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「そう言えは彼はどうしたの?」
「彼、ですか?」
「ほら、あの背の高い子。花菱くんみたいに無愛想じゃなくて笑顔の可愛いあの子だよ」
バイトの斉藤君の事を言っているとしても、無愛想は余計だな。しつれーな。自分でも分かってるっての。
「今日はいないの?」
「斉藤君なら今日は休みです」
「えー、残念」
そらお可哀相に、なんてね。
「それじゃあ、今日は花菱くんがお相手してくれるんだね」
純日本人の男のくせに軽々しくウインクを飛ばしてくれる。はぁ? 誰に向かってしてんだよ。我男ぞ? 男ぞ?
「しません」
「つれないなぁ」
「お酒ならいくらでもお作りしますけど?」
少し意地悪な顔つきで返すと、にやりと笑って常盤さんが言う。
「それじゃぁ、腕が鈍ってないか確認しないとね。次はドライ・マンハッタンにしようかな」
「かしこまりました」
ドライ・マンハッタンは常盤さんの好きなカクテルで、多分今までで一番多く作ったカクテルだ。キリッと辛口のその酒は、嫌に常盤さんに似合う。スーツもスマートに着こなすし、余裕たっぷりって感じで纏っている空気さえもいい男。仕事も出来て金も持ってる。けどそれを鼻には掛けていない。男としては尊敬できる人だ。
まぁふざけている時点でプラマイゼロみたいなとこもあるけど。
「お待たせしました。どうぞ」
琥珀色に輝くグラスを差し出すと、目をパッと開き、嬉しそうに口に運んだ。時間を掛けて飲み込むと余韻を楽しむように深く息を吐く。
「相変わらず美味しいね」
満足してもらえたようで良かった。
「どうもありがとうござ」
「今度は私の為だけにこのカクテルを作ってくれるかい?」
「は」
素直に礼を言おうとすると、耳元でそう囁かれる。
「花菱くんの作った酒だけで夜を明かしてみたいなぁ、二人っきりで」
「は」
きっと視線を合わしたその表情はひどいものだっただろうが、もう気にもしない。この人とはこれが普通なのだ。
「俺は女の子が好きなんですけど」
「奇遇だね、私もだよ」
そう言ってへらりと笑う。こういう掴めないところが苦手なんだと思う。けど、こういう所が嫌いでもない。
「愛はね、平和だよ、花菱くん」
お願いだから、純粋な斉藤君にちょっかいは出さないでと、祈るばかりだ。
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