スガークの章

ちょっと『アレ』


 「ううん……ここは……」


 テレジアが目を覚ました。昨夜『フェンリル』を見て、その場で倒れてしまった

 のを、俺がキャンプしてた場所まで抱えて戻ってきてたのだ。もうすっかり夜が

 明けていた。


 「よう やっとお目覚めだな」

 「…ケイゴ おはよう って オオカミー! 大きいオオカミがいたのよ!」

 「……ん? な 何の話だ?」

 「いや だから昨夜……あれ? キャンプしてた場所じゃない? ここ」

 「ああ 俺が抱えて戻ってきたんだよ」

 「ちょっ! 変な事してないでしょうね?」


 テレジアは真っ赤になり胸を押さえた。


 「……そんな事してないから安心しろ」

 「ちょっと! なんか それも失礼なんじゃない?」

 「どっちなんだよ! 説明するぞ! 昨晩ヘルハウンドを追っかけたよな?」

 「うん 覚えてるわ」

 「そんであいつ等 急に居なくなっちまったよな?」

 「そうよ! あいつ等 居なくなったのよ 覚えてるわ」

 「それでだ 引き返そうとした時 お前は急に倒れた って訳だ」

 「そうそう 引き返そうとした時 ……ぎゃあああ! オオカミよ! そこに

 大きなオオカミがいたのよ!」


 「いや…… いなかったのだよ …テレジアさん それは何かの間違いだろ」

 「何なの? 間違いって あたしは本当に見たのよ!」

 「じゃあ聞くが なんで俺達は無事なんだ? 俺は見ても会ってもいないぞ」

 「うーん なんでかしら? ちょっと腑に落ちないけど まあいいわ 二人とも

 無事だったんだしね!」


 テレジアはニッコリ笑ってそう言った。


 (……テレジア最高!)


 「ケイゴ……誰なの…その子……」

 

 ケイナがひょっこり俺の後ろから顔を出した。が、すぐに隠れた。

 

 「…あっ この子な…… う うん…… テレジアが倒れたところの側にいたん

 だよ 何でも 森に入り込んで迷子になっていたらしい……詳しい事は分からない

 んだが……ずっと一人だったとかで、親もいないらしい……」

 「え? この『隠遁の森』に入って迷子? 嘘でしょ? 魔獣は!? 今居るここ

 は結構な奥地よ? 奇跡でしょ!? それに親が居ないって……

 どうやって生きてきたのよ?」

 

 「……ああ きっ 奇跡だよな 普通…は…」

 「…ところで なんでその子 裸なのよ? ケイゴ! あんたまさか……」

 「はっ はぁ? なっ 何言ってんだお前! 俺が何かする訳ねーだろ! 森を

 徘徊してたら枝とかに引っかかって ぬっ 脱げていったらしい…んだわ…」

 「……ありえないわ…」

 「うっ 嘘じゃねーよ! 子供に何すんだよ? そんな趣味ねーよ!」

 「……まあ いいわ でも無事でよかったわね! もう大丈夫よ お姉さん達が

 守ってあげるから!」

 「……」


 (…なんとか 誤魔化せそう……テレジアがちょっと『アレ』で助かった……)

 

 「ねえ! ねえねえ! お名前はなんていうの?」

 ケイナは、俺の後ろに隠れ黙っている。テレジアはケイナに興味津々だ。


  ここで俺とケイナは昨晩の事象を利用して『頭の中で意識を飛ばし合い』会話

 をしたのだ。


 〈ケイナ 名前聞かれてるぞ 答えないのか?〉

 〈…ケイゴが居れば良い……なんじゃこやつは…馴れ馴れしい…〉

 〈そう言うなよ これから旅するんだろ? テレジアも俺の仲間なんだ 俺と

 だけって訳にはいかないんだぞ? さあ 新しい名前を教えてやれ〉

 〈……わらわは ケイゴが居れば良いのじゃ……〉

 〈ケイナ〉

 俺は少しだけキツイ顔をした。


 〈…… わかった…… ケイゴがそこまで言うなら……〉


 「……ケイナ」

 ケイナは顔だけ俺の後ろから出し名前をテレジアに教えた。


 「いやああああ! かわいいいいい! ケイナちゃんて言うのね?」

 テレジアは、すっ飛んで来てケイナを抱きしめた。


 「あああ! プニプニして気持ちいい! かわいいわ! もう たまんない!

