第九色 ②
「あっ、もう夕日が出てる!」
「本当だ。最近日が暮れるのが早くなったね」
「お前らが山に行ったせいだろうが」
「たまにはいいじゃないか。それに、今日は中心地での見世物もないだろ?」
柑子の質問に
そのまま黙々と歩いていく。
帰宅途中、七両が琥珀と柑子の会話に加わることはほとんどなかった。
※※※
琥珀は洗い終わった食器や箸を棚に戻しながら、さきほどの夕食の時のことを思い出していた。
七両の茶碗や皿の中身はほとんど残っていて、全然減っていなかった。
「七両、どうしたの? なんか
「そんなんじゃねぇよ。ただ、腹が空いてねぇだけだ」
七両はそれ以上答えなかった。
(具合悪いのかなぁ)
琥珀がそう思いながら棚の引き戸を閉めた時、
「琥珀」
いきなり名前を呼ばれて驚いて振り返ると、
「俺はもう寝る。あとは好きにしろ」
「え? もう?」
まだ寝るような時間じゃない。別の部屋や下の階からは笑い声や話し声なんかが聞こえている。
「ああ。あんまり騒ぐなよ、いいな?」
「分かった」
「じゃあな」
「うん。おやすみ」
七両は頷いただけで、すぐに背を向けて寝室へ入って行った。
琥珀は七両を見送ると、
(あんな七両、初めて見たな)
琥珀は紅月の腹の辺りを何度も撫でた。こうしてやると、いつも気持ちよさそうに目を細めてくれる。
けれど、紅月もいつもと様子が違う。気持ちよさそうにしていても、首を左右に振ったり小さく震えたりして落ち着きがない。
(柑子は気付いてたかな?)
その時、紅月が再び身体を震わせた。
※※※
翌日、朝食を済ませた七両は窓際に腰掛けて、ずっと窓ばかり眺めていた。
(さっきからずっとあんな感じだなぁ)
「紅月、どう思う?」
琥珀は隣にいる紅月に尋ねる。けれども、もちろん紅月が返事をすることはない。
琥珀がどうしようかな、と考えていると、誰かが集合住宅の玄関を勢いよく開ける音が聞こえた。続いて階段を上がってくる足音も聞こえてくる。
七両の部屋の前でその足音が止むと、引き戸を叩く音が響いた。
「七両。柑子だ、開けてくれ!」
引き戸を叩く音で我に返った七両は、そのまま玄関に向かって歩いて行った。琥珀もその後に続く。
「柑子、どうした?」
七両が引き戸を開けた先には、浅い呼吸を繰り返す柑子の姿があった。彼は七両の肩を掴むと、真剣な表情で言った。
「七両、落ち着いて聞いてくれ」
「どういう意味だ?」
訳が分からないと言った顔で彼を見る。
琥珀も不思議そうな表情で柑子を見上げていた。
「
倒れた、と聞いて、七両は目を見開いた。
「何時だ?」
「今日の朝方だ。今、医務室に
柑子が言い終わらないうちに、七両は部屋に走って戻った。
琥珀と柑子も部屋に向かうと、七両が窓を乱暴に開けるのが見えた。彼は台帳を取り出すと、使役する龍の
七両が伽炎に乗ろうとした時、琥珀が彼の袖を掴んだ。
「七両、待って!」
七両が振り返る。
「僕も乗せて!」
琥珀が真剣な表情を浮かべてそう言ったのに続いて、柑子も溜息を吐いてから、
「一人で行こうとするなよ。ところで、伽炎は何人まで乗れるんだ?」
柑子が
「この人数なら問題ねぇよ」
伽炎は三人が乗ったことを確認すると、急いで鶯の元へと向かった。
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