私がいるよ
「そうだよ、これはアルハザールの剣。あのヴィルデラルトのせいで、どうにも使えるようになったみたい」
「それじゃ、アリサも……」
「んー」
アルハザールの剣を壁に立て掛けると、アリサは頬を掻く。
「カナメのように、ってのは無理かな。使えるようになって分かったけど、カナメの力はたぶん「本来のレクスオール」よりもずっと上だと思う。私は後付けで使えるようにはなってるけど、なんていうのかな。世界から魔力を引き出してる感じがある」
「世界から……か」
「うん。なんていうのかな、世界に満ちるアルハザールの力を引き出してるみたいな……そんな感じ?」
その言葉に、カナメは黙り込み……何かを考えるように手を握り、再度開く。
「……
その瞬間、アリサがピクリと反応する。
「あ、カナメ。この反応ってまさか」
「
そして、カナメの手の中に赤い矢が現れる。
「……そういう、ことなのか」
あの時、帝国の地下でディオスとルヴェルが現れた時。どうして彼等が現れたのか分からなかった。
カナメは、魔法の神ディオスと縁深いわけではない。
命の神ルヴェルとも同じだ。妹神である死の神レヴェルとは縁深くなってしまったが、それは関係ないはずだ。
ならば、何故彼等は現れたのか?
その答えは、簡単だ。
この魔法があらゆるものを矢にするというのなら、世界に満ちる神々の力とて例外ではない。
カナメがそうであると認識さえすれば、それすらも矢に変えられる。
故に、繋がっていた。知らずのうちに、カナメは神々の力とも繋がっていた。
つまりは、そういうことだったのだ。
触れられぬはずのレヴェルの
そんなに前から、ずっとヒントは出ていたのだ。
当のカナメ本人が、いつまでもそれに気付いていなかった。
それに気付いていたら。カナメは……ここに至るまでの間、あとどれだけを救えたのだろう?
「こら、カナメ」
そんなカナメの頭が、軽くコツンと叩かれる。
「あ、アリサ?」
「まためんどくさい事考えてたでしょ」
「いや、そんなことは」
「そんなことあるでしょ。誤魔化そうたって、そうはいかないよ」
「そんなことないって」
「いいや、そんなことあるね」
「ないよ」
「あるって」
「ないない」
「ある……ってこら!」
カナメの頭に軽くチョップを入れ、アリサは笑う。
「まったく、もう。途中からふざけてたでしょ」
「はは……」
笑い返しながらも、カナメは軽くなっている心を自覚する。
そんな事ができるのもきっと、アリサがいるからなのだろう。
出会った時からずっと……アリサには、頼りっぱなしだ。
「アリサ」
「ん?」
「ありがとう」
「どしたの、突然」
疑問符を浮かべるアリサに、カナメは内心で苦笑する。
そう、アリサはいつもこうなのだ。
アリサにとってはこれが自然で、たいしたことはないことなのだ。
そこに何の計算もないから……だから、カナメは救われてきた。
「アリサがいなかったら、たぶん……俺はここまで来れなかったよ」
「別に私一人の力ってわけでもないし。最終的にはカナメ自身の力だよ、それは」
「だとしても、ありがとう。思えば、そんな事もずっと言えてなかった気がする」
支えられていた。
でも、カナメがアリサを支えた事なんてどれほどあっただろうか?
助けになりたいと思っていても、アリサはいつも強かった。
それは単純に力ではなく、心の話。
弱かったカナメはいつもアリサに支えられていて。
だからこそ、カナメはアリサのようになりたかったのだ。
「……いつも、アリサには助けられてた。俺の行動基準も「アリサならどうするだろう」とか、そんな事ばっかり考えてた気がするよ」
「買いかぶりだよ、それは。私はたいした人間じゃない」
「俺の英雄はアリサだよ。それはこの先、何があっても変わらない」
「重いなあ」
苦笑するアリサに、カナメも笑う。
そう、それだけは変わらない。
カナメがこの世界に来て今日にいたるまで。その根底には、いつもアリサがあった。
アリサのようにカッコよく。そんな心が、今のカナメを形作った。
「……あのさ、アリサ」
「ん?」
「俺、絶対に守るよ。ゼルフェクトに勝って、この世界を守る」
そんなカナメの言葉にアリサは、悪戯っぽく笑う。
「私はそんな事、絶対言わないけど?」
「ああ。だからこれは、アリサを尊敬してる俺自身の台詞。アリサが、じゃなくて……俺自身がどうしたいかの、決意表明だよ」
「ふーん……」
アリサはカナメの顔をじっと覗き込むと、その体を軽く抱きしめるように腕をカナメの背中に回す。
「そっか。じゃあ私も、それに付き合ったげる」
「……いいのか?」
「うん。たぶん他の誰もついてこれなくなるだろうしね。だから、私が傍にいてあげる」
感謝しなよ、と。冗談めかして言うアリサを……カナメは、強く抱きしめた。
守る。その決意を、胸に強く秘めて。
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