こたつとチョコレート


 「ケイゴ とにかく説明してくれ……どうして連れてきたんじゃ?」

 「それはあたしが答えるわ! あたし達はケイゴが変な模様に指輪を翳した時に

 光がバァ!てなった時に しがみついたのよ! だいたい あなた誰よ!」

 「……長島さん これがテレジアだ…」

 「これって何よ!これって! ちょっと失礼じゃない?」

 「……ケイゴがしゃべって 連れてきたんじゃないのじゃな?」

 「そうよ ケイゴは何も言わないもの……だいたい ここは何処なのよ?」

 「ふむ……ケイゴからしてみれば 不可抗力か……」

 「ちょっと!ケイゴ説明して ここは何処なの? この人は誰?」

 「はあ……」

 「…わしが説明しよう……」

 長島がテレジアに経緯から説明しだした……しばらくかかりそうだ。


 ケイナは、用務員室の窓にへばり付き空から降る雪を眺めていた…… ケイゴが

 横に行き話しかける。


 「ケイナ…… 雪ははじめてか?」

 「あれは雪と言うのか? はじめてじゃ」

 「……そうか あれ冷たいんだぞ?」

 「本当?」

 「ああ……触ってみろ」


 ケイゴが窓を開けケイナを抱えて手を出すように言った。ケイナは言われた

 とおりに手を出すと雪がひらひらとケイナの手に落ちていく。ケイナはニコリ

 としてケイゴに向かって


 「本当じゃ!冷たい 雪は冷たいのう!」

 「なっ 嘘なんかつかないよ……」


 「……ケイゴ 怒っておるか……」

 「……いや 怒ってないよ ケイナにも俺が住んでいる世界を見せて

 やりたかったからな……」

 「……ごめんなさい ケイゴ…」


 ケイナは涙を流してケイゴに謝った。

 長島は、その様子をテレジアに説明している傍らで見ていた……


 「ケイゴ そこの おチビさんを連れて買い物行って来い その子とこちらの

 レディに靴とジャンパーをな」

 「ああ……そうだな 『ウニシロ』ならまだ開いてるな 行くか?ケイナ」

 「うん!」

 「長島さん、一万貸しといてくれ 家によって金は持ってくるよ 

 あとチャリ借りるぜ」

 「うむ……ほれ一万 鍵はついておる 転ぶなよ!」


 ケイゴとケイナは自転車を二人乗りで買い物に出掛けた。


 「さて……テレジアさんと言ったな 何処まで説明したかのう」

 「ケイゴがお金必要ってところまで……なんであたしも連れて行って

 くれないのかしら……ケイゴったら」

 「ああ そうじゃったな……そこでわしがこの仕事を紹介したという訳だ」

 「とにかく全部話して! ケイゴは面倒臭がってしてくれないだろから」

 「……まいったのう 長くなるぞ?」

 「ええ! 元からそのつもりよ」

 「まあ……酒でも飲みながら話すかのう……」


 長島は酒を作り再び説明しだした……


 ―― その頃、ケイゴとケイナは……


 ケイナは後ろに乗るのは怖いと言い出し、ケイゴに抱きついて自転車で買い物に

 向かっていた。ケイナは車が通るたびにビクッっと目を丸くさせ怖がっている。

 ケイナにとってこの世界は、全て見た事のない景色で高揚感と恐怖感が混同して

 いた。ケイゴ達は『ウニシロ』に到着してケイナのジャンパーとテレジアのサイズ

 に合いそうなものを買っていった。支払いを済ませたケイゴ達が次に向かったのは

 靴屋だった。

 

 「めんどくせえ! そこに入るか」


 ケイゴはスポーツ用品店に入りランニングシューズをテレジアとケイナの分を

 買うと自宅に向かった。

 「ケイナ そこで待っていろ」

 「うん」

 ケイゴはケイナを降ろし玄関の外で待っているように言った。


 ガラガラガラ

 「……ただいま」

 「おっ お兄ちゃん! お母さん!お兄ちゃんだよ!」

 「なんだい 今帰りかい?」

 「……ああ」


 母親は、台所で洗い物をしていた。ケイゴは家の中に入ると真っ直ぐ自分の

 使っている洋服ダンスに向かい着替えをしはじめた。


 (着替えのついでに、いくらか持っていくか……)


 着替えを終えたケイゴは、タンスの引き出しの奥から数十万を抜き取りジーパン

 の後ろポケットに入れた。


 「……おっ お兄ちゃん!」

(しまった……由佳に見られたか……)


