テンガロンハット


 俺達は森のふもとで一泊し 宿場町『スガーク』に到着した。とりあえずは、

 食事だ。満腹になるまで注文し、食い終わると宿を探した。

 三人で雑魚寝ができる安いプランで、宿は難なく確保できたが……

 最大の問題、サポーター探しだ。

 

 「どうする? 一応 組合行ってみるか?」

 「そうね 行ってみましょう! って ケイゴ一人で行って来て!」

 「ん?どうした 行かないのか」

 「あたしとケイナちゃんはお留守番しとくわ ね!ケイナちゃん」

 「あっそ? それじゃ見てくるけど ケイナ 大丈夫?」

 「うん 大丈夫じゃ」


 ケイナはニッコリして俺をみてる。そっか、テレジアにも慣れて『後追い』しな

 くなった。心配いらなかったようだ。

 

 俺は宿を出て『スガーク冒険者組合』に足を運んでみた。中に入ると六十~八十

 人くらいだろう。冒険者、依頼主、サポーター、組合員と ごった返してる。

 俺は黙ってサポーターを探していた。聞き耳を立てずとも、賃金交渉や依頼交渉

 、様々な会話が入ってくる。


 (交渉はテレジアのほうが得意なんだよな……とりあえず声かけてみるか)

 

 「サポーターに御用はないですかー? ロバ荷台持ちですー! 

 何かありませんかー?」


 俺と同じ歳くらいだろう、若いサポーターに声をかけた。


 「一週間ほど 荷物持ち頼みたいんだけど……」

 「一週間かあ 交渉次第ではかまわないけど 兄さん予算どれくらいなの?」

 「多分 希望の金額は払えると思うぜ……でも あんたが着いてこれるかだな」

 「はぁ? ちょっと待てよ! この俺を馬鹿にしてんのか!?」

 「いやいや、そんなつもりないんだけど……はぁー ハッキリ言うわ お前…

隠遁いんとんの森』入れるのか?」


 俺はわざと周りに聞こえるよう大きな声で言った。一瞬、周囲がざわめき立った

 が地図を取り出しさらに続けた。

 

 「俺達は昨日、森の麓からこの位置まで進んだよ 次はさらに捜索を拡大する

 予定だ もちろん魔獣ヘルハウンドも倒した! 私的な探索だから何も保障はない

 んだが…今日から三~五日、そこの『ミカヅキ』って宿に宿泊している 話を聞き

 たいやつは何時でもいい 宿にも話を通しておく 俺の名前は ケイゴ ケイゴ宛

 に連絡くれ!」


 (すまん! ……若いサポーター君 宣伝利用させてもらった! 本当にすまん!)


 俺はその場を立ち去り宿へ戻った。

 受付には事情を話し、何時でも連絡を取れるよう手配した。部屋に戻ると二人が

 見当たらない。どこかへ出掛けたのだろうか……


 (まあ……せいぜい、その辺ぶらついてくるか買い物にでも行ったのだろう)


 しばらくするとドアのノブを捻る音がした。


 カチャ

 小声でテレジアがケイナに話してるのが聞こえる


 「いい? まだ行っちゃ駄目よ あたしの後ろに隠れていてね」

 「……うん わかった」


 何を企んでるんだか……知らん振りをして地図を見てる振りをした。


 「ただいまー!」

 「なんだ 買い物してたのか」


 (両手に抱えきれないほど……何を買ってきたんだ一体……)


 「ケイナはどうしたんだ?」


 (後ろにいるのは分かっている…手が見えてるしな)


