第7話 答え
その日から。
僕は考えるようになる。
僕の生まれた世界。
僕を救ってくれた世界。
どちらで生きていくのが、正しいのか。
ババ様、ニチェ、アーニャ。
その他にも、向こうの世界で優しくしてくれた人は沢山いる。
傷ついた心を癒してくれて、僕に生きる道を示してくれた彼女たちと永遠に分かれることになれば、僕の心はぽっかりと空いてしまうだろう。
できることならば、向こうに住みたい。彼女たちと生きていきたい。
ならば、こちらの世界を捨てるのか?
友達も増え、楽しみも増え、なにより、僕を生んでくれた両親がいる、この世界を?
それも違うだろう。
この世界は確かに、僕に厳しくて、小さい頃は僕の事を嫌いなんじゃないかと思ってはいたけれど。
そんなことは、当然なくて。
ただ僕が、一方的に嫌いだっただけで。
今僕は、これからの人生に悲観してはいない。
ここで生きていきたいと、思っている。
桜の樹皮に、手を這わせる。
まだ答えを出す必要はない。
この樹が倒れるまでは。
この樹が死ぬまでは。
まだ時間がある。
ゆっくりと時間を掛けて、答えを出せばいい。
そんな風には、思えなかった。
僕は、この樹を殺したくはなかった。
あの日、浅ましくも死を選ぼうとしていた僕を救ってくれた桜の木。
その後も、自分の身を削りながら、僕を優しい世界に運んでくれていた、桜の木。
いつだったか、ババ様が言っていた。
「お主の世界と、こちらの世界は、輪の端と端にあるようなものじゃ。相対していて、決して見ることはできないけれど、それでもどこかつながっているのじゃ」
世界が輪でつながっているならば。
僕は桜の木の中にある年輪という輪を傷付けることで、その理を壊して、世界の間を行き来していたのかもしれない。
樹の寿命を、かつん、かつんと削りながら、行き来していたのかもしれない。
だとすれば。
今の僕は、桜の木の命によって成り立っている。
考えた。
考えて、考えて。
何度も泣いて。
何度も苦しんで。
頭を壁に打ち付けて。
叫んで。
喚いて。
どうしようもない気持ちで押しつぶされそうになりながら。
僕は答えを出した。
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