LOVE is …

カゲトモ

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 カロン、とベルが聞こえたのでそちらに顔を向けた。開きかけた唇がビクリ、と止まってから本来の役目を果たす。

「・・・いらっしゃいませ」

「こんばんは、花菱くん」

 にっこりと高貴な微笑みを浮かべ高そうなスリーピースのスーツ姿で現れたのは・・・俺の苦手な人だった。

 数少ない俺の苦手なその人はいつもの調子で注文をする。

「ドライ・マティーニをお願いできる?」

「かしこまりました」

 注文する言葉さえもキザったらしくてまるで映画に出てくるクサい二枚目俳優みたいだ。顔も二枚目なのがちょっと腹立つ。良い歳したおっさんなのに。

 常盤栞、女性みたいな名前だがその実、彼はモバイル会社の経営者で超が付くほどの金持ち。ここへは蘭子さんの紹介で来たと初めて来た時に言っていたが、二人揃って来店したことは今だに無い。蘭子さんの気持ちもなんとなく分からなくもないが。

「お待たせしました」

 最後にオリーブをぶっさして目の前へ滑らせると、途端に嫌な感触を覚える。俺の手に自分の手を重ねてきやがったのだ。

 気色悪い。ここはそーゆー店じゃねぇ。

「常盤さ」

「前みたいに栞って呼んでくれないのかい?」

「一度も呼んだことねーわ」

「こらこら、私はお客さんだぞっ」

 そう言って常盤さんは満足したのか、はたまた俺の額を突こうとしたからなのか、重ねていた手を開放してくれた。その隙に急いで手を引く。

「まったく、久しぶりに来たから怒っているんだね。ごめんよ、いろいろ私も忙しくてね。怒らないでくれよ、花菱くんは可愛いなぁ」

 うるさい無視だ無視。

「聞いているの、花菱くん。おーいおーい、はーなちゃん」

「やめてください」

 イラッときてギロリ、と睨むもヘラヘラとしているのが癪に障る。

「もう、君。我客ぞ? 客ぞ?」

「お客様は神様ではありません」

 ばっさり言い捨てると、わざとらしく悲しそうな顔を一瞬だけ見せては、元の表情に戻ってグラスを傾けていた。

 常盤さんは始めて来た時から今のようにヘラヘラとふざけた感じで、最初から掴めない人だった。

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