 俺は笑いそうになるのを我慢して、わざと聞いてみた。


 「今よ! ケイナちゃん!」


 ケイナはテレジアの後ろから出てきてクルッと回った。どうやら服を買っても

 らったらしく俺に見せて驚かそうとしたらしい。ケイナは短パン、タンクトップ、

 テンガロンハットをかぶっていた、まさにテレジアスタイル。クルッと回ったのも

 テレジアの演出だろう……


 「おおっ ケイナ! その服どうした? テレジアに買ってもらったのか うん

 とても似合うぞ!」

 「ケイゴ……可愛いか? 似合っておるか?」

 「ああ もちろんさ!」


 ケイナはニッコリしてテレジアの方を向いた。

 「よかったね! ケイナちゃん そしてケイゴにも ジャジャーン! これ」

 「……おい いいのかよ これ? 高かったろ…」

 「いいわよ いつも助けてもらってるお礼よ!」

 「ありがとう テレジア…」


 テレジアは俺に真っ黒いテンガロンハットをくれた。『隠遁の森』に入る前この

『スガーク』に寄った時、帽子屋の前でこれを見てたのを見られていたのか……


 「お前たち これだったんだな? 『隠遁の森』の麓でキャンプした時コソコソ

 話してたのは」

 「フフン! 内緒よ ね!」


 ケイナもニッコリ笑った。


 「それで 他に何を買ってきたんだ?」

 「フフン! ケイナちゃんの服よ!」

 「全部?」

 「もちろん!」

 「……これから準備して森に入るってのに……荷物増やしてどうすんだ……」

 「てへっ いやあ……見ていたら次々欲しくなっちゃって」

 「……『てへっ』じゃねーから……せめて家でも借りてから服なんか買えば

 いいんだよ もっと先に買うものがあるだろ……」

 「家? んー 家ねえ…… ねえ! 家借りたら?」 

 「金額次第だろうな……宿借りたりするより お得なら家借りた方がいいだろ」

 

 (いずれ借りるつもりではいたが…… ケイナもいるし早目に考えるか)


 「とりあえずは宿でしのいで 早目になんとかするよ」

 「そうね ところでサポーターの方はどうなったの?」


 俺は『スガーク冒険者組合』でのやり取りを掻い摘んで説明した。

 

 「そっか…… いいんじゃないかな 噂はすぐ広まるはずよ ここは他の町と

 違って大きくないし 二日あれば町全体に広がっているわ」

 「そっか 待つとするか それと 二人が買い物してる間 考えてたんだが……」

 俺は、次回の探索コースをテレジアに見せた。『ツキジナーク』へ裏から回る

 南下コースの予定だ。


 「……これだと 『隠遁の森』だけで一週間かかるわね 湖沿いの探索を含めた

 ら倍の二週間てところかしら……」

 「サポーターの方には一週間と言ってるから森だけの探索だな 今回は」

 「いいわ 一週間コースで 日数延滞したら日割りの報酬払えば問題ないわ」

 「それでいくら払えばいい? 通常の設定金額じゃこないだろ……」

 「そうねぇ……少し待ってて 明日あたしが組合に行って情報を探ってくるわ」

 「頼もしいな…あ 魔石も売ってきちゃえよ ついでだ 宿代くらいになるだろ」

 「オッケー そうするわ 何てったってSランクの魔石よSランクの! 

 ああ 困るわ また噂になっちゃう! どうしましょ!」


 (いや…あんた…ガクガク震えてただけだし 魔石拾っただけで戦闘してないし)


 そんな話をしていた俺達をよそに、膝の上に居たケイナは眠ってしまった。

 はじめての旅に、初めて見るもの、初めて食べるもの……初めてづくしで疲れて

 しまったのだろう。俺はそのままケイナを横にして毛布をかけた。


 「ねえ ケイゴ…… 森の麓でキャンプした時ね この子ったら 『テレジアは

 仲間じゃ ケイゴがそう教えてくれた』って言うの なんか嬉しくなっちゃった」


 テレジアは小さな声で言った。

 俺は黙っていた……本当はテレジアにもケイナの『全て』を知ってもらい受け

 入れて欲しいが… 何時か本当の事を、話せる時が来るといいなと思った。

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