 あら? なんか獣臭いかも? でもいいわ! お風呂入ればオッケーね!」


 テレジアは興奮してる……こりゃ…これからの旅が大変だな……

 ケイナは頭を揺さぶられ、白目をむき放心状態になってる。


 〈……ケイゴ…… もう駄目じゃ…… こやつ……喰いちぎっても良いか?……〉

 〈うわぁぁ! やめろやめろ! 絶対そんな事しちゃ駄目だからな!〉


 「テッ テレジア! もうその辺でやめてやれ! ケイナが嫌がってる!」

 「えっ? そんな事ないわよ ねえ? ケイナちゃん!」

 「いいから……ケイナおいで」


 俺は、ケイナをテレジアから保護するため抱きかかえた。


 「もう わかったわよ! その代わり町に戻ったら一緒にお風呂よ!」

 「嫌じゃ! 風呂とはなんじゃ!」

 「もういい!風呂の話は後にしろ テレジアは服を貸してくれ 裸のままじゃ

 虫に刺されたりするし なんでもいいから着させてやってくれ」

 「そうねえ タンクトップの肩を結んで短くすれば 着れるかしら…」

 

 テレジアはリュックからタンクトップを取り出し、両肩の部分を結んで短くした。


 「ちょっときなさい ケイナちゃん」

 「ほら いってきな」

 「……」


 ケイナはを下から俺を、じっと見つめるとテレジアに近づいていった。テレジア

 はケイナに服を充て、丈が引きずらないかみてる。


 「うん! 大丈夫そうね ケイナちゃん もう少しだけキレイキレイしようか」


 そう言うとテレジアは、折畳み式の簡易シャワーを取り出した。やっぱ世話好き

 なんだよなテレジアは、ちょっと『アレ』だけどいいやつだ。


 「ケイナ ちゃんと言うこと聞いて キレイキレイしてもらえよ」


 テレジアが組み立てるシャワーを不思議そうに見てるケイナに俺は言った。

 ホースと容器の穴から水が出ると、ケイナは振り返り嬉しそうに俺を見た。


 「テレジアー 頼んだぞ 焚き木 取ってくるよ ケイナ お留守番頼むぞ」

 「オッケー って ケイナちゃん 駄目よ! こっち戻って」

 「嫌じゃ! ケイゴ! 待って! 独りにしないで!」


 俺は驚いた……ケイナが泣き喚きながら走ってきたのだ。不安になってしまった

 のだろう、俺は焚き木集めを取り止め、側でケイナのシャワーが終わるのを待つ事

 にした。最初の内は、しょうがないか。ケイナが慣れるまで一緒にいてやろう。

 

 ケイナは、テレジアに体や髪を洗ってもらいセーブストーン『ファイア』の前で

 髪をブラシで乾かし整えてもらう。すっかり慣れたのか、テレジアの膝の上に

 座ってニコニコしている。


 「そういやあ テレジアもケイナも髪がサラサラなんだが 何故なんだ?」

 「フフン! いいところに気がついたわ ケイゴ! 『ヘアの実』から作った

 整髪料ってとこかしらね 当然 口にしても平気 無毒よ!」

 「ほほーう さすがだな」

 「フフン! まあね 今度 ケイゴにも少しだけ分けてあげるわ」

 「…… ああ… そん時は 頼むわ……よし!」

 

 俺は地図を出し、現在地の部分に印をつけテレジアに話した


 「何したの ケイゴ?」

 「一度、『隠遁の森』を出て町に戻る。予定では後二日だったが変更だ これか

 ら戻って準備しなおそう」

 「…そうね わかった 一度戻りましょ 『スガーク』ね?」

 「ああ 必要なものは『スガーク』で揃うのか?」

 「蓄積アイテムなんかは問題ないんだけど荷物持ち サポーターが欲しいわ」

 「『スガーク』にサポーターいるのかよ? それに目的地が『隠遁の森』って

 わかって引き受けるやついるか?」

 「問題は そこよね…… まあなんとかなるでしょ! ね!ケイナちゃん」


 ケイナは、テレジアの振る舞いにかまわず心配そうにケイゴをみた。


 〈ケイゴ…… わらわのせいで引き返すのか?……〉

 〈いや そんなんじゃないから心配すんな 俺の見込み違いだった 森を甘く

 見積もりすぎてたよ 〉

 〈そっか ところでケイゴ こやつ テレジアの毛繕けづくろい中々だったぞ なんか

 フワフワした感じじゃった 〉

 〈テレジアにも 甘えていいんだぞ 俺達は仲間だし家族みたいなもんだから〉

 〈……仲間 ……家族〉

 〈そうだ! 大事な仲間だ 俺は そう思っているよ〉


 「よし! 一度 戻ろう」

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