 ケイゴはそっと振り返ると由佳はこっちを見ていない。玄関の方を指差していた、

 その先には玄関越しにケイナがチョロチョロ動いているのがわかった。

 由佳はそのまま立ち上がり玄関を開けた。


 ケイナは白い息を吐き、ケイゴが戻ってくるのを待っていた。


 「……あっ あの子は会社の子で…… 休みの間預かって欲しいって……

 ケイナもうちょっと待っててな」

 「……うん」

 「何を言ってるの お兄ちゃん! 中に入れなよ 表寒いよ!」


 すると母親が台所から洗い物を終え、居間に来るとケイナに声をかけた。


 「寒いだろ? 早く中にお入り こたつで待ってなよ ケイゴ なんでこんな

 小さな子を表で待たせているんだい!」

 「……ケイナ おいで」


 ケイナはさっき買ってもらった、靴を脱ぎ玄関から上がって居間に来た。

 その姿はまるで人形のようでケイゴの母親も妹の由佳も目を奪われた……

 一瞬、言葉を無くしケイナに見惚れていた母親が足元に気付く、ケイナは素足で

 さっきまで裸足だったのだ、真っ黒に汚れていた。


 「とにかく こたつに入ってちょっと待ってな」

 ケイゴの母はニッコリ笑って立ち上がり風呂を沸かしに行ったのだろう、釜の

 点火する音が聞こえた。

 ケイゴがこたつに入ると、ケイナはケイゴの膝の上に座りこたつに足を忍ばせた。

 膝の上に座ったケイナは、部屋の中にあるテレビや照明を見ては不思議そうに

 眺めている。

 突然、ケイナが声を出した。


 「ケイゴ! 暖かい なんじゃこれは!」

 こたつの暖かさに気付きはしゃぎだしたのだ。ケイナはケイゴの膝から降りて

 こたつ布団を捲り、こたつの中に頭を突っ込んだ。

 

 「暖かい! 暖かいぞ! ケイゴ これは何と言うんじゃ?」


 興奮して、こたつから顔を出すケイナ。ケイゴがケイナの質問に答えたり二人の

 やり取りを見ていた由佳は、随分と兄に慣れているんだなと思った。


 「ケイナ お腹 減ってないか?」

 「うん ケイゴ グルグルは?」

 「ああ グルグルか 今は無いな 明日買ってこよう」

 「明日か……」

 「なんだケイナ そんなに気に入ったのか?グルグル」

 「……うん」

 「お兄ちゃん……」

 「なんだ?」

 「グルグルって何?」

 「ロールケーキの事だよ グルグルしてるからな ハハハ」

 「……」


 由佳は立ち上がり、自分の机の上にあったポテチとチョコレートを持ってきた。


 「食べる?」

 「ああ サンキュー」


 由佳はケイナに尋ねる。

 「ねえ 名前は何て言うの?」

 「ケイナ!」

 「……」


 ケイナは目の前に置かれたポテチとチョコレートに興味があるのか、由佳の顔を

 一向に見ようともせず、お菓子から目を離さないでいた。


 「ケイゴ! 開けて」

 「はいはい ちょっと待ってな」

 

 ケイゴはチョコレートについた銀紙を剥がし割ってケイナの口元に持っていくと

 パクッと小さな口でチョコレートを食べる。


 「美味い! あのグルグルほどではないが 美味いぞこれ! 何て言うのじゃ?」

 「ああ それはチョコレートな んでそっちがポテチ ポテチは芋で

 出来てるんだぞ」

 「これは芋なのか?」

 「ああ 芋を薄く切ってパリパリに揚げたものだ」

 「ケイゴ! 開けて」

 「はいはい ちょっと待ってな」


 それを見ていた由佳がデジャブを感じたのは言うまでもなかった……


 母親が台所から戻ってきた。お茶を入れていたようだ、お盆にはコーヒーと

 ココアが乗っていた。


 「良く冷ましてから飲みな 暖まるよ」 

 「ケイゴ その子お風呂入れてあげな 一人じゃ入れないんだろ?」

 「ああ」

 「もう少しで沸くから あと由佳」

 「何?」

 「靴下なかった? 新しいの」

 「無いかも……買ってこようか?」

 「ああ いいよ別に 靴下なんか」

 「何言ってるの 風邪でも引いたらどうする気!」

 「……ああ」


 由佳はついでに自分の買い物があると言って近くにあるコンビニへ買い物に出た。


 「仕事はどうなの?」

 「まあボチボチ……」

 「携帯どうしたの? 由佳が 繋がらなかったり繋がったと思えば

 知らないおじいさんが出るって……」

 「充電するところ無くてな」

 「……そうなの? 毎月ありがとうね……」

 「いいよ 由佳はもう休みに入ったのか?」

 「今日からだよ 今日二十三日だよ?」

 「ああ……クリスマスか 一年早いな……」

 「あっという間だね 今月は何時まで居れるの?」

 「居ても二~三日だな」


 ケイナは知らない顔をしてココアを飲んでいるが会話をちゃんと聞いていた。

 母親と妹がいる事は以前、聞いた事があった。

 親とは兄妹とは、どんものなのだろう……ケイナは母親や妹の表情を読み取り

 自分なりに解釈していた。


 ピロピロピロ ピロピロピロ

 電話が鳴った。由佳がコンビニからしてきたのだろうか、ケイゴは電話を取る。


 《もしもし》

 《おっ やっぱりおったか わしじゃ》


 (いけねえ!すっかり忘れていた)


