備しておいたナイフで

 ケーキを切ろうとすると


 「駄目!」


 綺麗な飾りをしたクリスマスケーキ、食べるのがもったいなくなったのか

 ケイナは、しばらく見ていたいらしい……


 ケイゴとテレジアは、テレビを見る事にした。ケイゴはリモコンを使い

 チャンネルを変えていく。テレジアが不思議そうに見ている。

 テレビでは『歌番組』をしていた。アイドルや歌手が何組か出演して自分達の曲

 を披露しているのだ。テレジアは、初めて聞く音に感動していた。


 「ケイゴ! 歌手って素敵ね!」

 「……そ そうか?」

 「そうよ! 煌びやかで素敵! 音楽もいいわ…うん 向こうには無い音よね!

 服やアクセサリーも個性的で凄くいいわ!」

 「……」


 ケイゴは思った、そして悟ったのだ。こっちの世界には、テレジアとケイナには

『毒』しかない事を……


 (テレジアと東京の店を回ったら大変な事になるな……)


 ふと、後ろを見るとクリームべっとりのケイナがいた……ものの五分で

 クリスマスケーキを見るのは飽きたようだ。ティッシュでほっぺたのクリームを

 取ってあげるとテレジアの横に行き一緒にテレビを見出した。

 ケイゴは、風呂にお湯を溜めると何も言わず風呂に入る


 (今日は疲れた…久し振りの運転は神経使うし疲れるな、明日はどうするかな)


 ケイゴは、風呂から上がるとテレジアとケイナに入れと言うがテレビに

 釘付けだ、しばらく動く様子が無い。ケイゴはスマホで今上映している映画を検索

 する。

 (……うーん アニメ原作の実写か… 映画はまたの機会にしよう)


 「……ケイナ テレビ面白い?」

 「……うん 不思議じゃ」

 「……ええ 不思議だけど素敵ね」

 「……俺は寝るぞ」

 「……うん おやすみ」

 「……おやすみなさい」


 (だめだこいつら……早く帰らないと…)


 ケイゴはテレビに背を向け眠りについた……テレビの音も気にする事無く

 スッと眠る、余程、疲れていたのだろう。


 ―― 十二月二十五日 朝 クリスマスの日……


 ケイゴは、疲れていたせいか一番遅くまで寝ていた。


 「……ケイゴ ケイゴ そろそろ起きたら?」


 テレジアがベッドに腰掛けケイゴに呼びかけた。


 「ああ…… なんだ…俺が最後か?」

 「そうよ ケイナちゃんも起きているわ ケイナちゃんケイゴ起きたわよ」

 「ケイゴ! おはよう!」

 「ああ おはよう」


 ケイナがベッドに飛んできた。


 「昨日遅くまでテレビ見てたんじゃなかったのか?」

 「ううん あたしもケイナちゃんも ケイゴが寝た後にすぐ寝たわ 早く起きて

 お風呂に入ったの」

 「そっか んじゃ俺もシャワーだけ浴びてくる」

 

 そう言ってケイゴはシャワーを浴びて支度した。


 「今日は早めに帰るぞ ……東京は疲れる」

 「うん 帰りましょう」

 「……もう帰るのか?」

 「ケイナはもっと居たいのか?」

 「うん もう少し居たい」

 「また今度こような みんなで」

 「うん」


 ケイゴ達は、ホテルを出て早めの帰路につく事にした。

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