第一色

第一色 ①

 琥珀こはくの目の前を赤いフクロウが飛び回っている。彼が腕を差し出すと、飛ぶのをやめ腕に止まった。二本の足まで紅い色を持つフクロウだ。

 琥珀が頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。そのまま撫でていると、突然フクロウが頭をあげ一点を見つめたまま、動かなくなった。琥珀もフクロウが見つめる先に顔を向けた時、

 「おい、琥珀。そろそろ行くぞ!」

 若い男の人の呼ぶ声。

 「はい、今行きます!」

 振り返った時、目を覚ました。

 むくりと起き上がる。起き上がった直後、部屋の冷たい空気が琥珀の身体を包んだ。(今はちょうど一月だ)

 辺りを見回すと両親も妹も熟睡している。時計で時間を確認すると、ちょうど夜中の二時。

 部屋の隅には土産屋で購入した品が置かれている。

 琥珀は布団にばたりと倒れ込むと、天井を見上げながら溜息をいた。

 「今の夢なんだったんだろう?」

 それでも、あの紅いフクロウの鮮やかさは目を閉じた後も残像となって、はっきりと琥珀のまぶたの裏で飛び回っていた。


 琥珀は来年中学生になる。そうなってしまえば、部活に定期テストにと忙しくなりなかなか出掛けられなくなるだろうということで、家族で北海道旅行に行くことになった。その旅行が今日でちょうど三日目だ。父は旅行雑誌を手にはつらつとしている。雑誌を凝視したまま、

 「よし、今日は最終日だからな。美味うまいものを食いまくるぞ!」

 「お父さん、それ初日も言ってたよ。てか、食べてばっかりじゃん!」

 「何言ってんだよ、ちゃんと水族館にだって行っただろ」

 むきになる父になかば呆れながら、

 「僕、自動販売機で飲み物買ってくる」

 そう言うと近くの自動販売機に向かった。

 自分以外に人の姿はない。

 自動販売機に近付いた時、目の前を紅い何かが通りすぎた。

 驚いて顔を向けると、目の前には鮮やかな紅色のフクロウが辺りを飛び回っていた。

 「夢で見たフクロウ! もしかして正夢?」

 思わず大きな声を出していた。目の前のフクロウは夢で見たものと全く同じだった。その大きさも鮮やかな紅色も。

 琥珀は自分の中で膨れ上がる興奮を抑えながら、そのフクロウに近付く。

 フクロウを初めて見たことに加えて、その紅い色に珍しさを感じた。

 (北海道にはこんな珍しい色のフクロウがいるんだ!)

 写真を撮ろうと思ったが、カメラは父に預けてきてしまったので目の前にない。

 携帯電話もまだ小学生である琥珀は持っていない。

 (カメラも一緒に持ってくれば良かったな)

 その時、自動販売機が設置されている横の壁が赤く変色しているのを見つけた。

 (何でここだけ赤いんだろう?)

 気になり近付いて行く。覗き込むようにその色を見る。

 その時いきなりフクロウが鳴き始めた。驚いてそちらを振り返る。フクロウは黙ったまま琥珀をしばし眺めてから、壁の赤いところへ近付いていく。次の瞬間、フクロウはあろうことかその赤色の中を通り過ぎてしまった。

 (え? フクロウが消えた?)

 呆然とフクロウが消えたところを眺めていると、中から鳴き声が聞こえた。

 まるで琥珀を呼んでいるかのように。

 琥珀は迷いながらも、勇気を振り絞りその赤色に飛び込んだ。

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