 《すまん! 連絡するの忘れていたよ》

 《いや かまわん こっちもテレジア嬢ちゃんに説明終わったところだ……》

 《悪いな……説明までさせて》

 《でだっケイゴ 二~三日こっちに泊まっていかんか? わしがホテルは予約を

 入れといたから駅前のビジネスホテルじゃ 》 

 《わかった ケイナ風呂入れたらそっち行くよ じゃあ》

 長島からの電話だった。テレジアには『異世界』行きの経緯を説明し駅前に

 ホテルを取ったとの事だった。


 「何? 出掛けるの?」

 「もう一人連れがいるから 駅前のホテル行くよ 予約入れたみたいだ」

 「そうかい……お風呂沸いてるよ」

 「ああ…… ケイナ入るか」

 「うん!」


 ―― 風呂から出ると新しい子供用靴下と下着がタオルと一緒に置いてあった。

 由佳はコンビ二から戻ってきたらしい。ケイゴはケイナの体を拭き、下着を着せ

 るとケイナが由佳の前に来た。ケイナは由佳を見続けていた。


 「ああ ケイナは由佳に キレイキレイして欲しいんだろ」

 「…キレイキレイ?」

 「髪を乾かし櫛でといて欲しいんだよ」

 「……そ そうなの?」

 「ケイナ! 俺がしてやろうか?」

 「駄目じゃ! ケイゴはだとテレジアが言っておった」

 「ケ…ケイナちゃん? 髪を乾かして欲しいの?」

 「うん! キレイキレイして」


 由佳は、とろけるような顔になりケイナに言う

 「…じゃ じゃあ その前に服を着て 風邪引いちゃうよ」


 ケイナは着てきた服を由佳に渡して着せろと言う。由佳はケイナに服を着させて

 ドライヤーを用意した由佳にケイナは正座しろという。


 「由佳 ここに座って!」

 「え? ここに?」

 「そう!」


 ケイナはポンポンと畳を叩く。

 由佳はケイナの指示に従い、居間の隣の部屋で座ることにした。


 それを見ていたケイゴは少し笑いながら由佳に言う。

 「……由佳 正座だ正座」

 「正座?」

 

 ケイゴに正座と言われ、その通りに正座すると由佳の太ももにケイナが

 ちょこんと座った。由佳は顔を赤くしてオドオドしている。


 (……超可愛いんですけど)


 そんな事を思う由佳を尻目にケイナは

 「早く! 早くキレイキレイして!」

 

 髪を乾かせと急かすのだった。由佳がドヤイヤーのスイッチを入れた。


 ブゥオオオオオオオ

 ケイナは、その音と暖かい風に驚きケイゴの後ろに走って逃げてきた。


 「ハハハ ケイナはドライヤーはじめてだもんな ハハハ」


 ケイゴはケイナを見て笑った。

 「大丈夫だよ あれは髪を乾かす道具だ こっちじゃ皆が使っているんだ」

 「……そうなのか? 大丈夫なのか?」

 「ああ 由佳 ちゃんと乾かしてやってくれ」

 「うん ケイナちゃんおいで」


 ケイナは由佳の元に戻りドライヤーを当ててもらう、最初のうちはビクビク

 していたケイナも徐々に慣れ、緊張で強張っていた顔もほぐれていった。

 次第にケイナは気持ち良さそうに目を瞑る。


 ブゥオオオォォ……

 ドライヤーの電源が切れた。由佳が、髪は乾いたから終わったと告げた。


 「ありがとう! 由佳」

 お礼を言われ由佳は、またとろけた顔になる。 

 

 ケイゴは立ち上がりタクシーを呼んだ。そのままテレジアを拾い駅前に向かう

 ようだ。


 「由佳 この辺で観光名所ってあったか?」

 「……お寺とかそういう所?」

 「…お寺とか行ってもなあ」

 「……ほんと何も無いところだもんね この辺…… あ お兄ちゃん 携帯

 持っててよ それに時々 変なおじいさんが出るよ」

 「……ああ 変なおじいさんじゃないんだけど わかった」

 「とりあえず明日も来るわ じゃあ」

 「気をつけてね」

 「またね お兄ちゃん」

 

 キキキー

 丁度、タクシーが家の前に止まったようだ、ブレーキの音がした。ケイゴは

 ケイナの靴を履かせると玄関を出た。ケイナも玄関を出ると外に出て

 振り返り一言。


 「ごちそうさま!」

 

 そう言うと二人はタクシーのトランクに自転車を乗せて、テレジアを迎えに

 中学校の用務員室に向かった……

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