第二色 ③
「お前、どういうつもりだよ!」
若い男の苛立っている声が聞こえる。
「おい! なんとか言ってみろ!」
若い男は黄色い三日月状のものを両手から出現させている。黄色い髪と同じ色の甚平を着ている若い男のヒトは小柄な体形だが、気が強く好戦的に見えた。
その時、周りにいた野次馬たちが一斉に四方八方に散らばった。
直後、三日月状のものがこちらに向かって飛んできた。
琥珀たちも慌てて避けたものの、琥珀はかわしきれず長袖のシャツとズボンには切れ目が入り、切れた部分には黄色い色が付着していた。
「琥珀、大丈夫か?」
浅葱が心配そうに尋ねる。
「これって取れるんですか?」
「取れる取れない以前に服が切れているから、着替えないと……」
浅葱が言いかけた時、常磐の怒声が飛んだ。
「
常磐が山吹の胸倉を掴んで尋問する。その形相はまるで鬼のようだ。
「俺が悪いんじゃねえ! あいつがケンカふっかけてきたんだよ!」
常磐に胸倉を掴まれたまま、山吹は相手を指さして答えた。
「あいつ……?」
常磐が顔を向ける先には、紫色の髪に同じ色の衣服を着た、坊主頭の男が立っていた。僧侶のようにも見える
「
常磐は昨日の出来事を思い出す。琥珀を空のところへ連れて行こうとした時に店に来た男だ。
「常磐、いい加減離してやれ。
落ち着いた声で常磐を
「あんた、山吹に何をしたんだい?」
「その男が道を
わざとらしく笑みを浮かべる男に苛立ったが、平静を装って彼女も笑みを浮かべた。
「そんなことはないと思うけどね。あたしはいつも通りさ」
山吹の胸倉を掴んだまま答える。
だが、彼女が手を緩めた瞬間、山吹は身体をひねり常磐の手を離れると紫紺に向かって駆け出そうとする。
それを浅葱が肩に手をかけて止めた。
「おい、山吹落ち着け! こんなところで暴れるな。
「そうですよ! このままだと本当に青鈍さんたちが来ますよ」
「うるせえ、青鈍と霞がなんだってんだ! ……って誰だよ、お前?」
自分の片腕にしがみついている琥珀に気付き、驚いた表情で訊く。
「琥珀!」
浅葱は叫んだ後、はっとして紫紺の方へ顔を向けた。
「おい、浅葱。こいつ知り合いか? お前もいつまで掴んでんだよ」
山吹は腕を払って琥珀を離した。
「うわっ!」
勢いよく払われ、尻餅をつく。
(まずい!)
常磐が琥珀の元へ駆け寄ろうした時、紫紺が呼んだ。
「常磐」
常磐を呼ぶ声に感情は感じられない。
「何だい?」
ゆっくりと振り返る。常磐は紫紺がニンゲンを嫌うことを知っている。それは浅葱も同じだ。その理由までは知らないが何かあってはと思い、昨日もとっさに琥珀を隠したのだ。
「あのガキは知り合いか?」
「だったら何だって言うんだい?」
語気を強めて聞き返す。
まだ地面に尻餅を付いている琥珀を庇うように立つと、紫紺を
「尋ねているのは俺だ。もう一つ聞きたい。そのガキはニンゲンで間違いないな?」
目の前にいる男の目は恐ろしく冷めている。深い紫色のその目に、少しも光など宿っていなかった。
琥珀はその目を見た時、ぞくりと背筋に悪寒が走るのを感じた。
その場から動けなくなる。
「紫紺さん、この子はあなたの言う通りニンゲンです。でも、この子はこの街に来たばかりで……」
紫紺は浅葱が言うことなど全く聞こえていないような素振りで、琥珀の元へ歩み寄って行く。
「どうやってここに来た?」
琥珀は正体の分からない恐怖に包まれ、答えることが出来なかった。答えようとすると、唇が震えた。体は完全に
「紫紺、いい加減に……」
常磐が紫紺に詰め寄った時、
「おい、あの赤いの何だ?」
「犬じゃない?」
前を見ると、真っ赤な何かが猛スピードでこちらに近付いて来るのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます