第二色
第二色 ①
朝食を済ませた後、
描かれた生き物たちのほとんどが紅色だ。少数だけれど、青色や緑色で描かれた絵もある。
ふと、目の前で同じように台帳を眺めている
「七両、どうして赤い色の絵が多いの? 紅月も昨日の龍も紅色だったけど」
琥珀は窓を開け放して
七両はこちらに顔を向けると煙管を唇から離して、
「俺の髪も目も紅いだろ?」
「うん」
琥珀は頷いた。ついでに言うと、彼の着ている着流しも色の濃さは若干違うけれど、似たような色だ。
「この街に住む奴らの特徴は自分の付けられた色の名前と同じ色を持っていることだ。能力を使う時も、自分の持つ色しか使えない」
そういえば、
確か、みんなそれぞれ違う能力を持っていると言っていた。
「七両の能力って……」
「昨日空たちと見ていただろうから分かると思うけどな。俺の能力は色を生き物に変えることだ。そいつに命を吹き込んで具現化させる」
琥珀はもう一度目の前で開いていた台帳に視線を落とした。
台帳に収められている動物たちは一見すると、ただの絵でしかない。それが昨日の龍みたいに意思を持って動き出すというのがとても不思議で、神秘的に感じた。
「七両、紙と書くものを借りてもいい?」
琥珀は、自分の後ろにいる七両に訊ねた。
「ああ。鉛筆と筆があるから好きな方を使え」
「ありがとう。じゃあ、鉛筆で」
琥珀は七両から紙と鉛筆を受け取ると、馬のページを開いた。本当は龍を描きたかったけれど、難しそうに思えたので今回は馬にした。
紙に鉛筆を走らせる。
何度か犬や猫を模写したことはあっても、馬は初めて描くからかなかなか難しい。
その様子を黙って紅月も見守っている。
「お前、絵を描くのか? 意外だな」
七両が琥珀の背後から覗き込んだ。
琥珀は紙に視線を落としたまま背後にいる七両に向かって、
「小さい頃から絵を描くのが好きで、人の描いた絵を真似して描いたり、庭に入ってきた猫を描いたりしてて」
「ふうん」
琥珀の頭に、龍の背中に乗った時に見た光景が蘇る。そこから一望した
今はすっかり夜が明けて、太陽が昇っている。
琥珀がもくもくと馬の絵を描いていると、女のヒトの声が聞こえた。
「おーい。七両、琥珀」
七両と琥珀は同時に声のした方を振り返った。
窓から見下ろすと、常磐が手を振っている。
「あっ、常磐さん! と、もう一人のヒトは誰?」
常磐の隣には薄い青色の髪の男のヒトがいた。
「あいつは
「七両の友達?」
「まあ、そんなもんだ」
常磐たちを見ると二人は何やら話している。でも、その会話は聞き取ることが出来ない。
すると、突然浅葱は屈んで地面に
琥珀は驚いて窓から身を乗り出した。
何が始まるというのだろうか。
ただの円形はいきなり噴水のように湧き上がり、浅葱と常磐を押し上げた。
驚いて一歩後ずさる。それに驚いた紅月も琥珀から離れ、部屋の中を騒々しく飛び回った。
あっという間に三階の七両の部屋の窓まで近付いた後、常磐が言った。
「おはよう、琥珀!」
軽く手をあげる常磐は昨日会った時と変わらず元気だ。ずいぶん酒を飲んでいたようだったけれど、その片鱗は
「お、おはようございます……」
琥珀は目の前の噴水めいたものに驚きつつも返事をする。すると、薄い青色の髪の男のヒトが口を開いた。
「はじめまして、僕は浅葱。君のことは常磐から聞いたよ」
「はじめまして、琥珀です。あの、二人が乗っているそれは何ですか?」
琥珀は常磐たちが乗っている青色の噴水めいたものを指さした。
「これは浅葱の能力だよ。色を水みたいに操るんだ」
「水みたいに?」
「そう。でも、あんまり長くはもたないんだ。ここに住んでいるヒトたちが色を操る能力があるって話は七両から聞いているかな?」
「はい。でも、七両じゃなくて空さんから……」
「ああ、空からか」
琥珀が頷いた後、常磐がにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「七両にいじめられなかったかい?」
冗談っぽく訊かれ、琥珀は笑ってから、
「大丈夫ですよ。昨日、七両が描いた龍に乗せてもらったんです。近くを散歩して」
「え? 本当か、七両?」
浅葱は驚いた顔を彼へ向けた。見ると、常磐も同じ顔をして、「七両が?」と呟いている。
どうやら彼らにとって、七両が自身の描いた生き物に他人を乗せることは珍しいことらしい。
「ああ、眠れないって言うんでな。気晴らしだ。それで、二人揃って何しに来たんだ?」
若干面倒臭そうに尋ねる。常磐は七両を無視して、屈んで琥珀と同じ目線になると、
「琥珀を連れてこの街を案内しようと思ってさ」
常磐は笑みを浮かべて七両に顔を向ける。
浅葱も同じように、
「この子が嫌でなければこの辺りをぐるっと回ろうと思ったんだけど、どうかな?」
七両は少しの間考えてから、
「いいんじゃねえか? 青鈍と霞に見つかるなよ。それより、お前らいい加減降りろよ。いつまでここにいるつもりだ?」
七両に注意され常磐が文句を言うのを聞きながら、琥珀は浅葱の噴水めいたものを眺めていた。
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