第4話 梶湊の『9月21日』 エピソード2

 助けられないのはわかっていた。

 だけど、助けたいと思った。


 気づいたときには俺は時間を戻す能力を持っていた。

 戻したいと思えば人の意思に反して時間は簡単に戻せる。

 だけどこの力はにはいくつかの制約がある。


 一つ目は、だけ時間を戻すこと。

 時間を戻したいと思った自分自身の時間は戻らない。つまり、俺の以外時間が戻るだけで、物理的に言えば、無限に時間を戻せば俺だけひとり年老いていくことになる。


 二つ目は、戻る時間は戻したいと思ったその瞬間からきっちり12時間ということ。


 そして、タイムリープしたとき、自分以外の運命や未来を大きく変えることはできない。

 例えば、俺が意図的に人に衝突すれば、その人は本来するはずのないリアクションをする。だけど、そのあとは本来の日常にパズルのピースをはめるように戻っていく。それに、俺はタイムリープした世界で人を殺したり、けがをさせたりすることはできない。


 これがいままでこの能力と向き合ってきた中で見つけた、この能力の使用条件だ。


 だから、彼女がホームから落ちた瞬間だって、もちろん彼女を助けられないのはわかっていた。俺が彼女の運命を変えられないことはわかっていた。


 クラスメイトの宮本雅は駅構内の転落事故で死ぬ。

 

 あきらめようと思った。

 どうしようもないことだ、と。 


 だけど、タイムリープした9月21日の宮本雅には違和感があった。

 

 9月21日に感じた、彼女の雰囲気と、タイムリープした9月21日の彼女の雰囲気が違った。正確に言えば、9月21日に感じた違和感が薄れている、そういう違和感だった。


 そもそも、9月21日に俺が自転車で帰ることをやめて、電車で帰ることにしたのは、その日の宮本雅の様子がおかしかったからだ。その日の彼女はどこか違った雰囲気で笑っていた。


 なのに、タイムリープした9月21日で、彼女がいつもの彼女に戻った気がした。


 その答えは、3回目のタイムリープで明確になった。

 宮本雅は、俺と同じようにタイムリープしていない。

 タイムリープした9月21日の世界に俺と宮本雅が取り残されている。


 少し考えて、やっとわかった。

 そして、うれしくなった。

 もしかしたら、宮本雅は生きられるかもしれない。


 


 





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