極楽


 ―― すでに四十分は経っているだろう…… テレジアとケイナは風呂から出て

 こない。俺は、風呂場の前に立ち声をかける。


 「おーい まだかあ? ちっと長くないか? ……おーい?」

 「……もうあがるわ あっ氷できてると思うわよ 持っていったら?」

 「……開けるぞ」

 俺は風呂場のドアを少し開けた。

 「大丈夫よ お風呂に浸かってるから見えないわ… ふう……」

 

 俺は、風呂があるほうを覗いてみると二人で湯に浸かり目を閉じていた。

 「…いい加減出ろよ ケイナも…… 体が小さいんだし長風呂は良くないぞ」

 「……ケイゴ」

 「なんだ?」

 「ケイゴは 極楽と言っておったな……」

 「あ…ああ」

 「……まさに極楽じゃ 風呂最高!」

 ケイナはカッと目を開き、一言言うと再び目を瞑り小声で


 「……極楽じゃ …極楽じゃ」

 と、繰り返していた……

 「お前ら 大変な目に合っても知らないからな……飯行かないのかよ」

 「テレジア ケイナに何かあったらどうすんだ? お前責任取れるのか?」

 俺は少し脅かして言うと

 「……しょうがないわね 本当はケイゴが入りたいだけなんじゃない?」

 「あのな…そんな事あるわけないだろ 心配で言ってるだけだ」

 「……ケイナちゃん あがろうか」


 テレジアもケイナに何かあったらいけないと思ったのか、やっと風呂から出て

 くるようだ。どうせ今から髪を乾かしたりするし、俺も風呂に入る事にした。

 着替えを準備して椅子に座って出てくるのを待つ……


 「いいわよ 髪乾かしたら 夜ご飯行きましょう ああー 気持ちよかった!」

 「ああ その間 俺も風呂入っちゃうわ」


 俺は風呂場に行き服を脱いで掛け湯をし、すぐさま湯船に浸かった。

 

 「ああ……気持ちいい 極楽だ極楽…… 風呂最高!」

 思わず口走っていた。それを顔半分ドアから覗くケイナに見られていた……

 少しするとケイナは消えていった。


 (……ケイナと同じ事を、言ってたの聞かれて恥ずかしいわ)


 風呂から上がるとテレジアとケイナも準備がだいたい終わっていた。

 「そろそろ行けるわよ 今日は何食べようか?」

 「まあ 知らない町だし近くの飯屋でいいんじゃないか?」

 「そうよね よし! オッケー 行きましょう!」


 俺達は、受付に飯を食いに行く事を伝え宿を出た。歩いて三分くらいだろうか

 飯屋が見えた。飯屋に入り適当に注文して食べ終わり宿に戻った。

 暖かい風呂に入り飯で満腹…時間も良い時間だ。テレジアの手に引かれるケイナ

 は時折、眠気で目が瞑りそうなる。


 (なんでだろう…子供に変化してるせいで普段は本当に子供みたいなんだよな)


 じっと、ケイナを見ている俺をテレジアが見て

 「どうしたの?」

 と、笑い顔で尋ねてきた。

 「いや なんでもない……」

 ケイナを抱きかかえ部屋に戻ってベッドに寝かせた俺は、テーブルにあった

 コップを持ち、風呂場で砕いた氷を中に入れて椅子に座る。

 

 俺はドレッサーに座り髪をとかすテレジアに話しかけた。 

 「なあ テレジア」

 「なに?」

 「……ケイナ 教育を受けさせてあげたいんだ」

 「……」

 「どう思う?」

 「……いいと思うわ ただ、決めるのはケイナちゃんだと思うけど……」

 「……難しいよな こんな事… よく分からないんだよ俺 考えた事ねえから」

 「…焦らず考えましょう」


 テレジアは立ち上がりケイナの横に潜り込んだ。後ろから包み込むように……


 俺はコップに酒を足し、もう少し飲む事にした。

 何時もの様に氷を回しながら……


 ―― 次の朝、一番の早起きはケイナのようだ、横になっている俺の腕を小さな

 手で掴み体を揺さぶってくる。


 「ケイゴ… ケイゴ起きて」

 「ん? ……どうした?」

 「ケイゴ! 起きたか! お風呂入ろう お風呂!」

 「……無理 もう少し寝るから ……無理」

 そう言って俺は、自分に毛布を掛け直しケイナに背中を向けた。ケイナは剥れて

 テレジアに近づく。


 (テレジアなんか俺より起きないぞ)

 

 俺は寝返りを打ち片目を開けケイナの行動を見ていた。俺にしたように揺さ

 ぶって起こすのかと思ったが、テレジアの寝顔を見て布団の中へ戻ってしまった。

 俺の視線に気付いたのかケイナが急に俺の方を見るが、目を瞑り寝たふりをした。

 薄目で様子を伺うと超ガン見していた……


 (もっと寝ていたかったが……しょうがない起きるか…)


 俺が上半身を起こすとケイナが飛びついてきた。


 「ケイゴ 今度はちゃんと起きるのか? なあケイゴ?」

 「ああ 起きるよ お風呂入るか」

 「うん!」


 俺は立ち上がり風呂にお湯を張る。後ろについてきたケイナに聞いてみた。


 「何でテレジアを起こさなかったんだ?」

 「…テレジアは寝てたから」

 「……そうか」

 (俺は寝ていようが構わない訳ね)


 「今日は 部屋探しと俺とテレジアの知り合いカインさんに会う ちゃんと

 テレジアのいう事聞いてな」

 「うん カインとは誰じゃ ハインツの仲間か?」

 「ああ それもそうだけどケイナに出会う前 とても世話になった人だ」

 「そうか…ケイゴとテレジアが世話になったのか……」


 考古学者カイン=ヒューゲル 国の依頼で『タウマス遺跡』の再調査に来ていた

 が、宿がある『アインティーク』へ帰る途中『魔獣』マジックボアに襲われそうに

 なっていたところを俺達が救い、再調査の手伝いを依頼される。しかし、遺跡に

 入るには最低でも冒険者組合の身分証明書が欲しかった。

 まだ冒険者登録していなかった俺達は保証人になるので登録して欲しいと

 頼まれる。この時、俺とテレジアは冒険者登録をしたのだ。

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