第二色 ②

 常磐ときわ浅葱あさぎの話では、彩街あやまちは五つの区画に分かれていて、七両しちりょうが住んでいるのは二画にかくと呼ぶらしい。街の真ん中に当たる区画(長屋が並んでいる中心地街)を一画いちかくと呼び、その中心地から遠くなるほど数が大きくなっていくそうだ。

 「じゃあ、空さんが住んでいる辺りは何画なんですか?」

 「あそこは四画よんかくだよ。ここより遠かっただろう?」

 琥珀こはくは首を縦に振る。浅葱が続けて、

 「あそこはここに比べてだいぶ静かだよ。歓楽街じゃないからね」

 「あそこは違うんですね」

 琥珀は歓楽街の辺りを見回しながら歩いていた。昨日歩いた時とはだいぶ雰囲気が違う。今は昼間だから、そう感じるのかもしれない。

 「この辺りは文房具や本を扱う店があるんだよ」

 「本当ですか?」

 琥珀は常磐が指さした店に近付いて行った。店の前にはいくつも絵が飾られている。女のヒトや子供を描いたものから犬や猫などの動物を描いた絵まで様々だ。

 それらに一つ一つ目を通してゆく。

 木製の引き戸の枠の部分にガラスがはめ込まれているので、店の中を覗くことが出来る。店内を覗くと何人か客の姿が見えた。

 「琥珀、絵に興味があるのかい? 中に入ってみる?」

 浅葱は店を指さしながら尋ねる。

 「いいんですか?」

 「もちろん」

 そう言うと、浅葱は戸を開けて中へ入った。

 「琥珀、ほら入るよ」

 常磐に促され、中に足を踏み入れる。

 中には筆や墨汁、鉛筆などの文房具の他にスケッチ用と思われる紙の束にヒモが通された状態で積み上げられていた。しかし、ボールペンやシャーペンといった物は見当たらない。

 その他にも龍や猫の形をした紙を押さえるための重しや、蛇が蜷局とぐろを巻いた形のすずりなどの変わった商品もあり、見るだけでも十分楽しめる。

 「ねえ、あっちに何かあるのかしら?」

 「本当だ。みんな同じ方に歩いて行くな」

 二人の客がガラス戸を指さして不思議そうに呟いた。その会話を聞いていた他の客たちも同じようにガラス戸へ顔を向けている。

 琥珀たちもそちらを見ると、数人通行人が同じ方向に駆け足で向かって行くのが見えた。

 「騒がしいな、何かあったのか?」

 浅葱が猫の形をした重しを元に戻してから、ガラス戸へ近寄った。

 「ちょっと外に出てみようか?」

 常磐はそう言うと、店を出た。様子を伺っているけれど、どうやらここからはよく見えないらしい。

 「ここからじゃ何が起きているのか分からないねえ」

 琥珀と浅葱も外に出て、人だかりが出来ている方へ向かった。

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