クリスマス・イヴ ―2
ケイゴは車で自分が通っていた中学に着くと校門の前で車のエンジンを止めた。
「ちょっと長島さんのところに行こう テレジア ケイナ着いて来い」
ケイゴは少し厳しい表情だった、テレジアもケイナも感じ取った。
「おはよう 長島さん なんだい話って?」
「おお おはよう 車借りたのか?」
「ああ タクシーで移動してらんないしな」
「……そうじゃな で 話と言うのは……」
「……言うのは?」
長島は五万円をケイゴに渡し
「二人に色々買ってやれ 少ないけどな ボーナスだそれは」
「……ボーナス? はあ? 何だよそれ 用事ってそれかよ?」
「うむ お前は何を怒っているのだ?」
「怒ってなんかいないけど…… 話ってテレジアとケイナがこっちに来て、
『契約違反』とかって話じゃないのかよ?」
「『契約違反』? お前は テレジア嬢ちゃんに自ら話したのか?」
「……いや 話してないけど」
「なら 何も問題なかろう? 家に帰って『契約書』を見直せ」
「『契約書』?」
「『他言無用』してなきゃ問題無かろうと言ってるんじゃ だいたい、こんな話
誰が信じるんじゃ! ガハハハハ」
「……て 事は 俺はこのまま『異世界』探索を続けていいのか?」
「……もちろんじゃ」
「テレジア! ケイナ! 一緒に居れるぞ! まだまだ一緒に旅が出来るんだ!」
「わーい!」
「……ケイゴ」
ケイナが笑いながら飛びついてきたのは何時もの事だが、テレジアは泣きながら
ケイゴにしがみついた……ケイゴはテレジアの肩を抱き寄せた。
「大騒ぎしているところ悪いがのう わしも今日は出掛けるんだ
『クリスマス・イヴ』だぞ ケイゴも二人を連れて行ってこい」
「行くっていってもなあ この辺で見るところなんか無いんだぜ?」
「二時間かからんだろ 東京まで 見せてやれ」
「……東京か んじゃ行くか」
「泊まるなら わしが何とかしよう どうする?」
「じゃあ 頼むよ 決まったら電話ちょうだい」
「わかった! 気をつけてな」
「ああ ありがとう 長島さん」
ケイゴ達は用務員室を出た。テレジアは最後まで残り、長島に頭を下げてから
用務員室を出て行った。車に乗り込むケイゴ達を確認すると長島は一本の
電話をする。
《あ もしもし わしだ 用務員の代わりをよこしてくれ それと迎えな
あと 東京でホテルを頼む ああ 今日は込んでるだろうから ああ かまわん
取れたらすぐに連絡くれ》
―― ケイゴ達は車で洋服屋に向かっていた……
「いくらなんでも東京行くのにそれは無いよな……」
ケイゴは改めてテレジアの服装にダメ出しをする。
「素敵な服を買ってね ケイゴ ふふ」
「わらわらも!わらわも!」
「わかったよ ちゃんと買ってあげるよ そうだ 駅ビル行くか」
「駅ビル?」
「駅の中にデパートがあるん……ああ まあいい 行けばわかるよ」
ケイゴ達は駅ビルの中にあるテナントで服を買う事にした。
「俺もジーパン買っておくかな」
「わらわも ジーパン欲しい!」
「あたしも!」
「ええ? ジーパン欲しいのか?」
「前からいいなって思っていたの 格好いいし丈夫でしょ?」
「ああ そっちで売っている素材より丈夫かもな そんな事より靴買おう」
ケイゴは靴屋に向かった。テレジアに合いそうなブーツを一つ選んだ。
「テレジア サイズいくつだ?」
「え? サイズ?」
「あ そうか……ちょっと待ってな」
ケイゴは店員を呼んできて、テレジアを指差しサイズの合う物を用意してくれと
頼んだ。店員はいくつかブーツを持ってきて、テレジアに履かせて確かめながら
ブーツを決めた。
「あとは自分の好きなの もう一つだけ買っていいぞ」
「本当?」
テレジアは他の靴を手に取り、目を輝かせて選んでいる。
「ケイゴ…わらわのは?」
「もうちょっと待ってな 子供売り場はまた別の場所なんだよ」
テレジアはショートブーツを手に取り、これに決めたと言う。何でも普段は長め
のブーツじゃなく短いのが欲しいという事だ。こうして、ケイゴ達は駅ビルで
買い物を済ませ、着替えて車に戻った。
「ケイゴは着替えなくていいの?」
「俺はいいよ さあ!東京に行くぞ」
「おーう!」
「おー!」
「ラジオ聞くか」
ケイゴは唐突にラジオをかけ出した。二人は一瞬ギョッとしたがドライブスルー
を見ているのであまり騒がなかった。 ケイゴ達の車は高速に乗り、首都高に乗る
までの道を真っ直ぐ道なりに走る。
巨大なビル郡が見えてくると、ケイナとテレジアは目を奪われた……
首都高に入った。次々に交差する道路、波のように押し寄せる車……数年に一度
くるかこないかの東京に、ケイゴは、げんなりしている。
イルミネーションは夜に見てこそ綺麗なものだ。ケイゴはそれまでケイナが
遊べるようにと例の遊園地に向かう。道路もそんなに混雑は無い下町に、ケイゴ
自身この町は気に入ってるようだ。
「ねえ ケイゴ お腹減らない?」
「ああ 飯にしよう」
「ラーメンにするか?」
「ラーメン?」
「ラー?」
ケイゴは以前、テレビ番組でグルメ特集を見たとき今いる場所に程近い「美味い」
と評判の店を思い出した。車を駐車場に置き歩きで移動する。その時、長島から
ホテルの予約の件で電話が入った。
ピポロン ピポロン
《もしもし わしじゃ》
《もしもし ああ 長島さんか 取れたの?》
《ああ 取れたぞ ちと遠いが かまわんだろ?》
《サンキュー ……うん わかったそこか ああ それじゃあ》
「ホテルの予約取れたってさ」
「そうなんだ? 長島さん?」
「ああ 今日なんか空いてる所なんか無いけど どうやって取ってるんだ……」
「……ねえ ホテルってあっちの世界で『宿』の事?」
「ああ そうだよ ホテルも宿も同じだ 今でも宿って言う人もいるしな」
ケイゴはテレジア達の住む世界とこの世界の違いを大雑把だが説明しだした。
この世界には約二百の国があり、人口約七十億人ちょいで
今現在ケイゴが住む国、日本は人口約一億三千万人という。テレジア達の世界と
はっきり違うのは、この世界では魔法が一切使えないという事だった。そんな説明
をしているうちに「美味い」と評判のラーメン店に着いた。
「ここだ ここ 一度食いたかったんだよ」
ケイゴ達は店に入ると丸テーブルに三人で座り、ラーメンの説明をケイゴがした。
ケイナとテレジアは、良くわからないとケイゴに注文を任せる。
「味噌とんこつを三つ!」
「へいっ! 味噌とんこつ三丁!」
それを聞いたテレジアとケイゴは『トヨスティーク』の屋台のオヤジを思い出し
二人で顔を見合わせると笑い出した。ケイナは訳が分からず、プクゥーと剥れる。
三人は食べ終わると例の遊園地に向かった。
―― ケイナが喜ぶと思った遊園地では……
身長制限で乗りたかったアトラクションには乗れず、仕方なくお化け屋敷や子供
騙しのアトラクションで誤魔化すが機嫌の直らないケイナ。
しょうがないので近くのゲームセンターでお茶を濁した。自分達の顔が写る
プリクラは二人に好評だった様だ。
最後の目的地は、各イルミネーションを見て回るのだが渋滞にはまりイラつく
ケイゴをよそに、テレジアとケイナは街の明りに酔いしれていた……
三人で過ごす、はじめてのクリスマス・イヴは
一生忘れられないものになるだろう。
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